廃棄衣料をアップサイクルした、今話題の「commpost(コンポスト)」ブランド。研究チームやNPOと垣根を越えて協働で商品づくりを展開する、同ブランドを立ち上げた株式会社アーバンリサーチの萩原直樹様にお話を伺いました。
― 「commpost」はどのようなブランドでしょうか。教えてください。
「commpost」は、従来、傷や汚れで販売できずに廃棄していた衣類をアップサイクルしたバッグやiPhoneケースなどの商品ブランドです。common (常識、共同)とpost(投稿する、提示する)という二つの言葉を組み合わせた造語です。アップサイクルがキーワードなのですが、地球環境や私たちの働き方・暮らし方に対して、ファッションの分野からスタイルある新しい常識を提示していきたいという想いを込めて付けました。皆で新しい価値を生み出して、それを社会に共有し、常識になってほしいという意味合いがあります。
― ブランド立ち上げの際、どのようなきっかけや経緯があったのでしょうか。
2018年11月にブランドを立ち上げ、販売は同月中旬にスタートしました。交流のあった福祉系の大学の先生に「廃棄衣料の削減と障害者の法定雇用率の向上を目指したい」と相談したのがキッカケです。そこから、先生と繋がりのある企業やNPO、研究者が参加するワーキンググループを3ヶ月に一回のペースで開催するようになりました。その中で、京都工芸繊維大学大学院 木村照夫名誉教授の率いる研究チーム「Colour Recycle Network」と、大阪の箕面市で就労困難者の支援や住民主体のまちづくりをされている「特定非営利活動法人暮らしづくりネットワーク北芝」に出会い、想いが一致したことから一緒にモノづくりを始めました。当時のメンバーは、私(萩原氏)を含めて5~6名くらいだったのですが、現在は多くのメンバーが参加しています。
(オフィスシーンにも似合う、廃棄衣料をアップサイクルした「commpost(コンポスト)」)
― 現在販売されている「MULTIPURPOSE BAG」「iPhone CASE」「ITTI×commpost TOTE BAG」のそれぞれの特徴やこだわりについて教えてください。
MULTIPURPOSE BAGは、日常使いできる多用途バッグです。オフィスのデスク収納に使えるほか、はっ水性のある素材なので鉢カバーやランドリーバッグとしても使うことができます。こちらの製作は、NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝と、弊社の子会社で障害者の雇用機会をサポートする株式会社URテラス(大阪市西区)にお願いしています。この商品が多く売れることで、衣料の廃棄量を減らし、就労困難者や障害者の雇用に貢献することができます。
iPhone CASEは、現在4つのデザインで展開しています。廃棄衣料から生まれたiPhoneケースを使っていただくことで、環境意識を表示する一つのツールにもなります。研究チームColour Recycle Networkと、東大阪の町工場でiPhoneケースを生産している株式会社河島製作所との協働で取り組みました。この商品を作り始めた当初、廃棄衣料由来の繊維を混合しての成形に苦労しました。通常の成形と違い、速度や温度、縮率などの細かな微調整が必要でした。高い技術力と試行錯誤の末、納得のいくiPhoneケースを仕上げることができたのですが、完成直後はまさに『下町ロケット』喜びのシーンのようだったと聞いています。一般のiPhoneケースは中国などの安価な工場で生産されていることが多いですが、このように日本の町工場で環境に配慮したiPhoneケースを作ることで、廃棄衣料削減と日本で培われた技術力に寄与することができます。
ITTI×commpost TOTE BAGは、革小物ブランドITTIのデザイナーである青木渉さんと弊社のバイヤーが、お互いのコンセプトや商品づくりに共感したことをきっかけに、一緒に商品開発を始めました。持ち手やロゴに使われているレザーは、環境に配慮したベジタブルタンニンレザーを使用しています。
―これまでに関わりの無かった皆さんと協働で取り組む上で見えてきたこと、気づいたことについて教えてください。
学び合う機会が非常に多かったですね。福祉の面では、普段生活していると感じることのない新たな視点や多種多様な働き方について気づかされました。発売当初、予想以上に売れて生産が間に合わなくなったことがあったのですが、1つ1つ手作業というところにこだわり、持続的に互いが無理のない生産スピードになるよう心がけました。また、研究者チームは「世に出すためには100%完璧にしたい」というマインドを持っておられます。課題が次から次へと出てくるたびに丁寧に根気強く解決へと導いてくださいました。
