「CITIZEN L (シチズン エル)」は、ジュエリーのようなデザイン性と、「エシカルなものづくり」を両立させたレディスウオッチブランド。シチズン時計株式会社の基幹技術である、定期的な電池交換がいらない光発電エコ・ドライブを全モデルに搭載しています。2016年に日本デビューするにあたって企画開発に携わった、商品開発部の前田花菜様にお話をうかがいました。
-まずは、「CITIZEN L 」開発の経緯を教えてください。
「CITIZEN L 」を一言で表すと、「地球も自分も美しくする、エシカルなジュエリーウオッチブランド」です。女性にエシカルの気づきを与える、サスティナブルな社会の実現に貢献したいという思いがこめられています。2012年にヨーロッパを中心とした海外で立ち上がったブランドですが、2016年にエシカルというコンセプトを入れて、日本デビューと同時に世界に向けて伝え直しました。
2012年当初には、全世界の女性が美しいと感じるキーワードを「自然の美」と設定しました。ですが「自然の美」は国によってイメージが異なっていることに気がつきました。その違和感から、2014年から世界共通の美を再検討し始めました。それが何なのか、毎日プロジェクトチームで議論していくなかで、「人にたとえたら?」という話をしたときに、オードリー・ヘプバーンやダイアナ妃の名前が挙がりました。その共通点は何かと考えて、積極的に社会貢献をしていたという内面の美に気づいたのです。
女性は、若いときは見た目が気になるものですが、年を重ねるとその人の生き方が出てきて、内面の美がその人を輝かせます。私たちも、時計のデザインについて、表面的な部分のことばかり考えていたと気づき、そこで「時計の内面の美とは?」と議論を進めました。
ちょうどその頃、商品開発部がCSR部と同じフロアに移動しました。なかなか触れ合う機会はなかったのですが、ある日、CSR部の人が国連のTシャツを着ていたんです。「なぜ国連のTシャツで会社に?」と話しかけたところ、実は商品で何かやりたいという思いがあったらしく、意気投合しました。
こうしてCSRのプロと共に「時計の内面の美」を追い求めていくなかで、「エシカル」というキーワードが出てきたのです。商品開発部では、見た目や値段といったことばかり考えてきたので、新しい視点が新鮮でした。さらに部署を横断していろんな人に話を聞きに行き、「エシカル」を取り入れるという方向性が固まりました。私自身、育児休暇が終わって復帰したところというタイミングで、主役が子供になり、未来が気になりだしたというのも影響していたと思います。女性は部署に限定されない横のコミュニケーションが得意なのか、プロジェクトは自然と女性が中心になり、男性がそれを支えるかたちになりました。
-「エシカル」な時計とは、具体的にどういうものでしょうか?
「エシカル」には「倫理的」という意味があり、「CITIZEN L 」では、
●製品成分表の公開
●CO2排出量の公開
●DRCコンフリクトフリーを宣言
●取扱説明書スリム化
●サスティナブルな時計パッケージ
といった5つのエシカルコミットメント※を特徴としています。
(※各コミットメントの詳細はこちらです。 https://citizen.jp/l/special/story/index.html )
やりたいことを決め、どこの部署が関わっているかを書き出した後、一つひとつ話をしていき、皆の協力のもと作ることができました。ちょうど、部品の仕入れ先などを事細かに記すというシステムを取り入れたばかりだったのもあり、当時の環境マネジメント室長もとても積極的に動いてくれました。
-初の全世界統一ブランドに「エシカル」のコンセプトを入れるということで、社内や取引先での反応はいかがでしたか?
初期の段階で、取締役のブランドマネジャーから「いいと思う、やったほうがいい」と前向きに受け止めてもらえたことでプロジェクトが動きだしました。当初は「CITIZEN L 」だけが新しいことを始めたという感じでしたが、2019年4月には会社としてSDGs達成へ貢献する宣言をし、時代もそういう流れになってきているのを感じます。
取引先の方々には、2016年当時は「なんかいいことしてるんだね」という程度で、あまり魅力を感じてもらえていませんでした。それが時代も変わってきて、店舗の人たちもSDGsやエシカルという言葉を普段の生活で聞くようになってきたという変化があります。
-お客様からはどう受けとめられたのでしょうか?
2016年の時点では、既存顧客には分かってもらいづらく、エシカルを理由に買おうという人はいませんでした。デザインが気に入れば購入するという時代でした。それが変わってきて、最近ではエシカルかどうかという観点で物を選んでいる方が増えてきています。ここ数年で、ファッション業界もリアルファーをやめたり、プラスチック製ストローの廃止が話題になったりと、急速に意識が高まってきています。自分のために生き物が……と思うとイヤな気持ちになるのは、特に女性の肌感覚としてはあると思います。
実際、2018年度の国内での売上は、2016年度に比べて6割増になりました。購入層は、おそらく価格の影響もあって、上の年代の方が多いです。ただ、意識は若い人のほうが高いと感じています。若い人は学校の授業で勉強もしてきていますから。結果として幅広い年代に支持されています。
-今後の課題や展望を教えてください。
エシカルという理念について、「CITIZEN L 」を通じて興味を持ってもらいたいのですが、店頭で伝えきれていないことに苦労しています。語っていかないと伝わりませんが、セールストークや店頭演出の中で出していくのは、非常に難しいのです。今は「CITIZEN L 」のデザイン力を前面に出しながらエシカルの要素を伝えるというような、2段構えの形で、エシカルブランドともっと分かるように伝えることが課題です。
エシカル=素敵なことだよ、ということも伝えたい。そのためにも、視覚的・感覚的に素敵だと感じられたり、例えば誰もがエシカルと分かるような素材を製品に取り入れていきたいです。蜘蛛の糸やリサイクル素材など、可能性はいろいろあると思っています。
-ありがとうございました。
(インタビューを終えて)
東京・表参道にあるシチズン時計株式会社のCITIZEN DESIGN STUDIOでお話をうかがいました。白を基調としたとても素敵な空間!すっかり時間を忘れてしまいました。ご対応いただいた前田様、ありがとうございました。
ちなみに、シチズン時計株式会社の「DRCコンフリクトフリー宣言」は、製品に使用しているスズ、タングステン、金などの鉱物が、違法な採掘によるものではないことを確認する取り組みなのですが、これは競合他社に先駆けたものです。一人でも多くの生活者に、このような素晴らしい取り組みの意味が届いてほしいと思います。
【参考資料】
CITIZEN L スペシャルサイト
https://citizen.jp/l/special/index.html
シチズン/シチズングループ紛争鉱物対応方針
https://www.citizen.co.jp/social/materiality/sourcing/partner/index.html