孟宗竹を使った竹製食器「カフェオレマグ」ー仲吉商事株式会社ー

2021/09/10

孟宗竹を使った竹製食器「カフェオレマグ」ー仲吉商事株式会社ー

百貨店に並ぶ商品の中で一際目を惹く竹製食器。原材料は、育成から加工まで独自の調査と技術開発で生まれた「孟宗竹」のみです。美しいラインと繊細なフォルム、そして職人によって最も薄いところで2mm厚に削りだされた食器は、注がれる飲み物や盛り付けた料理を美しく際立たせ、本来の味わいを引き立てます。

大切な誰かへのギフトにも、自分へのご褒美にもぴったりなこの食器はRIVERET(リヴェレット)。この事業を推進する仲吉商事株式会社は、竹が最小限の土地で繰り返し利用可能な天然資源であり、環境問題の一因である森林伐採を抑制する有効な資源活用法の一つと考えています。

 

RIVERETのカフェオレマグは丸みをおびた可愛らしいシルエットが特徴です。この商品はサステナブルな側面と美しさと温かみを兼ね備えたデザイン性が評価され、ソーシャルプロダクツ・アワード2021自由テーマ部門で、ソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。カフェオレマグを手掛ける仲吉商事は、RIVERETの他にも、ベビー・こども食器のブランドや天然木食器のブランド、さらには業務用竹木や素材開発などの事業も展開しています。

RIVERETシリーズ誕生までの経緯やグローバルにご活躍される事業展開の裏側、そしてSDGsを目指す社会における企業の役割などについて、仲吉商事株式会社 社長の屋田 高路様(以下敬称略)にお話を伺いました。

(インタビュアー:APSPインターン 中村)

 

元々の仕事がいつの間にかSDGsになっていた

中村:竹製食器というユニークなアイデア着想のきっかけについてぜひお聞きしたいです。

屋田:元々は竹や木を扱っている問屋でしたが、創立後すぐに、卸すだけでなく自分たちで作り始め、早30年ほどが経ちます。最初は爪楊枝や割り箸、お皿やボウルなどレストランやコンビニ向けの業務用商品が多かったのですが、これらの商品群では付加価値をつけにくく、厳しい競争下にありました。そこでもう一つ太い柱が必要だと考え、当社にとって全く新しい市場である家庭用商品に挑むことにしました。今までとは異なる、デザイン性のあるものを創りたいと考え、同じ加工技術を使って始めた竹製食器。それが2013年に始めたRIVERETという自社ブランドです。

プラスチックと違って一つからでも試作できるので、まずは10個をつくり展示会に出展したのが始まりでした。そこから徐々にお客様がついてきてくださり、8年をかけて現在のブランドに育てていきました。

世界中では木が減ってきていて、竹を使おうというのは約30年前から一つのムーブメントになっていました。竹の加工を始めたのもこのムーブメントがきっかけでした。実際、竹は3〜4年で育つ資源であるため、竹製食器は社会的課題の解決につながります。
このような社会的背景にフォーカスして生まれた商品ではないのですが、竹や木を取り扱っていた仕事がいつの間にかSDGsにつながっていました。結果としては、竹を取り扱い始めたのは企業の大きな転換点であったと思っています。

 

仲吉商事株式会社 代表取締役社長 屋田 高路様

 

「竹」は絶対に使ったほうが良い資源

屋田:RIVERETの素材に孟宗竹を使う理由は、雑貨の素材とし最適な素材が孟宗竹のみだからです。他の種類の竹は薄すぎて、加工のために皮を取ると使える部分が残りません。孟宗竹はある程度の太さと厚みがあり、加工をする材料も確保できますし、強度があるので素材として適しています。その代わり、加工はとても難しいのですが…。

木も竹も育つ時にCO2を吸収します。短い期間で大きな成竹になる竹を、いかに使い続けるかがサステナブルの観点からも重要だと思っています。その意味では、カーボンニュートラルの期間が非常に長いです。

さらに、竹は大きくて重い木よりも一本一本が扱いやすく、切ったり運んだりする際もCO2の排出を抑えることができます。このような調達の段階での意識も含めて、竹は環境に優しい素材なのです。

