2020/10/30
ソーシャルプロダクツ・アワード2021
オンライン応募説明会 パネルディスカッションB
レポート -障害者雇用とマーケティングを統合するには-
7月29日に開催されたソーシャルプロダクツ・アワード2021 オンライン応募説明会にて、年度テーマである障害者の生きがい・働きがいについて、「障害者雇用とマーケティングを統合するには」と題したパネルディスカッションを行いました。障害者の働きがいを創出するには、また、それをビジネスとして継続していくには、といったテーマで有識者の方々にお話を伺いました。
【タイトル】障害者雇用とマーケティングを統合するには
【パネリスト】NPO法人ディーセントワーク・ラボ 代表理事 中尾文香氏
放送作家・「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」著者 姫路まさのり氏
株式会社LORANS. 代表取締役 福寿満希氏
【モデレーター】一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(以下APSP) 専務理事 中間玖幸
中間:本日のパネルディスカッションにご登壇いただくパネリストの方々をご紹介いたします。NPO法人ディーセントワーク・ラボの代表理事として、障害者雇用や福祉施設のコンサルティングを行っていると同時に、ソーシャルプロダクツも自ら手掛けていらっしゃる中尾文香様。放送作家であり、著書「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」などを通して多くの取材経験をお持ちの姫路まさのり様。原宿の店舗を中心にフラワービジネスを展開し、障害者雇用を積極的に進めていらっしゃる株式会社LORANS.代表取締役の福寿満希様。以上の3名です。最初に、皆様から自己紹介をお願いいたします。
姫路:放送作家をしている傍ら、障害の当事者や当事者家族ではないからこそ発信できることがあると考え、著書「ダウン症って不幸ですか?」、「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」を発表しました。その中で、障害を持つ方たちがお金を稼ぎ社会の一員として暮らすための場所「ソーシャルファーム」の考えが欧州を中心に存在していることを知りました。本日は、日本でこの考えを普及させるために何ができるか、といった話ができればと思います。
福寿:従業員の75%が障害者である花屋「LORANS.」を原宿と天王洲にて運営しています。「植物×社会課題」というテーマでビジネスを展開し、単純作業だけではなく、今まで障害者雇用に含まれてこなかったクリエイティブな仕事を障害者の方に任せています。店舗運営だけでなく、式場と契約してフラワーギフトを提供したり、引きこもりの方に向けてフラワーレッスンを行なったりしています。最近は中小企業に障害者雇用を広める活動もしているので、そこで得た経験などもお話しできればと思います。
中尾:NPO法人ディーセントワーク・ラボにて、福祉事業所や企業に向けて障害者雇用の支援を行っています。具体的にはプロとのコラボレーションを行なうことにより、障害者だけでなく、障害がない人にとっても働きやすい環境づくりを支援しています。また、商品は手作りにこだわり、質の高い商品を提供しています。私たちの目標は、一人ひとりがコミュニティの中で役割を持ち、本人も周りの人もその役割を認識している環境の実現です。本日はこの目標実現のために何ができるかについてお話しできればと思います。
中間:ありがとうございます。それではこれより、パネルディスカッションのテーマでお話を進めてまいります。
■働きがいの創出について
中間:障害者雇用にはどのような課題があり、それをどのように克服しているかについて、それぞれのご経験からお聞かせください。
福寿:障害者だからではなく、一人の人間として働きがいを創出していく必要があります。そのためには、機械でもできてしまう単純作業を任せるのではなく、自分で考えて何かを成し遂げてもらうということが大切です。その過程で、お互いに意見を出し合い、周りと一緒に考えて進めていく一体感を感じることができます。このことは障害者雇用に限ったことではなく、すべての人に当てはまることではないでしょうか。
姫路:よく企業様から障害者雇用のマニュアルを求められますが、一人ひとり特性が違うため、すべてに当てはまるマニュアルはないと考えられます。「がんばカンパニー」というお菓子工場でトレイを拭いている女性について、職員の方が「彼女はトレイを拭く係ではなく、トレイを拭く一人の人間なんだ。彼女なしに工場は回らない。」と仰ったことをよく覚えています。「障害者」とひとくくりにするのではなく、一人の人間として特性を理解し、適性に合った仕事を任せることが大切です。
