ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>─カゴメ株式会社「野菜生活100 季節限定シリーズ」─

2020/09/18

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
─カゴメ株式会社「野菜生活100 季節限定シリーズ」─

カゴメのロングセラーブランド「野菜生活100」のパッケージで、身近な地域の特産品を見かけて親近感が沸いた経験のある人は多いのではないでしょうか。同社は2010年から、現在では和歌山県の有田みかんや福岡県のあまおうなど、地域の特産品を「野菜生活100」ブランドとして全国で発売する「季節限定シリーズ」を展開しており、2019年までに延べ26地域とのコラボレーションを実現しています。

同シリーズのコンセプトは、地域の特産品を全国で消費する「地産全消」。大企業ならではのユニークな仕組みで地方創生・農業振興に貢献する仕組みが評価され、「ソーシャルプロダクツ・アワード2020」では優秀賞に輝きました。

今回は、「季節限定シリーズ」の仕掛け人であるカゴメ株式会社 執行役員 マーケティング本部長の宮地雅典さまに、コンセプト着想や商品開発の経緯、各種プロモーション施策、今後の展望などをお話いただきました。

 

―地域の特産品を全国で消費する「地産全消」というユニークなコンセプトを着想したキッカケを教えてください。

地域の特産品を「野菜生活100」にブレンドして全国にお届けする季節限定シリーズは、2010年6月に発売した「野菜生活100 沖縄シークワーサーミックス」が初めての商品です。当時は、地方創生や農業振興といったテーマをそれほど意識していたわけではなく、シンプルに全国の美味しい食材を集めて商品化するための取り組みでした。

しかし、2011年3月の東日本大震災が転機となりました。当社の東北支店や工場などが被災し、飲料が出荷できない状況がしばらく続きました。

当時、私は中四国エリアの現場支店長を務めていました。飲料を出荷できないという状況下で、せっかく広島にいるのだから、この地域の特産品を活かした企画開発ができないかと考えました。これが、「地産全消」を着想したキッカケです。

地方創生を考えるとき、よく強調されるのが「地産地消」です。地方創生を実現するには、その地域の産業が潤うことと、観光客がその地域に来て経済を活性化してくれることの2つが重要になってきます。「地産地消」は、地域外で消費を促進するよりも、地域内における消費促進を目指す考え方です。

しかし、当社は全国に商品をお届けするNB(ナショナルブランド)の企業です。このNBの機能を、地域の生産者の方々にご活用いただくことで、全国の生活者に地域のおいしい特産品を知ってもらえる仕組みとして「地産全消」を展開しています。

「地産全消」のロゴ

 

―つづきまして、「野菜生活100」季節限定シリーズの商品開発の経緯をお聞かせください。

早速、この地域の名産の素材について広島県庁の方とお話させていただきました。そこで、すでに有名だったお好み焼きや牡蠣の他に、レモンを売り出したいという声を伺いました。その後すぐ、本社の商品開発部と連携して商品の企画開発に取り組みました。広島県は、レモンの国内生産量がトップです。今でこそ瀬戸内レモンは全国区ですが、当時はそれほどブランド化されていませんでした。

地方創生や農業振興を意識して、カゴメが行政と商品の企画開発に取り組むのは、広島県との連携が初の試みでした。広島県と包括提携を結び、生産者さんとの関係づくりや、「野菜生活100」とレモンの適切なブレンド比率の研究などに取り組んでいきました。試行錯誤の末、2012年の2月に「野菜生活100 瀬戸内レモンミックス」の発売にこぎつけました。この商品が好調に販売されたことで、翌年の広島県産のレモンが品薄になってしまいます。そこで、瀬戸内でレモン生産が盛んな愛媛県とも包括提携を結んでいきました。

広島県ではその後レモンブームが到来し、カゴメの商品だけでなく、たくさんのレモンを使った商品が発売されました。広島県庁は当時、年間5,000トンから6,000トンの収穫量だったレモン栽培を、10,000トンまで増やす計画などを構想します。収量を増やすということは、耕作面積を増やし、より多くの雇用を創出するということです。そして、レモンを活用した多くの商品がお土産屋や県内外の小売店に展開されます。このように地域の経済が潤っていくのです。

特産品を1つの柱とすることで、地域の農業と産業がつながり、一次産業+二次産業+三次産業の六次産業化が実現できます。この取り組みは、カゴメの売り上げにもつながると同時に、生産地域の地方創生・農業振興にもつながっていくことを肌で感じました。

