第七回:2013年の“ソーシャル”動向と2014年の展望
「ソーシャル」ということばを聞く機会が増えてきましたが、多くの方が「実際の動きはどのようになっているのだろうか」という疑問を持たれているのではないでしょうか。そこで、今回は本年最後のセミナーということもあり、「2013年の“ソーシャル”動向と2014年の展望」と題して、今年一年、企業や生活者の中で、“ソーシャル”の領域においてどのような動きや変化があったのかを振り返りながら、来年、そしてこれからの展望について考えました。
基調講演では、ソーシャルプロダクツ普及推進協会理事 中間大維が、ソーシャルなプロダクツはもちろん、同プロモーションやビジネス、調査結果など、さまざまな“ソーシャル”を紹介しながら、社会の中で今年どのようなソーシャルな動きがあったのかを振り返りました。
また、実際の企業活動の側面から、イオントップバリュ株式会社 有本幸泰氏よりイオンのソーシャルな活動やプライベートブランド「トップバリュ」を通した2013年までの、そして今後の考え方や展開についてお話頂きました。
1.基調講演
中間大維 (ソーシャルプロダクツ普及推進協会 専務理事)
テーマ 「2013年の“ソーシャル”を振り返る」
2013年の締めくくりとして、今回は今年一年の「ソーシャル」な動きを振り返ってみたいと思います。東日本大震災から間もなく3年が経過しようとする今、生活者の意識はどのように変わっているのか。国内だけでなく、世界の社会的課題にどれほど目が向けられているのか―また、そうした社会的課題の解決につながるソーシャルプロダクツの市場では、どのような動きがあったのか。来年以降の展望も交えながら、この一年を振り返ります。
生活者のソーシャルに対する意識はどのように変わったか?
SoooooS.カンパニーの調査*1によれば、生活者の寄付やボランティアに対する意識は、一昨年から継続して低下傾向にあり、これは東日本大震災からの時間の経過に伴う影響が大きいと考えられています。一方で、「日常生活の延長線上でできる範囲のことをしたい」「企業のソーシャルな取り組みに関心がある」という生活者は、8割ほどでほぼ横ばいであるという結果でした。このことから、生活者にとって、時間や労力・金銭などの特別なコストを要するものからは気持ちが離れつつあるものの、日常の生活の中で手軽に取り組めることに対する意識は変わらず高い事がうかがえます。
2013年のソーシャルプロダクツ市場の動向について
<フェアトレード製品>
フェアトレードラベルジャパン(FLJ)が2013年8月に発表した報告によると、2012年の国内フェアトレード認証製品の市場規模は72億8800万円、世界規模では5,336億円とされています。まだまだ小さなマーケットですが、日本国内、そして世界ともに、約20%という高成長(前年比)をしています。
大きな動きとしては、World Fair Trade Organization(WFTO)が、現行の団体認証だけでなく、手工芸品や衣料品などの商品自体も認証していくことを発表しました。こうして認証商品が増加することで、「フェアトレード」のものが生活者の目に触れる機会も多くなるでしょう。
<オーガニック製品>
世界のオーガニック製品市場は、ここ10年ほど拡大傾向にあります。IFOAM*2の発表では、2012年の世界のオーガニック製品の市場規模はおよそ6兆円とされています。日本国内での市場も拡大を続ける中、今年9月には日本(有機JAS)・アメリカ(USDA ORGANIC)間の有機農産物の相互認証が合意に達しました。2014年1月1日以降、手に取り易い価格のアメリカ産オーガニック製品が多く輸入され、日本国内のオーガニック市場がさらに活性化することが期待されます。
また、日本国内でのオーガニックへの関心の高まりは、「オーガニック」という単語の検索数の推移にも見られています。実はここ数年、継続して検索数が増加しているのです。インターネット販売を通じて多くのオーガニック製品が手に入るようになり、また、オーガニック製品を豊富に取り揃える小売店も多くなってきていますが、そうしたことも影響していると思われます。
<3R>
Reduce、Reuse、Recycleに関しては、新しい可能性が見えた1年でした。特に、着なくなった衣類や製造過程で発生する端材などをより魅力的な製品としてよみがえらせる「アップサイクル」が脚光を浴びました。
