APSP第4回定例セミナーレポート<br>復興支援とソーシャルプロダクツ

2013/03/15

APSP第4回定例セミナーレポート
復興支援とソーシャルプロダクツ

第四回:復興支援とソーシャルプロダクツ

 

東日本大震災から2年が過ぎた今、継続的な復興支援のあり方が問われています。2013年3月15日(金)に開催されたソーシャルプロダクツ普及推進協会第4回定例セミナーでは、「復興支援とソーシャルプロダクツ」をテーマに、3 社4名の講師をお招きして復興支援に向けた企業の取り組みについて学びました。

 

基調講演では、経団連の齋藤仁氏より、東日本大震災とその復興支援における経団連全体の取り組みと会員企業の動き、そしてソーシャルプロダクツの位置づけについて、調査データをふまえたお話をいただきました。

 

それに続き、企業によるソーシャルプロダクツを通じた継続的な復興支援の事例として、ソフトバンクグループの池田昌人氏とイオン・グループの中坊恵美氏ならびに有本幸泰氏より、それぞれの具体的な取り組みとそのポイントについて、お話をいただきました。

 

1.基調講演

斎藤 仁 氏(一般社団法人 日本経済団体連合会 政治社会本部長)

テーマ 「復興支援とソーシャルプロダクツ」

 

経団連政治社会本部長として企業のCSRや復興支援の動きに精通する斎藤氏は、東日本大震災では、これまでの災害以上に企業に大きな期待が寄せられたと語ります。

 

被害が極めて広範かつ甚大だったことに加え、市区町村自体が被災し、支援のリクエストが通常の法体系にのっとってこない今回の状況で、経団連では「要望を待っていては遅い」と判断し、3月13日に災害対策本部を立ち上げました。

 

被災県と連絡を取りつつ会員企業各社に呼びかける一方で、港を確保し船での輸送を手配。必要な物資を適切な場所・タイミングで届ける仕組みをつくり、結果として数百トンもの物資を被災地に届けました。大都市から離れた場所で甚大な被害があった中、まさに民間のリソースを結集した支援を実現しました。

 

CIMG4007経団連が行った調査をまとめた『東日本大震災における経済界の被災者・被災地支援活動に関する報告書』によれば、被災地からの声として支援の継続が求められています。具体的には、現地で実際に被災者に寄り添った活動をするNPO/NGOや、ボランティアの方々の生活を支え続けることも必要です。今回、各企業のトップの判断によって大きな金額の寄付が集まりましたが、これを継続するためには基金化などの仕組みづくりが重要になります。また、仮設住宅の見回り、まちづくりの相談、水産加工場の手伝いなど、中間支援組織と協力して見えにくい様々なニーズに拾い上げ、企業が中長期的にプロボノ的な支援を行うことも必要です。

そうした中、商品の売上の一部を寄付するなど、売り上げに応じて支援が継続されるソーシャルプロダクツは、顧客・消費者を巻き込んだ支援の仕組みとして有効です。実際、フェアトレードや社会的責任投資など様々な形でビジネスを通じた社会的課題の解決が広まりつつあります。

 

しかし、世界中の産業界、消費者、労働者、学者、政府、NGOなどの多様なステイクホルダーとともにISO26000の策定に深く関わってきた斎藤氏は、社会的な課題の捉え方と解決の仕方は、時代、国、組織、人によって大きく異なり、受け入れる人と受け入れない人がいることを前提に、どう消費者/生活者に訴えていくか、アプローチの仕方や具体的な説明をより工夫していくことが重要だと指摘します。

 

今後の復興支援に向けては、「忘れない」ということが大切です。その点において、企業のノウハウを使い、企業の顧客を巻き込んで広く長い支援を訴え、支援行動に結びつけるソーシャルプロダクツは、企業本来のリソースを活かした形での継続的な復興支援の方法の1つと位置づけることができるのです。

 

【関連リンク】

東日本大震災における経済界の被災者・被災地支援活動に関する報告書

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2012/011.html

 

 

 

2.企業活動の事例報告

池田 昌人氏(ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社 総務本部 CSR企画部 部長)

テーマ 「チャリティホワイト」から見えてきた社会との関わり

ソフトバンクグループの復興支援への取り組みの1つである「チャリティホワイト」は2011年3月11日の池田氏の個人的な体験がきっかけとなって生まれました。

 

それまでまったく関わりのなかった社会貢献分野と復興支援に池田氏を駆り立てたのは、地震で揺れる本社ビルの中で感じた恐怖や人生の儚さ、その瞬間に頭に浮かんだ自身の子どもたちの顔、そしてその体験から芽生えた、東北の子どもたちに「何かできないか」という想いでした。