「野菜生活100 瀬戸内レモンミックス」が店頭に並んだ様子

 

カゴメの野菜飲料の歴史を辿ると、もともとはトマトジュースと野菜ジュースが中心でした。購入層は、健康志向の高い50代以上の方が中心で、やや間口狭い市場でした。そこでさらなる市場を開拓し成長していくために、より若い層を意識し、野菜50%/フルーツ50%の飲料「野菜生活」を開発した経緯があります。オリジナル(通常)の他、紫(ベリーサラダ)、黄色(マンゴーサラダ)、赤(アップルサラダ)などのカラフルなラインナップ展開、紙容器やペットボトルなどの容器や容量のバリエーションを増やすことで、商品の幅が広がり、事業も成長していきました。

その次にブレンドする特産品に個性と魅力がある「季節限定シリーズ」です。春には広島の瀬戸内レモン、夏には沖縄のシークワーサー、秋には山形のラフランス、冬には熊本のデコポンといった具合に、四季折々で全国各地の特産品をお届けできれば、さらに商品の幅が広がりました。

実際、2019年時点で「季節限定シリーズ」の累計販売本数は、6億本以上に及び、直近5年間は毎年1億本以上の販売を達成しています。

2020年前半の「季節限定シリーズ」ラインナップ

 

―「季節限定シリーズ」は、大ヒット商品になったのですね。関係者からの反響はいかがでしたか。

「季節限定シリーズ」に関わる沢山の方から、商品やその製造過程を通して、生産者の熱い魂が感じられ身が引き締まったと伺っています。

カゴメの現場担当者が畑に赴き、生産地を目で見て、生産者から直接お話を聞き、自分の舌で農作物を味わった上で、地域のパートナーと商品を開発する。この過程を通して、現場担当者には商品に対する熱い魂が芽生えてきます。

すると、生産者から現場担当者に伝播した熱い魂が、今度は小売店やスーパーの店員さんなどにも伝わっていきます。当然、接客や商品陳列にも気合いが入り、地域の美味しいものを沢山売ろうといった熱い気持ちで販売してくださいます。

そして販売に関わった店員さんの熱い魂は、最終的に生活者まで届けられ、想いと共感による消費が促進されていくのです。

そのような想いと共感による消費をさらに拡大するべく、日本地図上で生活者が生産者とつながることができるスペシャルサイト「笑顔をつなぐプロジェクト」を公開しています。

具体的には、栽培のこだわりや特産品の魅力、農場の様子、農家さんからのメッセージ、コンセプトムービーなどを掲載し、特産品やそれを産み出す地域・生産者に興味・関心をもつキッカケづくりをしています。

笑顔をつなぐプロジェクト」TOPページ

 

地方創生や農業振興を目指す上で、実際に生産している農家の方に、苦労や特産品の魅力を語っていただき、それを生活者に知ってもらうことは大切だと思っています。商品の背景にはメーカーや小売業、生産者の方などの熱い想いがあり、それを一番伝えられるのは、農家の方が顔を出して声を届けることではないでしょうか。

この「笑顔をつなぐプロジェクト」も関係各位からの反響が大きく、とくに生産者と生活者(購入者)の方々にお喜びいただいています。

 

―地域の特産品が起点の商品開発は、通常(生活者のニーズが起点)とは異なる印象を受けました。「季節限定シリーズ」展開の根底にある考え方について教えてください。

「季節限定シリーズ」の展開は、社会課題の解決のひとつである、「地方創生」「農業振興」の考え方に基づいています。

通常、NB(ナショナルブランド)のマーケディングでは、全国にいるより多くの生活者のニーズをとらえた商品を企画・展開します。すなわち、生活者のニーズが起点です。そのニーズに応えるための商品を企画設計し、それを実現するために必要な原材料の調達や製造技術を実現し生活者へ提供します。それらを適切にコーディネートできたとき、私たちが日ごろ買い物しているお馴染みの商品たちが完成します。

一方、「地方創生」「農業振興」では、地域や特産品の魅力を活かした商品、生産者の想いやこだわりを余すことなく引き出せる商品を企画・展開しようとします。つまり、地域の資源が起点となります。その資源を活かすために、地域のパートナーや取引業者と連携しながら、生活者に受け入れられる商品を作り上げていきます。