しかしながら、商売をする私たちは「早く出して、早く世に知ってもらいたい」という気持ちがあり、少々急かしてしまうこともありました。
それぞれの分野で異なる常識(common)を持つもの同士が、共に課題に取り組み、商品を作って販売するという工程こそ、commpostならではと思います。そのため、新たな課題が出てきた際にも皆で一緒に忍耐強くコミュニケーションを取りながら模索していきました。
皆で課題に対するアイデアを出し合い、それぞれベストプラクティスを持ち寄って円滑に進めていく。これがなかなか大変なことなのですが、一緒にやらないと見えてこないこともあります。例えば、「らいとぴあ21」(北芝/隣保館)にある一般的な家庭用ミシンを使って、誰もが作りやすいように、シートの厚さや縫い方を工夫してみるといったように、垣根を越えて協働で取り組むこと、この姿勢にこそ可能性があります。commpostブランドを通じて、より多くの方々に商品の背景に共感していただき、いつの日か協働でアップサイクルすることが世の中で当たり前になっている。commpostはそのような変化をもたらすパワーを秘めているのではないかと思います。
― 商品について伺います。commpostはどのカラーも御社の特色が表れていて素敵です。カラー展開する上で意識されていることはありますか。
もともと販売していた衣服から生まれたカラーなので、結果的に弊社らしい色になっているかもしれません。衣服からモノや形が変わっても、元は同じなので自然と弊社らしくなっていくのでしょう。
中でもベージュは人気です。ホワイト系の色はダーク系と比べて中に含まれる繊維の粒が見えます。商品をよく見ると、その繊維の入り方に個体差があるのも雰囲気があり魅力の一つになっています。commpostの取り組みを拡大させるためには自社在庫だけでは素材が足りなくなるため、将来的には、他社の廃棄衣料も使わせていただきたいと考えています。他のアパレル企業社との横の展開は新たなステージですね。
―販売していく上で意識・工夫されていることや、生活者(購入者)の反応を教えてください。
店頭のスタッフ一人ひとりが、お客様に直接、商品のストーリーを理解し伝えられるように共有しています。commpostの背景や作るプロセスをお客様に伝えることで、他の商品との差異化を図り、またスタッフにはお客様に伝えるという行為を通じて、commpostの販売が社会貢献につながっている、という意識を持ってもらえればと考えています。
心地よいライフスタイルを提案することをコンセプトにした「URBAN RESEARCH DOORS」や今年2月12日に都内にオープンした「アーバン・ファミマ!!」などで販売しているのですが、commpostは20代から40代の女性が多く購入してくださいます。ストーリーというより、デザインで購入してくださる方が多い印象です。「社会貢献しています」と強く打ちだすのではなく、商品を手にとった後に、スタッフの説明によって、実は社会貢献につながっている商品なんだと気づいていただく流れが望ましいですね。
― これからの課題や展望についてお聞かせください。
雇用の確保と廃棄衣料削減のために、売り先をもっと増やし、売上も伸ばしていきたいです。今年の春には、現在の15店舗(ネット販売込)から70店舗に拡大していく予定です。(※)DOORSをはじめ、他のショップや海外も意識しながら展開していきたいです。
廃棄衣料のアップサイクルは、同じアパレル業界の競合他社であっても一緒に取り組める課題だと思います。「commpost」は弊社のSDGsの取り組みの一つですが、SDGsの番号はあまり意識していません。SDGsの番号は後から自然についてくるものだと思います。課題を解決していく中で、結果的に社会や環境問題への貢献につながっていた、というほうが「クール」だと思います。
※2020年2月取材時
*****************
(取材を終えて)
インタビューのなかで、「生活者がcommpostの商品をご購入くださり、日常使いしてくださるということは、廃棄衣料の削減・就労困難者の雇用促進・日本の町工場の技術力向上・研究者グループの収益獲得へと幅広く貢献することができる」と仰っていたのが印象的でした。協働で誕生した商品をおしゃれに日常使いすることで、「新しい常識」を醸成するのに欠かせない循環が生まれているのだと感じました。commpostに携わる皆さまの今後の展開に目が離せません。ご協力ありがとうございました。
*****************
株式会社アーバンリサーチ
http://www.urban-research.co.jp/
commpost
http://www.urban-research.co.jp/special/commpost/