2014 年 4 月、東京・南青山にオープンしたアトリエ「BISTARAI BISTARAI(以下、ビスターレ・ビスターレ)」はお花を通じたウェルフェアトレード(「Welfare=社会福祉」と「Fair Trade=公正な取引」を合わせた造語)を 提唱する日本初のフラワーショップです。こころやからだに障害を持つ方々がフラワーアレンジメントの技術を学びながら働く、という福祉施設は、全国的にもまだ数は多くありません。今回はビスターレ・ビスターレ及び一般社団法人アプローズ(以下アプローズ)の代表理事である光枝茉莉子さんにお話をうかがいました。
―まずは光枝さんがビスターレ・ビスターレを始めた理由について、お話いただけたらと思います。
前職で福祉保健局(都庁)にて 8 年間勤務していた際に、障害者施策や福祉施設を担当していた経験が大きな きっかけになりました。当時は行政の立場から東京都内の小さな事業所で働く方々の工賃アップを推進する立場にいたため、実際に事業所を見学したりお話を聞いたりする機会が多くあったのですが、皆さん口々に「商品 が売れない」「頑張って作ったけれど販路が無い」というお話をされていたんです。このように「工賃アップをしたくても方法が分からない」という方が多いなかで、自分が自ら事業所を立ち上げて、同じ視点からサポートできないかと思ったのですが、公務員を辞めることにも抵抗があり、5年ほど悶々と悩みました。しかし30 歳手前に差し掛かった時、「ダイレクトに社会に役立つことをしたい」と決心がつき、事業立ち上げに致しました。
―「お花」に着目した福祉施設はすごく珍しいですよね。
そうですね。せっかく事業を始めるのなら、まだ全国的にも新しい福祉の形を目指してみようと思い、お花に着目しました。当時はお花屋さんをやっている事業所が無かったですし。また、従来の福祉施設で働いている方々の事業内容が、例えばお箸を一つ一つ袋に詰めたり公園内の清掃だったりと、正直なところあまり皆さん楽しんで働いていないものが多かったように思えたことも大きな理由ですね。内職作業は特に工賃も1つ1円にも満たないような、低額なものがほとんどでした。その点お花は、「誰かを喜ばせたい」という気持ちで注文されるお客様が多いなと思ったので、自分も楽しく働けて人の喜ぶ顔も見れる、誇りを持てる仕事になるんじゃないかと思い、お花を手掛ける事業をスタートしました。右も左も分からない状態でスタートした事業ですが、現在オンラインストアやオーダーメイドでの注文も多々頂いております。
―ビスターレ・ビスターレはどんなお花屋さんなのでしょうか?
ビスターレ・ビスターレは店舗を持たないアトリエスタイルのお花屋さんです。現在はオーダーメイドとオンラインショップでフラワーアレンジメントを販売しています。季節の生花を用いた花束やフラワーアレンジメント、プリザーブドフラワーのギフトのほか、 クリスマスにはリース、お正月にはしめ縄なども販売しています。基本的にはオーダーメイドの商品を一つ一つ丁寧に作っているので、作品完成に3日~1週間、長くて2週間ほどかかることもあります。
オンラインでオーダーメイドを受け付けているのですが、贈り物として 頼まれるお客様も多いです。お客様のなかには「この人に合う感じで」とお写真を添付してくれる方も多いので、 スタッフがそれぞれ試行錯誤して丁寧に心を込めて作ってくれているなあといつも感じますね。
2015 年には商品配達の車両を購入するために朝日新聞社のクラウドファンディングサイトで600 万円近くの寄付をいただきました。そのご縁で朝日新聞で紙面を飾らせていただいたりNHKの取材を受けたりしたこともあります。その影響で「ビスターレ・ビスターレを初めて知りました」とお問合せしていただけるお客さんも増えました。
―職員さんにはどういった方々がいらっしゃるんですか?
現在福祉職が2名、技術指導を行う専門職が4名います。技術指導を行っている職員は全員長くお花屋さんに勤めていたプロの方々です。良いものを作ろうとするとどうしてもプロの方による指導が必 要になってくると思うんですけど、事業所でものをつくる場合ものづくりの経験のない職員の方が教えているケースが多いんです。アプローズでは国の定める基準の3倍くらい職員を配置しているので、人件費はかかるのですが、それぐらいはしないとお花の商品のクオリティは保てないなと思っています。今までお花を扱っている事業所が無かったことはこういったことに関係しているのかもしれません。
―アトリエで働いているアーティストの皆さんについて教えて下さい。
現在31名の方が在籍しており、精神障害を持っている方が大半を占めています。精神障害をお持ちの方が働く事業所は結構男性の方が多い傾向にあるのですが、ビスターレ・ビスターレは女性が圧倒的に多いですね。スタッフも全員女性なので、安心感を持たれて通われている方が多いのかもしれません。
―皆さんどういったスタイルで働かれているのでしょうか?
基本的には週3~4くらいのペースで通われている方が多いです。アプローズのグループ企業で特例子会社としてお花の仕事に携われるところもあるため、週5で働くことができるようになったらそちらに就労することもできます。
※障害を持つ方々が働く就労継続支援事業所にはA型とB型の2種類がある。A型は障害を持つ方が雇用契約に基づきながら一般就労を目指すもので、利用者には最低賃金以上が支払われる。一方でB型は雇用契約を結ぶことが困難な利用者が就労に必要な知識や能力向上も目的として工賃をもらいながら利用する事業所のこと。B 型の場合作業分しか工賃を得ることができず、平成24年度においては全国の月平均が14,190 円となっている。アプローズは就労継続支援B型事業。
―今後の展望やしてみたいことなどございましたら教えて下さい。
一番の夢は店舗をみんなで持つことですが、まずはお花を店頭販売できる路面店をオープンさせたいですね。「表参道などに路面店が出せたら良いね」ってみんなで話しています。あとはお花屋さんと併設したカフェも数年以内に出せたらなと思っています。今は配達専門ですが、自分で作った花束やフラワーアレンジメントをお客様にみてもらい、直接やり取りできればすごく良い刺激になると思います。
―ありがとうございました。