日本では年間59万頭以上の鹿が駆除されているのをご存じでしょうか。農作物の保護のため、これだけの鹿が有害鳥獣として駆除される一方で、そのほとんどが有効活用されていません。この問題に目を向け、映画監督として活動されながらも鹿革製品ブランド「DIYA」を立ち上げた蔦哲一郎様にお話を伺いました。
―はじめに、「DIYA」がどのようなブランドかを教えてください。
徳島県の祖谷地方でやむなく駆除された鹿の革と、徳島県で盛んな天然藍染を活用した革製品のブランドです。日本の里山では、農作物を保護するために多くの有害鳥獣が駆除されていますが、それが十分に有効活用されていません。また徳島県の伝統技術「阿波藍」をもっと広めたいという思いもあり、有害鳥獣の活用と天然藍の普及といった二つの課題に目を向けた商品の製作を行っています。
―ブランド立ち上げの際、どのような経緯やきっかけがあったのでしょうか。
私は映画監督の仕事をしていて、2011年から祖谷地方を舞台にした映画「祖谷物語-おくのひと-」の撮影を行っていました。そこで地元の猟師さんと関わっていくうちに、害獣被害や里山の現状をいろいろな方に知っていただきたいと思うようになり、地元の方達と協力してできるプロジェクトとしてDIYAを立ち上げました。2017年にはクラウドファンディングを実施し、そこで害獣被害や藍染に関心のある方々から支援していただけてプロジェクトが実現していきました。
DIYAプロジェクト シカけニン 蔦哲一郎様
―鞣(なめ)し、藍染、製品づくりなど各工程で専門の企業や職人の方が協働されていますが、この協働はどのようにして実現されたのでしょうか。
私自身、アパレルや革製品に関して素人だったので、協業をお願いしたい人にあたっていきました。プロジェクトへの思いを伝えることで、それに賛同する方達に協力していただけるようになりました。鞣しに関しては、伝統的な製法で取り組まれているところが多く、駆除した鹿の革を扱うということに経験がないということなどから、なかなか協力していただける方が見つかりませんでした。しかし和歌山県の藤本安一商店様が思いに共感してくださって、協働していただけるようになりました。すべてが初めての経験で勉強しながらだったため、その後も鞣し方や藍染の仕方など各工程の調整は大変でした。普段の映画製作においてもたくさんの方と関わり合いながら作品を作り上げていますが、そんな中で培われた折れない心がDIYAのプロジェクト開発にも活かされています。
藍染サコッシュ(大) 吹雪(ローケツ藍染)
―商品を製造するにあたって、こだわっている部分を教えてください。
天然の藍にこだわっています。DIYAでは、徳島で伝統的に生産されている「すくも」という天然染料を使った「天然灰汁発酵建て本藍染め」という伝統技術を使っています。
現在、徳島県での天然藍の作り手は五軒程しか残っていません。こういった現状も踏まえて、天然藍や伝統技術の良さを伝えていくこともこのブランドの一つの目的にしています。
また、DIYAの製品に使われるデザインの一種「吹雪(ローケツ藍染)」は、藍染と「ローケツ染め」を融合させた商品です。「ローケツ染め」というのは、生地にロウで模様を描きそのまま染めることで、ロウを塗った箇所以外を綺麗に染めることのできる伝統的な染色法です。もともとは着物などに使われる技術ですが、牛革でローケツ染めをされている『スクモレザー』さんを見て、ぜひやってみたいと思い取り入れました。この方法により、とても綺麗で不思議な模様ができあがっています。
―DIYAの商品をより多くの方へ届けるために、どのようなプロモーションを行っていますか?
ブランドホームページの運営と、催事への出店に力を入れています。
ブランドホームページでは商品を買えるようにしているほか、私の思いやこのプロジェクトの経緯を載せて、里山管理の課題や徳島の伝統技術について伝える工夫をしています。DIYAのブランドホームページへは「藍染、鹿、財布」といったキーワードで検索してアクセスされる方が多いので、それらのキーワードをホームページ上に取り入れるようにしています。
また、2019年から東京都内のファッションビルや百貨店にポップアップストアとして出店しています。映画関係の仕事で吉祥寺のパルコ様にご縁があって、DIYAを短期間で出店できないかとお願いしたところ、2月にエスカレーター横の場所を2週間借りることができました。そのポップアップストアをきっかけに、SoooooS.カンパニーや東急様のご担当者に声をかけていただき、2019年は6回ポップアップストアとして出店することができました。現在は新型コロナウイルス感染症などの影響もあって出店はありませんが、今後は月に1回のペースで出店していきたいと思っています。
―DIYAの購入者からの反応や、販売する上での工夫を教えてください。
藍染の綺麗さ、鹿革の柔らかさや軽さを気に入っていただいています。また今まではターゲット設定は特にせずユニセックスを意識した商品を販売してきました。購入者層としては30代から50代の女性が比較的多いので、今後は男性用や女性用の商品も制作していきたいと考えています。
DIYAは2019年から有限会社データプロと提携していて、商品のマーケティングについて客観的な意見をいただけるようになりました。今まではDIYAに対する自分の思いを伝えることを大事にしてきましたが、これからはそれに加えてより多くの方にDIYAが届くような販売方法、ブランド情報の伝え方も意識していこうと思います。ブランドホームページなども、よりわかりやすく商品の魅力を伝えられるものにしていきたいですね。
―商品や有害鳥獣の現状、伝統技術について今後の課題や展望を教えてください。
催事への出店とネット上での商品販売は、今後も積極的に行っていきます。それにとどまらず、DIYAというプロジェクトを大きく広めていくためのプロモーションとして、今まで行っていなかったネット広告に注目するほか、新たな販路を探していきたいと思っています。
また有害鳥獣に関しては、一定数は駆除しないといけない現状ですが、駆除された個体の活用はまだ十分にされていません。DIYAでは毎年約200頭の鹿の皮を活用していますが、祖谷地方全体では年間1500頭ほど駆除されています。今後はふるさと納税の返礼品として鹿革製品を採用してもらうなど、DIYAの有効活用の場を広げていく予定です。
伝統技術は、日本特有のものです。東京オリンピックのエンブレムが藍色なことからも、オリンピックが開催されることにより日本の伝統技術が注目され、藍染が盛り上がる可能性は十分にあるのではないでしょうか。そうした中で、徳島の伝統技術の技と魅力を伝える味わい深い「ジャパンブルー」である、DIYAの商品をより多くの方に手に取っていただけるよう引き続きプロジェクトに取り組んでいきたいです。
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(取材を終えて)
映画監督として活動されてきてアパレルや革製品には精通していない中でも、様々な方々と協働しながらプロジェクトを開発、発展させていく話はとても興味深いものでした。新たなプロモーションで大きく広がっていくDIYAの今後に注目です。ご協力ありがとうございました。
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DIYAのサイト
https://diya.jp/