持続可能なビジネスと事業成長
ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2012年12月14日(金)に「持続可能なビジネスと事業成長」をテーマに、第1回定例セミナーを開催した。
当日は、基調講演として日本経済新聞で消費トレンドを専門とする石鍋仁美氏にソーシャルなビジネスの最前線とその背景についてお話いただいたほか、持続可能なビジネスを展開しつつ事業成長を実現している企業の事例報告として、ユニリーバ・グループとネスレ・グループの取り組みについて伺った。
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基調講演
「ソーシャル」が企業の成長につながる理由
石鍋仁美氏(日本経済新聞編集委員兼論説委員)
今日では、年々進化するCSR(企業の社会的責任)活動などの社会的な動きの広がりと、社交(交流)の道具としてのインターネットやつながり志向の台頭という2つのソーシャルが互いに刺激し、支え合いながら車の両輪のように機能し、若者などの支持を広げている。
企業と「ソーシャル」の距離は近年、急速に縮まりつつある。自分だけのことではなく、社会に貢献したいと思う人が増えていることや、フラットでオープンな関係を志向する若者層の登場など、消費者の変化によって現在、「社会貢献はビジネスへ」という状況が生まれつつある。
大手企業も寄付つき商品やフェアトレード(公正貿易)、エコといった社会貢献型の商品を展開するなど、社会貢献を取り込んだビジネスに乗り出す傾向が広まっている。ソーシャル志向の消費は欧米で「エシカル消費」とも呼ばれている。
さらに、若い社員を中心に「働く意識」が変わってきたことも、企業が貢献活動に力を入れる理由として見逃せない。たとえば、バングラディッシュでバッグを製造販売する「マザーハウス」は、ネット等でのオープンな情報発信を通じてファンを増やし、ベンチャー企業ながら大手企業とのコラボレーションを相次ぎ実現しているが、これも若いベンチャー経営者と大手若手社員の結びついた力によるものだ。
石鍋氏は、企業と消費者双方の変化を丹念に整理しつつ、2つのソーシャルを手がかりに、「ソーシャル」が企業の成長につながる理由を多数の事例と共に語ったが、さらに今後はC to C(消費者間の価値のやりとり)、B to S(企業から社会への働きかけ)、 B to N(企業から自然への働きかけ)も、企業が本業としてかかわっていかねばならない領域になるとの展望を述べた。
- 企業事例報告
企業事例報告では、グローバルな事業を展開する中で、持続可能なビジネスと事業成長の両立を実現しているユニリーバ・グループとネスレ・グループの事例がそれぞれ報告された。ユニリーバ・グループは「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」に沿って、また、ネスレ・グループは「共通価値の創造(Creating Shared Value)」の考え方を基礎に、それぞれ社会問題の解決への取り組みをビジネスモデルとしている。
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
「新しいビジネスモデルの創出をめざして」
伊藤征慶氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 ヘッド・オブ・コミュニケーション)
「よりよい明日を創るために」をビジョンとするユニリーバ・グループは、環境負荷を半減させながらビジネスの規模を2倍にする新しいビジネスモデルの創出をめざしている。
2010年には「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」 を発表し、事業分野に関わりの深い「すこやかな暮らし」「環境負荷の削減」「経済発展」の3つの分野で取り組みを進めている。また、それぞれの分野で具体的な数値目標と指標を設定し、進捗状況をホームページなどを通じて報告している。
たとえば、「すこやかな暮らし」の分野では、「2020年までに、10億人以上がすこやかな暮らしのための行動をとれるように支援します」という大きな目標の下、「健康・衛生」の分野と「食」の分野でさらに詳細な目標が定められている。そのうちの1つが「2015年までに10億人に石鹸を使った手洗いを啓発する」ことだ。2010年から2011年までに4,800万人に働きかけた。
ユニリーバ・グループは、初めての製品「サンライト石鹸」で英国の衛生状態を改善した。そのDNAを基盤にサステナビリティを重視する社風を醸成してきた。伊藤氏によればユニリーバ・ジャパンの社員の20%が震災復興に長期的に関わっているという。「小さな行動も、毎日積み重ねれば未来を変える大きな力に」という意識に根差し、世界各地で事業の成長と社会問題の解決の両立を実現している同社の新しいビジネスモデルは、企業と社会の新しい関係を示したものであるといえるだろう。
ネスレ日本株式会社
「ネスレの共通価値の創造(CSV)戦略に基づく事業展開」
村本正昭氏(ネスレ日本株式会社 執行役員パブリックアフェア-ズ統括部長)
ネスレのCSRは、社会とネスレの双方に価値が生まれるという共通価値の創造(CSV)の考え方である。共通価値の創造は、企業の利益と公共の利益はトレード・オフという考え方や、低コストの追求が利益の最大化につながるという従来型の資本主義の考え方から進化した考え方であり、そのためには、「新製品・新サービスの投入」、「バリューチェーンの生産性向上」、「ビジネスを営む地域経済の発展」という、3つの方法がある。
たとえばネスレの工場の大半は途上国の農村に建てられる。そこにインフラを創造し、直接雇用、間接雇用を生み出すことで、地域の経済が成長し活性化するという社会にとっての価値が生まれる一方で、原材料の安定供給に加え、地域がマーケットとして成長するというネスレにとっての価値も生まれる。これが地域経済の発展の一例だ。
村本氏は、グローバルでビジネスを展開すると日本では気にならない色々な点が見えてくると言う。貧困や飢餓、疾病、子供の教育など、途上国のビジネスで直面する社会的課題を、ビジネスの障壁や自社の負担としてではなく、チャンスととらえる共通価値の創造戦略の考え方は、グローバルなビジネスの展開を考えるうえで非常に重要な考え方であり、ネスレの経験は大きな示唆を与えてくれる。
石鍋氏が述べたように企業と消費者の変化の中、「持続可能なビジネスと事業成長」が、企業にとっても大きなテーマとして浮上している。その中で、ユニリーバ・グループとネスレ・グループの実践とそのフレームワークは、グローバルに持続可能なビジネスを展開するための有効な先駆的アプローチとして、今後ますますの検討が加えられるべきだろう。