個人のボランティア活動への参加だけでなく、何かできないか。日々悩む中で注目したのは、阪神淡路大震災のボランティア活動数の推移データ。どちらも右肩下がりの傾向を示していました。

 

「人の記憶は薄れていく」ということを感じると同時に、自らが仕事として深く関わってきたソフトバンクモバイルの毎月お客さまにご利用料金を請求するビジネス特性を生かして、支援を右肩上がりで増やしていく仕組みを作れないかと考えるようになりました。この発想から生まれたのが、「チャリティホワイト」です。

 

「チャリティホワイト」の広がり

「チャリティホワイト」が一般的な寄付つきサービスと異なるのは、お客さまが10円の寄付をすると、さらに10円をソフトバンクモバイルあるいはソフトバンクBBが寄付するというマッチング型であるという点です。これはソフトバンクモバイル、ソフトバンクBBにもコスト負担が生じるモデルでしたが、試算を重ねた上で1社員として経営陣に付議したところ、孫正義社長は「いいじゃないか」と即断。2011年5月下旬には本格的な準備が始まり、6月30日にプレスリリース、8月1日にサービス提供が開始されるというスピーディーな展開でした。

 

以来、「チャリティホワイト」は3月24日時点で加入件数が1,275,095件に到達し、寄付完了額は累計で90,081,912円となりました。東日本大震災を忘れず、寄付金額が右肩上がりに増えていく仕組みを実現するという最初の想いが実りました。

同社からの寄付先である、中央共同募金会を通じて、これまで現地で活動するNPO団体など213団体に寄付金を届け、継続的な寄付が「事業を続ける支え」として評価されています。また、これによって現地では新規事業の立ち上げも可能となりました。なお、あしなが育英会にも寄付を行い、現地での支援活動に活用されています。

 

増加の影で何に取り組んできたか

「チャリティホワイト」の加入件数の増加の影では、いくつもの工夫や仕掛けがなされています。

CIMG4032会社の外でも復興支援に携わり、現地の想いを直に知る池田氏は、「忘れない」という言葉の重みを大切にしています。2013年3月11日に全社員で行った黙祷のほか東日本大震災復興支援特設サイト開設など、ソフトバンクグループが「あの日を忘れない」こと、今なお支援が続いていることを広く社内外に知ってもらう努力を重ねています。「チャリティホワイト」を通じて寄付されたお金がどう使われているのかをお客さまに知ってもらうために、「チャリティホワイト」活動報告特設サイトでも1円単位で寄付先を明記してリアルタイムでの情報の更新を続け、寄付先の団体の具体的な活動の紹介などをしています。

 

また、「チャリティホワイト」はいわゆる広告宣伝を行っておらず、店頭でのお客さまへのご案内やクチコミを中心に加入件数を増やしているため、営業部門の巻き込みが重要なポイントとなります。

そのために営業出身の池田氏はCSRに営業の手法をそのまま取り入れ、加入件数の増加を日報や数字で見える化し、関係者に成果と意義を伝達しました。さらに、「チャリティホワイト月間」の設定やバッジの着用、好接客スタッフの表彰、社員の目に留まるように工夫を凝らした社内広報などを通じて、社員の意識向上に取り組んでいます。

 

社会貢献と本業へのビジネス貢献

右肩上がりに成長を続ける「チャリティホワイト」ですが、池田氏はこれを継続するために、コーズ・リレーティッド・マーケティングの視角から、その意味と効果の分析に力を注いできました。様々なデータの組み合わせによる分析の結果、ソフトバンクモバイルの継続利用の意向が増えており、解約を防止する効果などが数字で示され、「チャリティホワイト」による本業へのビジネス貢献が明らかになりました。

被災者支援[復興]×お客さま[支援参加]×ソフトバンクグループ[ファン化]というそれぞれの立場と[ミッション]がWin × Win × Winを実現する効果を上げている「チャリティホワイト」は、ソフトバンクグループにおける継続的な社会貢献の礎として、次なるステージへの展望を開きました。

池田氏は今、「チャリティホワイト」から見えてきた社会との関わりを手がかりに、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を掲げるソフトバンクグループにふさわしい方法で、お客さまと様々な社会貢献をつなげるための新しい仕組みを考えています。

 

「誰もが社会貢献できる世の中」に向けたプラットフォームを目指して、ソフトバンクグループと池田氏は挑戦を続けています。

 