中村:ここ最近、竹素材は増えてきたように思います。

屋田: 環境配慮の側面もあって、みんな竹に魅せられて数十年…けれどなかなか竹で産業を作るのは難しい状況です。一見加工が簡単そうに見えても実際は非常に扱いにくい素材です、この業界では「竹の罠」と言っています(笑)。

実は、竹も木もどちらも絶対に使ったほうが良い資源なのです。今、日本では国内で増えている木を使わずに海外から輸入してしまっているため、林業が衰退しています。余った木や放置竹林などは毎年土砂崩れの原因にもなっています。

 

 

※竹の問題(竹害)について

竹製品がプラスチック製品などで代替されるとともに、竹材や竹製品、たけのこの輸入が増加し、生産者が高齢化してきたこともあり、国内における竹材、たけのこの両方の生産が衰退していった。(中略)また、竹林だけでなく、周囲の森林にも人手が入りにくくなったことから、森林に入った竹の伐採等の手入れがなされないため竹林が拡大していく。これが周辺への竹の侵入の原因であり、元の植生の衰退により森林の公益的機能の発揮に支障を生じることも懸念されている。

(林野庁:「竹の利活用推進に向けて」報告書(平成3010月作成)より)

 

竹は繁殖力が非常に強く、成長スピードも驚異的です、地下茎を持っていてそれが地中でどんどん拡大していきます、この驚異的な繁殖力により周りの木々が育つよりも早く生殖範囲を広げます、そのため他の木々の生息地域を減少させてしまいます。

 

「小川のせせらぎ」を表現したフォルム美

中村:ホームページの動画などを拝見しました。あの質感やフォルムを作るのはかなり高度な職人技が必要になってくるように見えるのですが…これまでに一番苦労したことは何ですか。

屋田:もちろんものづくりでの苦労もありますが、一番苦労したのは….売ることです。売れる商品を作り、市場を作ること。それが大変でした。

他社にも類似品がありますが、工芸品となると1万円を超える商品ばかりです。私は前職の経験から”機械の手を借りながら効率的に動く”という発想が得意。技術者ならではの視点があったので、その苦労を乗り越えられたのかなと思います。

中村:商品性だけでなく事業として安定した軸を持つことが重要なのですね。個人的にはRIVERETシリーズのすべすべな質感に驚いたのですが、他にこだわりなどありますか。

屋田:まさにそれが一番のこだわりです!弊社では「つるすべ」と言っています(笑)。ざらついているものは塗装直しを指示するなど、かなり質感は大切にしています。

生活者が百貨店などで見た瞬間に「なにこれ!」と思っていただけるように、1秒、2秒でびっくりさせる、心を奪われるようなフォルムを作ることが重要だと思っています。「riveret」は、細流・せせらぎ(little stream)を意味する「rivuret」の語源に当たる Old French(古期フランス語)です、細いカーブが特徴的な小川をイメージして、あのフォルム美を表現したいと思いました。SDGsや職人技術など、もちろん大事なことはたくさんありますが、店頭に商品が並んでいるところでは見えません。だからこそ見た瞬間の美を大切にして、そこで興味を持っていただいてからバックグラウンドを説明したいです。

 

 

透明性のある情報発信

中村:この商品はどんな方に買っていただきたいですか?SNSでは料理のある食事のシーンなどがたくさん投稿されていましたが、そちらのこだわりも含めて、情報発信をどのように行っているか教えてください。

屋田:RIVERETのターゲットはギフト需要やインテリアに興味のあるお客様です。そのための情報発信はとても大切にしています。自社のホームページやInstagramをメインに、YouTubeも活用しています。また、期間限定のPOPUPを様々な場所で行うことで実際の手触りを体感していただいています。リアルもネットも両方大事だと考えています。

Instagramでは「シズル感」を意識しています。リアルな使い方の提案をすることで、惹き付けるような画像を撮りたいです。これは全て自社で行っています。デザイナーやカメラマンもいますし、機材も揃えてかなり真剣にやっています。誰かに任せるのではなく、全部自社で行うことにこだわりを持っています。

