2015/05/27
APSP第14回定例セミナーレポート
ソーシャルプロダクツ・アワード2015 受賞企業のブランド哲学 ~そのこだわりと戦略~
第十四回:ソーシャルプロダクツ・アワード2015 受賞企業のブランド哲学 ~そのこだわりと戦略~
ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2015年5 月27 日、「ソーシャルプロダクツ・アワード2015 受賞企業のブランド哲学~そのこだわりと戦略~」と題したセミナーを開催しました。その概要をご紹介します。
講演1:ベン&ジェリーズ・ジャパン カントリーマネージャー 浜田宏子氏
テーマ:「ベン&ジェリーズ:価値主導ビジネスの日本における挑戦」
ベン&ジェリーズは、ベンとジェリーが「社会を変えるために何かをしたい」という思いを抱いて設立した会社です。私たちはビジネスを展開するに当たって、三つの使命を掲げています。まず「製品における使命」。これは、最高品質のアイスクリームを製造・販売する過程で、地球環境に配慮したビジネス・モデルを推進することです。次に「経済的使命」。これは、企業として安定した収益を創出し、継続的な成長を実現していくことです。そして、利益を得るだけではなくて社会、コミュニティにそれを還元して、人々の生活を向上させようという「社会的使命」です。
現在、世界35 カ国で展開しており、ほとんどの国でフランチャイズでのスクープショップ'店舗(展開を行っています。「この世には2 種類の人間がいます。ベン&ジェリーズをこよなく愛するファン、そして、まだ食べたことのない人々です」と言うほど、私たちは自分たちの製品に自信を持っています。
私たちは社会を変えたいという究極のゴールを持ったアクティビストのブランドです。様々な社会的問題に明確な主張をする私たちに対して、社会の反応は分かれます。しかし、私たちは情熱的に愛される反面、嫌われることも恐れないという姿勢をとっています。アメリカでもベン&ジェリーズは、熱烈なファンの非常に多く消費によって成り立っています。
私たちは商品づくりにおいては、「ケアリング・デアリー」という酪農家支援プログラムを導入し、それに参加する酪農家から仕入れた牛乳を使用しています。また、100%フェアトレードの材料を使ってアイスクリームを作っています。原料調達のコミュニティ、ビジネス・コミュニティ、そして私たちが住んでいるコミュニティ。この三つがきちんと平等に回っていれば、共存共栄が実現すると思っているのです。
私たちは、社会的企業として最高水準の責任を果たしている「B コーポレーション」の認定を受けています。そんな私たちがいま、社会的使命として重視しているのが気候正義と社会経済の平等性です。気候正義を重視するのは、この地球を健全な状態に保っていかなければならないからです。しかも、気候変動によって被害の脅威にさらされるのは、地球上で最も貧しく最も無力な人々だからです。社会経済の平等性を重視するのは、私たちが公平、平等の価値を非常に大切だと考えているからです。最近、アイルランドで同性婚が合法化されることになりましたが、こうした問題にも私たちは取り組んでいます。
日本では、2013 年から選挙での投票率アップを目指したキャンペーンを展開し、昨年からは「集まれ!よよよい仲間たち」と題して、若い社会企業家をサポートするためのビジネスコンペを展開しています。こうした取り組みをしているのは、社会を変えるのは一人ではできないと考えているからです。仲間を増やして、その人たちと協力して社会を変えていくことが重要です。社会に「よよよい」連鎖を起こしていきたいのです。そして、社会を変えるための運動をいかに楽しくやるかということを、みんなをハッピーにするアイスクリームメーカーとして、私たちはこれからも重視していきます。
講演2:株式会社トライフ 代表取締役 手島大輔氏
テーマ:「ソーシャルプロダクツ・ブランドの作り方~世界の高齢者の健康寿命を推進、各地の障害者の仕事創出日本発のソーシャルブランド『オーラルピース』の挑戦~」
大学卒業後、商社やコンサルティング会社で仕事をしていましたが、障害を持った長男が生まれたことで、障害者の厳しい状況を改善しなくてはならないと考えるようになりました。そうした流れの中で、障害者施設にもパッケージング等で協力してもらうようなオーガニック化粧品ブランドを立ち上げ、成功を収めましたが、いい時代は長くは続きませんでした。その後、様々な社会的事業をやりました。障害者の仕事作りのために、アロマキャンドルを作ったりもしましたが、障害者の工賃を上げることがいかに難しいかを実感しました。障害者の日給は100 円、56%が年収100万円以下というのが実情なのです。
そして、42 歳のときに新たな転機が訪れました。3 歳になった次男が発達障害だということがわかったのです。これを契機に、やはり自分で未来を作っていこうと決意したのです。そんなとき、九州大学の研究者の方と出会い、「植物性乳酸菌が作るバクテリオシンという抗菌物質があるから、それを利用してみないか」というお話をいただきました。ちょうどその頃、父がガンになり、抗ガン剤治療の副作用で口の中にカビが生え、口内炎だらけになっていて、それに対処するため、口腔内の殺菌をする薬を使用していたのですが、間違ってそれを飲み込んでしまうことがよくありました。その結果、腸内フローラまで全滅させてしまい、衰弱していったのです。そのときひらめいたのが、「飲み込んでも安全な抗菌剤を作る」ということでした。誤嚥性肺炎で、1日約300 人が亡くなっていると言われていますが、それまで、殺菌効果が高くて、飲み込んでも安全な製品は世界に存在しなかったのです。
そこで私たちが注目したのが、1928 年にイギリスでチーズの中から発見された「ナイシン」という物質です。「ナイシン」は口の中の菌をやっつけますが、100 年前にはその有用性は認識されませんでした。しかし、いま時代は変り、既存の抗生物質が効かなくなっています。そこで、抗生物質や合成殺菌剤に代わる、人と環境に優しい抗菌物質として「ナイシン」が世界的に注目されるようになったのです。ただ、「ナイシン」は塩分を含み、白く濁っているので、用途が食品に限られていました。
そしてトライフが九州大学、鹿児島大学、国立長寿医療研究センターと共同で、初めて無味・無色・透明の「ネオナイシン」の開発に取り組み、成功したのです。これにより、医療用途への道が開けました。「ネオナイシン」は、口腔内の虫歯菌・歯周病菌・誤嚥性肺炎原因菌を瞬時に殺菌できます。しかも飲み込んだら、胃腸で消化され、肺に誤嚥しても肺粘液から血中に分解されます。
こうして「ネオナイシン」を配合した口腔ケア製品「オーラルピース」は誕生しました。合成殺菌剤、合成保存料、合成香料など、何も入っていません。こうした製品は世界初で、すでに特許を取得することもできました。
この高齢者を救う製品を障害者の仕事づくりと結びつけようと考えた結果、障害者が同じ地域の高齢者に販売をするという形、それが可能になると思いました。全国各地に5000 カ所ある障害者施設を販売代理店にすることで、日本全国で展開できると考えたのです。 従来、障害者が行う下請作業は1 工程1 銭、空き缶つぶし1 個1 円という安い工賃でしたが、「オーラルピース」は、障害者がそれを1 本販売すると、小売なら350 円、卸売なら200 円の収入が得られます。現在、販売だけではなく、製品の箱の製造など生産部分でも、障害者の力を借りています。
「オーラルピース」は化石原料を一切使わず、水と植物だけでできています。しかも、バックエンドからフロントエンドまで、あらゆる業務に障害者が携わっています。このビジネス・モデルを日本から世界に発信していきたいのです。