【関連リンク】

ソフトバンクグループ チャリティホワイト活動報告特設サイト

http://mb.softbank.jp/mb/special/charity_white/

 

 

中坊 恵美 氏(イオン株式会社 グループ環境・社会貢献部 部長)

テーマ 「3.11 復興への願いをカタチに――イオン震災時の対応と復興への取組み」

 

イオンの基本理念

「お客様」を原点に、「平和」を追求し、「人間」を尊重し、「地域社会」に貢献することを基本理念に掲げるイオン・グループは、総合スーパー「イオン」を中心とする約200社の企業集団です。

 

同社の環境保全活動のはじまりは1960年代にさかのぼりますが、イオン1%クラブ等を設立した1989年頃から取り組みを拡大。2011年には「低炭素社会の実現」「生物多様性の保全」「資源の有効活用」「社会的課題への対応」の4 つを柱とした「イオンサステナビリティ基本方針」を策定しました。これによって、企業の成長と環境に関する課題解決の両立によるサステナブルな経営の実現をめざしています。

 

イオンのエコプロジェクト

東日本大震災以降のエネルギーを取り巻く環境や意識の変化、そして被災の経験を背景に、「イオンのエコプロジェクト」を策定しました。これは店舗での使用エネルギーの削減・効率化をめざす「へらそう作戦」、太陽光などの再生可能エネルギーを促進する「つくろう作戦」、地域を守る生活インフラとして非常時・災害時でも営業が継続できる体制を構築する「まもろう作戦」の3つです。

2年前、イオンは震災翌日から被災地でも順次店頭営業を再開。また、店舗の一部を被災者の生活スペースに提供するなどを行いました。この経験によって、「お客様の生活を守るための事業活動の継続と、地域の暮らしのライフラインとしての小売業の社会的役割を改めて認識した」といいます。

 

イオンの代表的な社会貢献活動

日常的な社会貢献活動としては、「イオン幸せの黄色いレシートキャンペーン」と「自治体との包括提携協定」があります。毎月11日のイオンデーに実施している「イオン幸せの黄色いレシートキャンペーン」は、買い物に地域貢献という付加価値をつけた取り組みです。また、1道2府49県の自治体と包括提携協定を締結(2013年2月現在)。防災、福祉、環境保全の推進のほか、ご当地「WAON」を活用した寄付による商業・観光の振興など、双方の資源を有効活用する協定を締結しています。

 

復興への願いをカタチに

イオンは2012年3月8日の震災から1年の節目に、新たな決意を表明しました。それが、「3.11 復興への願いをカタチに」です。これに伴う具体的なアクションとしては、被災地の黄色いレシートキャンペーンの実施、東北復興支援WAONの発行、NTTドコモのタブレットを使った買い物弱者へのサービス強化や移動販売車の投入、さらに社員によるボランティア活動「イオン 心をつなぐプロジェクト」などがあります。

これらの取り組みにあたっては地元のニーズを知ることが大切となります。そのため、同社では現地NPOと協力関係を構築し、スタッフに出向してもらうなどの工夫をしています。

CIMG4062今年2013年3月8日にも、「復興への願いをカタチに」のメッセージを再び新聞広告を通じて発信しました。今、イオンでは被災地を悩ませる震災の記憶の風化と東北の産品への風評被害という2つの課題の払拭に向けて取り組みを継続しています。

 

イオンの社会貢献活動の陣頭に立ち、被災地をはじめ地域社会と深く関わる中坊氏は、小売業である同社は地域に受け入れられることでビジネスが成り立つと語ります。その意味で、イオンの社会貢献活動、そして東北への復興支援は単なる慈善活動にとどまるものではなく、企業と地域社会がステイクホルダーとして互いに信頼し、支え合う関係を守り育てるための意義ある活動であるといえます。

 

 

有本 幸泰 氏(イオントップバリュ株式会社 マーケティング部)

テーマ 「夢のある未来へのシステムづくり」

 

イオンの理念=トップバリュ

8つのブランドと数多くの商品を擁するイオントップバリュの根幹には、イオンの理念が精神として横たわっています。トップバリュ製品のパッケージの販売者欄には製造者名はなく、イオンの名前しかありません。イオンが全ての責任を持つ独自のブランドであることを暗に物語っているのです。

そのDNAは、カップヌードルの値段がおよそ3倍になったオイルショック時代、「お客様にとって本当に適切な価格なのか」「よい商品を安く安定的に供給できないか」と考えた岡田卓也社長(現・名誉会長)が1974年にジャスコから送り出した最初のストアブランド商品「JCUP」にさかのぼります。以来、トップバリュはイオンの理念をつねに商品として体現してきました。

