2015/09/25
APSP第15回定例セミナーレポート
生活者は商品の何を見ているのか?
~プロが知る生活者の視点、トレンドをソーシャルプロダクツの開発に活かす~
第十五回:生活者は商品の何を見ているのか?~プロが知る生活者の視点、トレンドをソーシャルプロダクツの開発に活かす~
ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2015年9月25日に「生活者は商品の何を見ているのか?~プロが知る生活者の視点、トレンドをソーシャルプロダクツの開発に活かす~」と題したセミナーを開催しました。その概要をご紹介します。
第1部:講演 トレンド総研 主席研究員 福田結生氏
テーマ:「ソーシャルグラフ×ストーリー性に見る、女性たちのトレンド事情」
現代は、人が商品の何を見ているかもそうですが、商品をどう見ているかも問われる時代です。見方によって女性たちの行動や心理がどう変わるのかについてお話をしていきたいと思います。
今の時代を読み解くにはふたつのポイントがあります。ひとつは、無意識の本質思考が進んでいること、そしてふたつめとして、驚くほど好みの細分化が進んでいることです。
まず無意識の本質思考ですが、どんな世代、どのような年収であろうとも、「いいものを使いたい」という欲求が無意識にあります。これは裏を返せば、本質的ではないものに対して「ちょっと違うのではないか」という違和感を持つということです。
ここにソーシャルプロダクツにとって大きなチャンスが潜んでいます。現在の広告・PRの潮流として「for good」と呼ばれるものがあります。日本語に訳しにくいのですが、これは企業・ブランド・プロダクトの「善さ」「誠実さ」「真摯さ」と置き換えることができます。今までは商品を売るという企業活動と、社会貢献をするということは別だったのですが、現代は売っているものが、どうより良い社会づくりにつながっているのかということが本質の一つとして(善いものとして)問われる時代になってきています。その点、ソーシャルプロダクツはそもそも「for good」として成立しており、そのものズバリなわけです。
流行は一般的にはトレンドと呼ばれることが多いのですが、マーケティング用語的に、3つに分けられると言われています。ファッド(一時的なもので、3ヶ月以内に終わる)、ブーム(ファッドとトレンドの間で、あやかり商品も出てくる)、トレンド(3年程度は続き、多数の人に受け入れられる)です。
女性の心理と流行を考えたときに、「恋」と「愛」という言葉を使って考えていくとわかりやすいと思います。「恋」はファッドとブーム、「愛」はトレンドなのです。現代は、ファッドとブームが局地化しています。例えば、高校のあるクラスでは流行しているものでも、隣のクラスでは全く知られていないというようなことがよくあります。なので、局地化、細分化に対してどう対応するかが問われます。
そこで求められるのは「共感」、そして「恋」から「愛」へと繋ぐストーリーの提供です。女性たちの共感には、「自分がいいと思う」というのがまずあります。そして「人によいと思われる」ことも重要です。これには「周りの人にこの商品を使っている自分が好かれそう」というのも含まれます。「人によいと思われる」には、社会的によい選択や行動ということも含まれているので、ソーシャルプロダクツにとって、これは大きなチャンスとなります。
共感のあとの「恋」は印象を作るためのインパクトをどれだけ持たせられるかですが、「愛」の場合は、そこに至るストーリーの深さが必要になってきます。それでは「愛」を獲得するためにはどうしたら良いのでしょうか。第1にプロダクトの良さ、第2に応援したくなるストーリー、第3に消費者がそれを取り入れた場合のイメージ。この3つが必要となります。また、「愛」には夢物語ではない現実性も必要です。どんなに社会的よいものでも、クオリティが低いものや値段が高いものは手が出せません。商品・サービスは現実的で消費者視点にたったものを提供すべきなのです。
ソーシャルプロダクツは社会性が高く、商品のクオリティも高いものだと思いますので、その価値を届ける消費者とストーリーを選別し、たくさんの伝えたい想いの中で何をコアとするのか、それが社会に対してどんな価値をもたらすのかをよく考えてみてください。
第2部:座談会 トレンド総研 主席研究員 福田結生氏、ライフハッカー[日本版] 副編集長 吉川晶子氏、フリーアナウンサー・エシカル協会代表 末吉里花氏
テーマ:「ソーシャルプロダクツのここが魅力!ここが足りない!」
実際に5つのソーシャルプロダクツを取り上げながら、どういったところを改善すればより魅力的なものになるのか、商品そのもの、ストーリーの伝え方、パブリシティに取り上げてもらう方法などを各パネリストにうかがいながら進めました。
障がい者の作ったバブーシュ(スリッパ)
参考:http://sooooos.com/products/detail/5645
福田氏(以下、福):障がい者の作ったスリッパというのは、ひとつのセールスポイントではあるが、それだけでは足りないので、何か付加価値をつけるべき。障がい者を、個性を持ったデザイナーとして扱うのもいい。
