美しい輝きで私たちを魅了するジュエリー。しかしその背景に、低賃金で働く途上国の鉱山労働者や研磨職人、紛争鉱物などの課題があることをご存知ですか?2011年に創立された株式会社EARTHRISEでは、途上国を中心とした13カ国からフェアトレード/エシカルな素材を開拓し、ジュエリーのデザイン・制作までをプロデュースしています。EARTHRISE設立に影響をあたえた出来事や取引先の方々との出会いなどについて、同社代表・ジュエリーデザイナーの小幡星子さま(以下敬称略)にお話を伺いました。
※EARTHRISEの「月桂樹コレクション」はソーシャルプロダクツ・アワード2016にて生活者審査員賞 を受賞しました。
(インタビュアー:APSPインターン 石原)
幼い頃から関心のあった途上国の支援・課題解決
石原:はじめに、小幡さまのバックグラウンドをお伺いします。EARTHRISEの設立・活動に影響をあたえた出来事はありますか。
小幡:原体験は、5歳の時に初めてもらったお年玉の半分を母の提案で途上国の子どもたちを支援する活動に寄付したことです。これをきっかけに途上国の現状や課題を知り、興味を持つようになりました。
石原:幼少期にこのような経験ができるのはとても素敵ですね。
小幡:また、小学校中学年の頃、国連難民高等弁務官として活動されていた緒方貞子さんのニュースを目にする機会が多く、現場の声を聴いて大変な立場の人々を支援する姿がかっこいいと思ったことを覚えています。その後、大学では国際関係論などを勉強しました。
石原:小さい頃から大学にいたるまで、一貫した興味関心を持っていらっしゃったのですね。
小幡:はい。そして大学時代に知り合ったフィリピン人の友達に、「なんで先進国の人々は支援として物やお金をくれるんだ。僕たちは公平なビジネスチャンスが欲しいのに。同じ人間なのに哀れまれたり、宗教・国籍・人種などで差別されて、能力があってもそれが活かせない状況が悔しい」と言われたんです。この言葉を聞いて、途上国の人々が置かれている状況を可哀そう・恵まれていないと思うのは失礼だったということに気付きました。これをきっかけに、途上国の人々と一緒にビジネスとして取り組めることは何かを模索するようになりました。
EARTHRISE代表・ジュエリーデザイナー 小幡星子さま
ずっと好きだったジュエリーならば、苦しい道でも進んでいける
石原:なぜジュエリーという商品領域でビジネスを始められたのですか。
小幡:私がジュエリーに興味を持ったのは、中学生の時に母親から父方の祖母の指輪を譲り受けたことがきっかけです。祖母が亡くなるまで身に着けていたその指輪は、だからこそたくさん傷もあって、よく見ると祖母の指の形に変形していました。この時、ジュエリーは人をきらびやかにするだけではなく、人の想いが詰まっている奥の深いものだなと感銘を受けたんです。当時(=中学生の頃)、ジュエリーデザイナーになりたいと思っていたのですが、厳しい世界ということもあり母に反対をされていました。なので実は最初、ジュエリーでビジネスを行うことは封印していたんです(笑)
石原:そうだったんですね!それでもやはり、ジュエリーでやっていくと決心されたのはどうしてですか。
小幡:ジュエリーの素材の多くが途上国で採掘されているため、途上国の人々と関わっていくことができます。また、「ブラッド・ダイヤモンド」という映画が公開されたことで紛争ダイヤモンドが話題となり、興味を持って調べたりしていました。大学卒業後からOL時代にかけて、何の分野で途上国の人々と一緒にビジネスをしていけるだろうと試行錯誤した結果、ずっと好きだったジュエリーであれば、どんなに苦しい状況に直面してもやっていけると思えたんです。
ジュエリーの生産に携わる途上国の人々への配慮
石原:EARTHRISEの活動を通じて、具体的にはどのような課題解決に取り組まれていますか。
小幡:途上国にある鉱山でジュエリーの素材(石)を採掘する労働者は、石の知識が十分でないために、バイヤーに石を買いたたかれることが横行しています。鉱山労働者もその日を暮らしていくために、安価な値段でも石を売らざるを得ない状況です。このような採掘現場の労働者や現地で石を研磨する職人たちに、フェアトレードとして正当な対価を支払うように取り組んでいます。また、現地女性の自立支援やEARTHRISEの売上の一部を現地の子どもたちの教育支援にあてる活動を行っています。そして紛争鉱物※を扱わないように、その素材(石)はどこで採掘されて、どういったルートで流通してきたのかを明確にしています。(詳細:エシカルジュエラーであるために、大切にしている10のこと。/こだわりのエシカル素材とクオリティ)
※紛争鉱物:紛争地域で採掘された鉱物資源で、紛争の資金源(武器購入目的など)となっているもの
想いを伝えることで出会い・実現した、エシカルなジュエリーづくり
石原:現在お取引のある鉱山や研磨工房の方々とは、どのように出会われたのでしょうか。
小幡:創業当時、トレーサビリティを確保し公正な取引が行われているジュエリーの素材はなかなかありませんでした。ですので最初は、大学時代にお世話になっていた教授に相談にのってもらい、ジュエリーの素材に詳しい人を紹介してもらいました。そして直接お話を聞きに行ったりしながら、国内外の情報を収集し、人づてに鉱山や研磨工房の方々と知り合っていきました。
石原:小幡さまの想いを伝えていくことで、一緒に活動するお取引先の輪が広がっていったんですね。そうした出会いの輪を広げていく中で、印象に残っていることはありますか。