国内では、フローリング材や消防服などをバッグ等に再生する「MODECO(モデコ)」が10月に松坂屋上野店に常設店を出店し、国外では、「Reet.Aus(リート・アウス)」が、今後バングラデシュでアップサイクル商品を量産・販売する方針であると発表するなど、国内外で活発な動きが見られた年でした。
<寄付つき商品>
単に「売り上げの一部を寄付する」というだけの商品でなく、生活者に色々な意味で気づきを与える寄付つき商品が多く見られたことが2013年の特徴です。例えば、森永製菓が継続的に取り組んでいる「1チョコfor 1スマイル」は、チョコレート商品の購入によって、売り上げの一部がカカオの生産地への寄付・支援に繋がるというプロジェクトですが、2013年のバレンタイン期には、商品のチョコレート原料の一部に、支援地域で生産されたカカオが初めて採り入れられました。これにより、生活者の購入による寄付から、商品化までの工程がひとつのサイクルになり、生活者と生産者が商品を通じて繋がりました。それなりの量の原材料が必要な大手メーカーの商品としては画期的な取り組みです。寄付つき商品2.0と言ってもいいかもしれません。
ほかにも、World Vision Japanが取り組む「ラブケーキプロジェクト」で見られるような、「商品の一部分が足りない状態で商品を販売し、足りない部分のモノに相当する売り上げを寄付する」という仕組みが、TABLE FOR TWOの支援商品でも見られました。生活者自身が、自分たちのアクションが何に繋がっているのかや問題そのものについて考える機会が寄付つき商品で増えています。
企業・団体のソーシャルな取り組み
<クラウドファンディング>
「READY FOR?」や「CAMP FIRE」などに続き、7月にはサイバーエージェントの子会社が運営する「Makuake」が、8月には社会貢献や地域支援を応援するクラウドファンディングサイト「キッカケ」がサービスを開始するなど、新たなクラウドファンディングサービスが相次ぎ、様々なソーシャルプロジェクトが資金調達に成功しました。社会貢献と親和性が高く、生活者が手軽に参加できる、インターネット上のこうしたサービスは、今後も拡大する余地が大いにあるでしょう。
2013年は、商品・サービスを通じたソーシャルな取り組みの認知が拡大し、生活者の目に触れる機会が増えた1年でした。来年以降も、生活者のニーズの高まりから、ソーシャルプロダクツの需要が拡大することでしょう。これに応えるためにも、企業やNGO/NPO、我々のような団体が、連携・協力し合い、市場を牽引していく必要があると思います。
*1:株式会社ヤラカス舘SoooooS.カンパニーが2013年3月に実施した『社会的意識・行動に関する生活者調査』
*2:IFOAM:International Federation of Organic Agriculture Movements(国際有機農業運動連盟)のこと。世界中の有機農業の普及に努める国際NGO。
2.企業の事例紹介
有本 幸泰氏 (イオントップバリュ株式会社 マーケティング部)
テーマ 「イオンにおける新たなるプライベートブランドの考え方」
本日は、これまでのイオンの活動を振り返りながら、2020年に向けてイオンが実施していく代表的な社会的取り組みである「ネクスト1000万本」と、今回の主題であるブランドや商品の新たな考え方・取り組み、そしてこれからの消費者を育てる「学校教育貢献」についてお話をさせて頂きます。
ネクスト1000万本 〜「植える」から「育む」へ〜
今年の11月、我々の社会的取り組みの中で大きな目標としていた1000万本の植樹を、皆さまのご協力のもと、遂に達成する事ができました。今後は、店舗でお客様に働きかけ、共に活動できるイオンだからこそ可能なことをやるという考えの元、これまでの「木を植える」を進化させ、「木を植え、育む」というテーマで、より多くのお客様や地域を巻き込みながら、共に展開できる次の20年のアクションを行っていきます。
「ネクスト1000万本」の事例として、被災地の復興に関連する取り組みをご紹介します。現在、被災地で失われた緑を取り戻すために30万本の植樹を行う「心をつなぐプロジェクト」や、地域のみなさまに苗木の里親となっていただき、被災地を緑豊かにしていく「苗木の里親キャンペーン」というプロジェクトを実施しています。すでに幕張新都心の店舗では、約3000本の苗木を地域のみなさまにお持ち帰りいただき、ご家庭で育てていただいています。このように、お客様と思いを共有しながら、一緒になって、次の10年、20年に向けた東北の復興プランを展開しています。