 

未来に向けた活動

2002年には買い物で社会貢献をしたいというお客様の声に応え、トップバリュは初めてフェアトレード商品に取り組みました。それ以降、ラインナップを増やしてきましたが、2009年の中央大学の学生たちとの出会いが新たな動きをもたらします。

フェアトレード商品のヒアリングのために訪れた学生たちとのやりとりは、やがて商品提案をさせてほしいという申し出に発展。彼らの意気込みに応じ、中央大学日高ゼミとの共同開発によってフェトレードチョコレートを2010年に発売しました。

この商品は、発売後数年で伸び悩みをみせましたが、今度は経過のヒアリングに訪れた中央大学の後輩たちが、商品リニューアルに取り組みたいと声を挙げました。自分たちでマーケティング分析を行い、方針を提案。全国からパッケージを集めるプロジェクト「パケコレ」が実現しました。

新しいパッケージにリニューアルしたフェアトレードチョコレートは、2013年2月より販売を開始し、越谷レイクタウンでお披露目会を実施。学生たちの呼びかけに多くのお客様が足を止め、フェアトレードへの理解を深める機会にもなりました。

 

また、トップバリュの取り組みを聞きつけた共立女子大学デザイン学科の学生からも、デザインを通じて海のエコラベル・MSC認証を世界に広めたいと相談が寄せられました。これについても6月の環境月間にイオンの店舗で彼女たちが作成したデザインの展示を企画しています。

CIMG4075若い世代と共に次々と新しい企画を立ち上げる有本氏は、フェアトレードについては、 教科書や授業を通じて学ぶ機会が多い学生の方が社会人よりも熱心かもしれないと言います。その力を借りて一緒に取り組んでいくことが、フェアトレードを普及するポイントだと考えています。

 

さらにもう少し先の未来に向けた活動として、有本氏は2008年から小学生が田植え、観察会、稲刈り、販売までを体験をする「お米企画」にも取り組んでいます。体験する前は稲がどんな草かも知らない子どもたちに自分で稲作に取り組む機会をもたらすことは、将来を見据えた食育活動ともいえます。

地域社会で小売業を展開するイオンならではの社会貢献活動の1つであるこの取り組みは、東日本大震災の支援にもつながりました。震災後、お米企画に参加する4県4校の子どもたちはそろって「被災地に収穫したお米を送りたい」と声を挙げました。ここから被災地の小学校の子どもたちを招いたお米づくり企画にも発展しました。

 

未来に向けての商品づくり

イオントップバリュでは、「東北産の原材料使用商品」「東北に生産工場がある商品」「東北産の生鮮品」を「フロム東北」として応援しています。産地と直接つながり、商品を生み出す商品ブランドならではの継続的な被災地支援の取り組みです。

代表的な商品としては、同社が設定する復興支援エリアから水揚げされた魚を加工した「ファストフィッシュ」(骨取り魚)や「三陸産わかめ」などがあります。中でも、三陸鉄道×久慈市×イオンのコラボレーションで商品を企画した「骨取り」シリーズは全国でもヒット商品となりました。

この商品はいわゆる被災地支援商品である以前に、「魚の骨をとるのが面倒」「調理の仕方がわからない」というお客様の声を克服した商品です。有本氏は、魅力ある商品でなければ販売を持続できず、支援も継続できないと指摘します。

イオントップバリュが持続可能な社会、経済システムを実現するためにもっとも大切なことは、「お客様の声を聞き、お客様と共に考え、行動すること」。有本氏はそう考えています。

 

【関連リンク】

イオン株式会社 環境・社会貢献活動

http://www.aeon.info/environment/

 

 

「復興支援とソーシャルプロダクツ」をテーマとした第4回セミナーは、震災復興における企業の経済活動の意義とソーシャルプロダクツの可能性を鳥瞰的な視点から整理された斎藤氏のお話に始まり、示唆するところの多い有益なセミナーとなりました。

 

復興支援の中からビジネスと社会貢献活動とのつながりを見出し、そのためのアプローチを磨いているソフトバンクグループの事例、そして同様に、復興支援活動そのものに企業と社会の関係、顧客との関係を見出し、持続可能な社会に向けた企業活動の可能性を示したイオン・グループのお話は、震災復興に限らず、広く企業と社会のあるべき関係を考えるためのモデルとして、大きな意義があるものといえます。

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