中村:生活者の環境への意識や消費行動を変えるために、企業やブランドができることは何だとお考えですか。

屋田:企業自身がSDGsに沿った経営をしていることをしっかりと伝えれば、今の消費者様は価格が1.3~1.5倍高くても買ってくださることが多いように感じます。自分たちの経営を日々磨き上げていき、そのエビデンスとともに発信していくことが重要だと考えます。

やっていても伝えないと意味がないと思っています。情報発信も真摯に現状をありのままに伝えることを心がけています。今はここまでしかできていませんが、この目標を目指してやっていますといった伝え方を意識しています。透明性のある発信をすることで消費者様から応援していただけるようなメッセージになるのではないかと思います。

 

「本質を見極めて革新を楽しむ会社」だからこそ、現地のニーズをしっかりと捉える

中村:最近では、ニューヨークブルックリンの店舗で販売したり、Amazon U.S.を開始したり、パリにオフィスを設置したりと…海外への展開がたくさん見受けられますが、グローバル展開についてお教えいただけますか。

屋田:生産と販売の両面で海外展開をしているので、現地のニーズをしっかりと捉えることを大切にしています。グローバル展開は私たちが掲げる「本質を見極めて革新を楽しむ会社」に合っていると感じます。

中村:お国柄はやはり違いますか?

屋田:そうですね。海外(特に欧米)の方々は、”世間でとても売れている”ということには興味がなく、「私が好きかどうか」という基準で評価してくださる方が7〜8割です。どんな賞を受賞した商品だとか誰々が使っている商品だといった情報よりも欧米では良い意味で本当の商品価値を試されていると思います。

ヨーロッパですと、ドイツの生活者はとても厳しいです。「これは(自分にとって)何か良いことあるの?」というような機能性をとても重視する印象です。フランス人やイタリア人は「美」。使い方は気にしない代わりに、エレガントさや美しさということを重視します。このフォルムはどういう概念で作ったのかということまで聞かれます。

しかしどの国にも共通して大前提で問われるのは、私たちが企業としてサステナブルな取り組みをしているのかということです。社会や環境に良い企業でないと相手にしてくれませんから。

 

取扱い店舗の1つ、ニューヨーク、ブルックリンにあるJ+B DESIGN 

 

SDGsは実現すればするほど利益もついてくる

中村:今後の事業の展開についてお聞かせください。

屋田:フラッグシップショプをオープンさせたいなと思っています!リアルを大切にしたいので、常設の店舗をできれば2022年には叶えたいですね。

また、海外の展示会などに出展することで販路を広げていきたいです。国内ではホテルやレストランに販売していくことも考えています。今もいくつか採用してくださっているのですが、それをどんどん増やしていきたいです。

中村:ちなみに、売上目標などはどのようにお考えですか。

屋田:SDGsを指標とすると売上の向上は時としてSDGsの理念と相反してしまう場合があります、SDGsの理念から外れることなく少しずつ売上を上げていければと考えています。一応の目標は、自社ブランドだけで売上10億円を目指しています。そして、やはり利益率が高くないと社員が幸せにならないので、そこは大切にしています。

SDGsと利益が相反するとは一切思っていません。SDGsを実現すればするほどしっかりとした利益もついてくる社会になってきていると感じます。

 

【取材を終えて】

RIVERETのカフェオレマグは、私も見た瞬間のフォルム美に心を奪われた一人でした。孟宗竹のみで作り上げるものづくりの技術はもちろん、続々と国内・海外展開が広がる背景で、SDGsを大切にする経営の強みが印象的でした。竹や林業という側面から考えるサステナビリティも、今後大きくなっていく取り組みなのではないかと感じました。たくさんのプランを見据えるRIVERETの今後の展開にも期待していきたいです。

 

RIVERET(リヴェレット)公式サイト:https://riveret.jp/

RIVERET(リヴェレット)公式Instagram @riveret_insta: https://www.instagram.com/riveret_insta/

RIVERET(リヴェレット)公式 YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=gCQC7XuvXLw

仲吉商事 企業ホームページ:https://www.nakayo-shi.jp/

各種お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください。