今回は、経済的リターンとともに社会的リターンも追求する革新的な債券の販売を通じて、持続可能な社会づくりに取り組む大和証券株式会社をご紹介します。ワクチン債をはじめとする社会貢献型の投資について、大和証券株式会社広報部の岩井様にお話を伺いました。
大和証券株式会社広報部 岩井様
―御社では、経済的な側面だけでなく、社会的な側面におけるリターンも追求する金融商品を色々と取り扱っておられるそうですが、どのようなものがあるのでしょうか?
弊社では、そのような商品を「インパクト・インベストメント債券」と呼んでいます。 一般的に株式投資・債券投資というと、経済的なリターンのことだけが頭に浮かびますが、このインパクト・インベストメント債券は、途上国の貧困や予防医療、気候変動などの課題解決といった社会的なリターンも考えて作られています。弊社で取り扱うインパクト・インベストメント債券には、集まったお金がアフリカの教育に使われる、その名も「アフリカ教育ボンド」や、子どもたちへのワクチン接種に使われる「ワクチン債」、貧困層の自立のための小規模融資に使われる「マイクロファイナンス・ボンド」などがあります。いずれも、社会的課題の解決のための資金調達を目的とした商品です。
インパクト・インベストメント債券は基本的に外貨建債券です。利率はその時の市場金利なので、同時期に販売されている他の外貨建債券と同じです。つまり、社会的リターンのある商品だからという理由で、経済的リターンが見劣りするということはありません。我々のお客様である投資家は、このようなインパクト・インベストメント債券を購入することで、経済的なリターンを受けながら、社会的課題の解決にも貢献できるというわけです。
―「ワクチン債」がどのような商品なのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
ワクチン債は、予防接種のための国際金融ファシリティという組織(IFFIm)が、GAVIアライアンス*の予防接種プログラムを展開するための資金調達を目的に発行する外貨建債券です。ユニセフ等の国際機関が途上国での予防接種プログラムに取り組んでいますが、資金的な制約もあってまだまだ不足しているのが現状です。そこで、足りない予防接種を少しでも補うべく発行されるのがワクチン債です。
2006 年から、ワクチン債の発行によりこれまで 38 億ドルが調達されました。ワクチン債の償還原資は、英・仏・伊等 の 9 カ国が長期(8~23 年)に渡り拠出する、取り消しが不可能で法的な拘束力を有する IFFIm への寄付金です。つまり、ワクチン債は、将来の寄付を今活用するための「タイム・マシン」のような役割を果たしていると言えます。この仕組みにより、今現在予防接種を必要としている子供たちへワクチンを届けることが可能となるのです。2000年からGAVIを通じて、累計 3 億 7000 万人の子供たちに予防接種を行ってきました。これにより 550 万人以上の 5 歳未満の子ども 達の命が救われています。
*ワクチンと予防接種のための世界同盟
図:ワクチン債の仕組み 大和証券株式会社 HP より引用
―ワクチン債を購入する投資家に、何か特徴はありますか?
金融資産を多く持つ 60 代以上の投資家が多いのは、どの商品にも共通していますが、ワクチン債においては、男性よりも女性の投資家が多く見受けられます。一般的な株式や債券では、投資家の男女比は半々ですが、ワクチン債では男性:女性=4:6の割合です。
ワクチン債を購入した投資家のうち、30代以下は全体の5%程度ですが、この中には、子供を持つ女性投資家もいます。自身の子供に、「途上国の子供たちの中には、ワクチン接種を受けられずに死亡する子供が大勢いる」ということを伝えた上で、この問題の解決に貢献することの重要性や方法を教えるきっかけのひとつとして、ワクチン債を購入 したのだそうです。今まで投資には興味がなかった人が、ワクチン債のようなインパクト・インベストメント債券を購入する例もあり、新たな投資家の誕生にも一役かっていると思います。
―御社のインパクト・インベストメント債券のような社会的な側面を持つ金融商品は、日本国内でどれほどの取引規模があるのでしょうか?
弊社債券営業部の調査によれば、弊社がインパクト・インベストメント債券の本格的な取扱いを始めた 2008 年 3 月から 2013 年 3 月の 5 年間での国内取引金額は6,972億円に上ります。そのうち、約 65%にあたる 4,502 億円が、弊社の取引金額です。その内訳としては、約35%が気候変動に関する商品、約29%が途上国の貧困削減に関する商品、約28%がワクチン債です。特にワクチン債は、弊社が2008年に初めて日本国内での取扱いを開始した商品です が、日本の個人投資家の関心が大変高い商品です。2013年3月までに、弊社の 5 回を含む全 11 回のワクチン債の販売で合計 19 億ドル(大和証券の販売では 13 億ドル)が調達されていて、これは全体の調達資金の 50%を占めます。
債券投資を通じて社会的課題の解決に貢献したいという動きは、個人投資家のみならず、機関投資家にも広がっています。2010年以降、「グリーン・ボンド」や「ウォーター・ボンド」等のインパクト・インベストメント債券へ投資する地方銀行が増えており、これまでに120億円を超す起債が弊社を通じて行われています。
―インパクト・インベストメント債券を販売する上での工夫や取り組みとして、どのようなことがありますか?
証券会社は、投資したお金がどのように使われ、どのような結果に結びついたのかということを投資家にわかりやすくお伝えすることが重要だと考えています。そのため弊社では、債券の発行体に活動の経過報告レポートの作成を依頼し、日本語に訳したものを投資家へお届けしています。数字等で可視化できない社会的リターンは、投資家からの資金によって社会的課題がどのように改善・解決したのかを具体的に報告することで、実感してもらえるようにしています。「投資を通じた社会貢献―インパクト・インベストメント」という特設サイトで情報発信をしています。
少し余談になりますが、インパクト・インベストメント債券の中には、発行体からの報告がきちんとなされない等の理由で、継続的な販売を見合わせている商品もあります。私どもには、信頼できる機関から発行されている債券であることを担保する責任があり、それは、社会性のある商品の場合により重視しています。
―今後の目標を教えてください。
現在、国内では約 800 兆円もの個人現金資産が銀行に預けられています。そのうちの 1%でも社会的リターンのある投資に活用できれば、大きなインパクトを生むことができます。インパクト・インベストメント債券への理解を深めてもらうために弊社で開催しているフォーラムの参加者アンケート によると、社会的リターンのある債券への賛同率は100%、投資の際に重要視する項目は「成長性」と「社会性」という結果でした。弊社が今までに発売したインパクト・インベストメント債券が全て完売していることからも、経済性や収益性だけではなく、社会性を兼ね備えた金融商品のニーズは高いと思います。
今後は、まだまだ認知度が低いインパクト・インベストメント債券の取り扱いを増やし、各商品のプロモーションに力を入れることで、個人金融資産を「貯蓄」から「投資」へ流動させ、この市場を拡大・活性化していきたいと思います。