地域の特徴を活かした持続的なものづくり
次に、プライベートブランドの新たな動き・考え方として、地域社会に貢献する商品づくりについてご紹介します。
例えば、日本におけるゆずの原木である、徳島県産木頭ゆずを使用したトップバリューの缶チューハイとポン酢がその事例です。この商品は、原木・森(そこで生まれるゆず)をそのまま活かして商品化したもので、今ではイオンの代表的な商品となっています。
地域の過疎化や活力の低下は、各地で見られますが、イオンは地域に元から存在するものを活かし、持続的に生産する事ができる商品や、社会的なストーリーを発信できる商品を、今後も増やしていきます。地域固有の資源を活かして商品をつくり、Win-Winになる形で地域に貢献する事は、イオンならではの取り組みです。
地域の生活者と進める資源の保全
海産物における取り組みもご紹介したいと思います。実は今年の土用の丑の日に、いくつかのイオンの店頭で、現在では絶滅危惧種とされている、うなぎの販売に反対するデモが行われました。私たちはうなぎを食べる事自体は、日本の大事な食文化だと考えておりますので、商品を販売するモノとして、この食文化を守るためにできることを探しました。そこで着目したのが、うなぎの減少につながっている、沿岸部の汚染という根本的な問題です。その問題の解決につながるアクションとして、地域のみなさまと協同して日本近海の海岸の清掃を行い、うなぎの遡上を助け、日本の海にうなぎを呼び戻す取り組みを始めました。まず、全国で一番うなぎの生産量が多い、鹿児島の志布志海岸でこの活動をスタートしています。
このように、これまでのCSR活動の次のステップとして、企業の成長と環境や社会の問題に関する解決を、より高い次元で実現する「サステナブル経営」をイオンは目指しています。
イオンだからこそできる商品・流通×社会問題の授業
次に、私が特に力を入れているテーマである学校教育貢献についてお話します。消費者教育推進法の可決が学校の教育にも影響を及ぼし、うれしい事にイオンに出張授業の依頼をいただく機会が増えました。教育の現場では、例えばフェアトレードについて既に教科書に掲載されていたり、センター試験で出題されたりと、商品やサービスの背景を考えて商品を購入する社会性消費について学ぶ機会が増えています。しかし、私たちは教科書だけでは学びきれないものもあると考えています。
最近になって増えている出張授業のテーマが、「商品と流通」についてです。授業では、子ども達から「なぜイオンの商品は安いの?」といった素朴な疑問が投げかけられます。なぜこの商品が店頭にこの価格で並ぶのかと言うような、商品流通の仕組みについて今の学生は興味を持っています。私は、子供たちに、プライベートブランドの商品等を通して、「いい商品とは、価格だけではないということ」「社会的側面も知る必要があること」を、その背景も含めて教えています。大人として、企業として、そうしたことを子どもたちに教えてあげる事こそが、我々の役目だと改めて思うようになりました。
大学生と行う出前授業
出張授業の依頼には女子校からのものも多いのですが、このような場合、私が授業をするよりも、年の近い女子大生に授業をしてもらった方が、社会的な問題も含めて、より子供たちに身近に感じてもらえると考えています。先日も、慶応大学の学生にお願いして、とある女子高で出前授業を行ってもらったのですが、双方にとても好評でした。今の大学生たちはソーシャルに対する意識も上がっており、インプットの場は数多くありますが、アウトプットの場はあまり用意されていません。そのため、このような形で学生と協同することは、学生に取って、とてもよいアウトプットの場になると考えています。
企業は、教育そのものを全面的に担う事はできませんが、先生に埋める事ができない部分で、我々のような民間企業が貢献できる機会は多くあると考えています。
以上のように、イオンだからこそできることとして、ソーシャルに関心を持つ生活者・消費者の育成、それに応える商品開発を、今後も一層推進してまいります。
【関連リンク】http://www.aeon.info/environment/