吉川(以下、吉):フォトジェニックな商品なので、スリッパをモノとしてではなくライフスタイルの一環として提案するのがいい。紙媒体よりもウェブとの相性が良い商品なので、商品のデザイン面にフォーカスしたPRを展開すべき。
末吉(以下、末):障がい者の作った商品は社会に配慮したプロダクトなので、それ自体が魅力的。織り方が日本独特なものなので海外に向けて発信するのもいい。
オーガニック基礎化粧品(エシカルコスメ) 参考:http://sooooos.com/products/detail/2353
福:機能性のアピールをしっかり表現すべき。肌の弱い方に良いとのことなので、幅広いターゲットに訴えるのではなく、肌に弱い方だけにストレートに届く宣伝をすればいい。
吉:商品の特色をもっと出すべき。「この商品は私のためにある」と消費者に思わせることが大事で、これがあるとメディアにも取り上げられやすい。女性は化粧品を「ときめき」で買うのでパッケージがとても大事。デザインはストイックにしないで目立つものが良い。
末:オーガニックでエシカルな商品だがこういった商品は今非常に多い。その中であえて、この商品を選ぶという理由付けが必要になってくる。ラインナップの中でひとつ目玉となる商品を作るべき。
間伐材を使用したステーショナリー 参考:http://sooooos.com/products/detail/1273
福:「鳥獣戯画」とコラボレーションしているのは、非常に今のトレンドをおさえていていい。ステーショナリーは今ブームなので、その波にもうまく乗れる商品ではないか。
吉:メディアに取り上げられるためには「びっくり」が必要だが、このプロダクトにはそれがある。いろいろなデザイナーと組んで、コラボレーションをしたり、販路も通常の店舗以外でもたとえば美術館のショップなどもいいのでは。
末:間伐材の再利用の仕方はなかなか難しいが、これはとても上手に活用していると思う。小中学校などでの環境保全の授業などの時に、この紙を使って折り紙を作りながら進めていくといった利用の仕方もできる。また外国人に対しても非常に魅力的だと思われるので空港などの販売にも適している。
東ティモールのフェアトレードのコーヒー・紅茶 参考:http://sooooos.com/products/detail/2100
福:フェアトレードは消費者が価値を感じる土壌はあるが、フェアトレード=おいしいというイメージはないので、パッケージングが大切となるし、「フェアトレードなのにおいしい」という刺激的なコピーもいいだろう。トレードマークがあるといいし、ギフト向けの作り込みもほしい。
吉:コーヒーマニアの偏屈さは半端ないというのがウェブの世界の定説。友人のコーヒーマニアに言わせると「フェアトレードのコーヒーはNPOがやっていることが多く味を追求していなくておいしくないイメージがある」とのことなので、それを覆すようなクオリティのものを作るといい。その場合は値段は度外視しても大丈夫。マニアに受け入れられれば、自然と一般の消費者にも受け入れられる。
末:フェアトレードのコーヒーは今、企業消費がすごく増えている。企業の株主総会で株主へのギフトとしてソーシャルなものを配ることも多くなっている。たとえば、大日本印刷、コニカミノルタなどの大企業でもフェアトレードの商品を企業内で消費することを推進している。株主総会では元々、お土産を配っていたので、それをフェアトレード商品に切り替えるだけでイメージアップにもつながるので非常に簡単にスタートできる。だから企業への営業も考えていくとよい。
ケニアのサイザル編みブックカバー
福:本が読まれることの少ない時代、さらにその中でブックカバーをつけて読む人は少ないと思う。だから、そういった少数派に訴求するためには、まずは機能性を追求するべきだが、この商品はまだそのレベルに達していないように思える。
吉:サイザル編みということにスポットをあてて、ストーリーを展開するのがいいのではないか。ブックカバーではなくて、サイザルを使って、たとえばモレスキンのようなブランドとコラボレーションするのも手だと思う。
末:実際に手を触れてもらうことで魅力が伝わる商品だと思う。
最後に
福:一言でその商品の魅力を伝えることができれば、よりダイレクトにメディアや消費者に伝わると思う。なので、情報を伝達する時に「一言感」を大事にするとよいのではないか。
吉:ソーシャルプロダクツを作っている方は伝えたい想いをたくさん持っていると思うし、メディアもそれを伝えたいと考えている。ただソーシャルプロダクツに関わる人々はとても控えめな方が多いので、なかなか私たちメディアの人間に伝わってこない部分もあるのが現状。遠慮せずにどんどんメディアに商品を持ってきてほしい。
末:若い世代の人から、社会によいもの・環境によいもの・自分によいもの、を求めているという声をよく聞いている。そんな時代なのでソーシャルプロダクツにとっては、追い風。自分自身もこのような商品の生産や消費が増えることを願っている。いろいろ大変なこともあるかと思いますが、共にがんばっていきたい。