中尾:姫路さんの言う通りで、一人ひとり得意不得意があるため、それらに向き合っていくことが大切です。例えば知的障害者の場合、言葉ではなく画像で説明した方が理解しやすいですが、イラストがいいのか写真がいいのかといった細かなところは人によって異なります。また福寿さんが言っていたように、人との関わりも大切で、お互い高め合って想像もできない成果を出すことは珍しくありません。
姫路:障害者に対する気持ち面のサポートも大切です。私が取材したある工場では、職員の方だけでなく、多くの障害者が食品衛生の資格を持っていました。資格を取るという目標を設定することで、勉強を頑張ろうという意欲がわき、ますます働きがいが創出されるのではないでしょうか。このようなステップアップの場をつくることが大切です。
福寿:ステップアップという意味では、ひとつのことだけでなく様々な経験を積むことが大切です。トライ&エラーの経験を積んでもらい、自分にできること・できないことを理解できる環境づくりを心がけています。「LORANS.」では、「社内転職」といった形で興味のある部署で実習が可能な仕組みを設けており、その中で自分に合った仕事を見つけることができます。このように、失敗しても別の場所でチャレンジできる環境をつくることが働きがいにつながると思います。
中尾:失敗を受け入れる環境づくりは私も大切だと思います。海外では失敗することが「権利」として認められているそうです。この失敗を「積み重ね」として可視化する必要があります。また、プロと関わることなどを通して、その仕事に対して憧れを持つことも、働きがいにつながります。つまらない単純作業だけでなく、周りが一目置くような仕事を経験することで、自分の仕事に誇りを持つことができるのです。
■ビジネスとして継続していくためには
中間:つづきまして、障害者雇用をいかにビジネスとして継続させるかについて皆様のご意見をお聞かせください。
福寿:まず、収益の上がるビジネスをつくり上げることが障害者雇用への第一歩です。「LORANS.」の場合、設立から3年ほど経ちビジネスが軌道に乗り始めたところで障害者雇用を始めました。障害者雇用をしたいが、どんな仕事を任せればいいか分からないというご相談をよくいただきますが、まずは事業をつくり上げ、業務を細分化したうえで、適性に合った仕事を当事者の方にお願いするという方法が最適だと思います。
姫路:その通りですね。また、商品をしっかりブランディングする必要もあるのではないでしょうか。おしゃれなデザインでラッピングされたクッキーが、作業所でつくられた商品として300円で売られているのを見ると、非常にもったいないと感じます。ブランディングに詳しい人材がいない場合は、アドバイザーをつけることも検討しなければいけません。
中尾:私も同じ意見です。障害者雇用をビジネスとして成立させるためには、「良いもの」を適正価格で販売することが何よりも重要です。「作業所でつくられた商品」と聞くと、一度は慈善の心で買っていただけるかもしれませんが、継続して買ってはいただけません。障害者はできないことが多いという認識が強いですが、それを覆すほどの良い商品をつくれば、「作業所でつくられた」というレッテルがはがれ、継続して収益を上げることができるのです。
■まとめ
中間:最後に、障害者雇用を考えている企業や団体へ向けてメッセージをお願いします。
福寿:今回、アワードを通して、みなさまの商品にお目にかかれることをとても楽しみにしています。障害者の方がつくった商品であることを抜きにしても、マーケットで通用するかといった観点から審査したいと考えています。よろしくお願いします。
中尾:今まで関わってこなかった分野の商品や、背景のストーリーや想いに出会えることにわくわくしています。みなさまの想いが商品となり、社会に広がっていくという流れを見る中で、私自身もいろいろ学ばせていただきたいです。精一杯、審査させていただきます。
姫路:障害者の働きがい・生きがいを拡大するという意味では、あえて障害者が携わった商品をサイトなどにまとめ、各企業や団体の方が参考にできるようにすることも大切だと思います。その意味で、今回のアワードは非常に有意義な取り組みです。アワードを通して、みなさまが丹精を込めてつくり上げた商品を、社会に向けて発信してみませんか。障害者の働きがい・生きがいがあふれる、たくさんの商品に出会えることを心待ちにしています。
中間:本日は短い時間でしたが、貴重なお話をどうもありがとうございました。
■ディスカッションを終えて
経験豊かな3名の審査員のディスカッションは、実践的で大変聞きごたえのあるものでした。共通して重要視されていたのは、障害者の方の適性を尊重した労働環境づくりと基本的なブランディングの考え方です。障害者雇用の現場で産み出される優れたソーシャルプロダクツには、この参考になる多くのヒントが隠されているはずです。今年度のアワード参加商品に、大いに期待したいと思います。