また、地域と連携することで、行政の中長期的構想が見えてくるという副次的メリットもあります。その構想を実現する上で、我々として何か協力できることがあれば、新たな事業機会や価値創造、地域の魅力的な資源をご紹介いただいたりすることにつながります。

例えば、地域住民の健康寿命の延伸という構想を実現するために、行政とカゴメで「野菜摂取促進」や「食育」に取り組めれば、生活者に商品のみならず、それ以上の価値を提供できることになるのです。

カゴメ株式会社 執行役員 マーケティング本部長の宮地雅典さま

 

―最後に、今後の展望についてお聞かせください。

「トマトの会社から野菜の会社になる」ために、様々な取り組みを進めています。食文化の多様化が進む現代では、事業領域を拡大する必要性に迫られています。

野菜の摂取は、健康的なライフスタイルそのもので、ひいては「健康寿命の延伸」に貢献します。しかし、この10年、野菜摂取量は国民1人当たり1日約290gと言われており、厚生労働省が推奨する350gに、あと60g足りないのが現状です(出典:厚生労働省「平成21〜30年 国民健康・栄養調査」、「健康日本21」)。

カゴメはこの60gのギャップを埋めることで、「健康寿命の延伸」という社会的課題の解決と、事業成長を両立していきたいと考えています。具体的には、2025年までに国内への野菜供給量を現在の62万tから、野菜摂取量のギャップを埋めるために必要な83万tにまで拡大することを目標に定めています。これはカゴメの統合報告書にも明記しています。

カゴメ「統合報告書2020」p.29

 

国民1人ひとりに、毎日あと60gの野菜摂取を促すことは非常に高いハードルです。カゴメ1社で行うには限界があります。そこで、様々な分野の異業種19社と連携して、楽しく野菜を食べるライフスタイルを産み出す「野菜をとろうキャンペーン」、「野菜摂取推進プロジェクト」を始めました。

1例として、ANAセールス様とのコラボ企画をご紹介します。同社は、「旅×仕事×健康」をテーマにした新商品「ワーケーション in 沖縄」を発売しました。ワーケーションとは、「ワーク」と「バケーション」の造語で、観光地やリゾート地などで休暇をとりながら、テレワークをすることを指します。沖縄の滞在先では、カゴメと共同で開発した沖縄野菜入りのスムージーを振舞われ、参加者は、60g分の野菜を摂取することができます。

もう1例、大和証券とのコラボ企画をご紹介します。同社は、自社のモバイルアプリとカゴメの「ベジチェック」を活用した、野菜の摂取量や知識量を競う「チーム対抗!ベジ選手権 4週間チャレンジ」という健康増進プログラムを立ち上げました。メンバーが野菜摂取量を登録したり、野菜にまつわるクイズに正解したりすることで得られるポイントの合計をチーム間で競います。企業や自治体への導入が想定されたプログラムで、ランチタイムに野菜を取り入れることや、仲間内での野菜に関する知識や話題の提供を、ゲーム感覚で楽しく促すことを狙います。

「ベジチェック」とは、手のひらをセンサーに20秒程度のせるだけで野菜の充足度(12段階)と、推定野菜摂取量で測定できる機器です。カゴメがドイツの光学機器メーカーと共同で開発しました。

チーム対抗!ベジ選手権 4週間チャレンジ」アプリの画面イメージ

 

「野菜摂取量の拡大を通した健康寿命の延伸」という社会的課題の解決を指針に、パートナーシップで野菜の需要自体を底上げし、生活者が楽しく野菜を食べるライフスタイルを創造していくことが、今後の展望です。

 

―とてもワクワクする展望ですね。貴重なお話の数々、ありがとうございました。

 

【インタビューアー】

◆APSP研究員 / 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 :樋口 晃太

APSPにて、「生活者の社会的意識・行動」や「ソーシャルプロダクツの成功要因・課題」などを明らかにするための調査・研究事業に従事。福島県で農業支援事業を営む家庭に育ち、学部生時代は震災復興やオーガニック農業の支援活動に取り組む。現在は、中央大学の博士後期課程に在籍し、「CSV(共通価値の戦略)」を研究。

この企業について

カゴメ株式会社

愛知県名古屋市中区錦3丁目14番15号

https://www.kagome.co.jp/company/

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