小幡:初めは、途上国のジュエリー関係者(バイヤー等)にフェアトレードやエシカルという概念をなかなか理解してもらえませんでした。彼らにとって、ジュエリーの素材(石)は安く仕入れて高く売ることがビジネスの基本だったため、フェアトレードを実現するために石を高い価格で仕入れる、ということが理解されなかったんです。価値観が異なる、むしろマイナスからのスタートでしたが、なぜフェアトレードやエシカルにこだわってジュエリーを製作したいのかということを伝えていきました。その結果、「石の品質だけでなく、鉱山で採掘している人々がどんな生活をしているかといったことまで、関心を持っている人に出会ったことないよ。そこまで関心を寄せてくれてありがたい。君は変わってるね!」と言ってくださるようになり、EARTHRISEの価値観に共感してくれた人々と活動を始めることができました。現在では、13か国(日本を含む)の人々と取引を行っています。
フェアマインド認証鉱山の労働者/現地の宝石研磨職人
地域の活性化や女性の雇用創出につながる、パキスタン・スワート渓谷の研磨工房
石原:パキスタンのスワート渓谷で宝石研磨工房”EARTHRISE Gems Studio”を運営されているのも、EARTHRISEの特徴だと思います。設立のきっかけを教えてください。
小幡:エシカルなジュエリーの素材を探していた際、最初に知り合った途上国の現地パートナーがパキスタン人でした。2010年当時、パキスタンではタリバンが勢力を強めていました。スワート渓谷はもともと観光産業で成り立っていた美しい地域でしたが、タリバン掃討作戦後も、観光産業は戻らず街は衰退していました。またスワート渓谷にはエメラルド鉱山があるのですが、他の地域や国の人々がエメラルドの原石を買っていくものの、地元にはお金が落ちていかない現状だったんです。こうした中で、研磨工房を作れば研磨産業を創出することができ、地元の人々が技術を身につけることで地域の活性化になるのではないかと考えました。
石原:設立の背景にスワート渓谷ならではの社会情勢があったのですね。
小幡:はい。また現地は、字が読めなかったり学歴が低い女性は仕事を得るのが難しい保守的なエリアでした。そういった女性も、家で行える宝石の研磨であれば仕事を得て活躍できるのではないかと考え、研磨工房を立ち上げました。
石原: 2016年の設立以来、EARTHRISE Gems Studioは現地でどのような存在となっていますか。
小幡:工房の設立前は、スワート渓谷で採れた宝石を研磨してもらうために車で4~5時間ほど離れた場所まで行く必要がありました。その研磨がスワート渓谷でできるようになったことで、地元にお金が落ちるようになりました。また、これまで工房周辺のバザール(商店街)はシャッター街でしたが、現在では宝石関係のお店が集まっています。
EARTHRISE Gems Studioで働く研磨職人
研磨技術を根気強く習得し、頑張った分が報われる仕組みづくり
石原:EARTHRISE Gems Studioの職人として1人前になるには、どのようなステップがあるのでしょうか。
小幡:ローズクオーツでできたアフロディーテという商品があるのですが、そこで用いられているカボションカット(石を丸い山形に整えて研磨すること)を最初に練習します。アフロディーテは通常のカボションカットよりも倍の膨らみをもたせて、桃のようにぷっくりとした丸みのある形に研磨しているのが特徴です。
アフロディーテを女性(ママ)職人が研磨する様子
商品として十分な品質にするためにはミリ単位の研磨が必要なので、その技術を職人たちに習得してもらうには根気が必要です。研磨技術のトレーニング中もその分の対価はお支払いしていますが、職人たちには、「技術を継続して磨いて、スキルを上げていかないとお給料も上がらないよ」と伝えています。最初に学ぶ10ほどの研磨工程ができるようになる→同じサイズで均等に研磨できるようになる→新しいカットができるようになるというふうに、各段階でできることが増えていくとお給料もアップするというかたちです。
石原:頑張った分が反映される仕組みはモチベーションアップにもつながりますね。
小幡:そうですね。やりたいという意思があれば、最初はうまくいかなくても根気強く教えて、本人が頑張った分の対価はお支払いするよう心がけています。
社会的取り組みに関する情報は、詳細に提示する
石原:EARTHRISEの社会性をお客さまへ発信する上で、意識されていることがあれば教えてください。
小幡:EARTHRISEのジュエリーには、素材の採掘や研磨などにどのような人々が関わっているのか、なぜこの価格になるのか、そういった情報をできる限り詳細に提示し、情報の透明性を心掛けています。
石原:確かに、EARTHRISEのHPやブログに、ジュエリー製作の背景にある社会的取り組みについてたくさん記載されていて、とても読みごたえがありました。
小幡:ビジュアルの美しさをただ強調するだけでは、他のジュエリーブランドに埋もれてしまいます。その中でEARTHRISEはなぜフェアトレードやエシカルなジュエリーづくりにこだわるのか、商品の背景にあるストーリーを伝えるようにしています。
素材(石)との出会いから始まるEARTHRISEのジュエリー
石原:商品性の面で、EARTHRISEのジュエリーならではのポイントを教えてください。
小幡:ジュエリーの素材(石)の仕入れから始めるため、実際に現地の鉱山へ行ってみないと、どんな石に出会えるか分わかりません。その時に出会えた石をもとに、どのようなジュエリーのデザインにするかを決めていきます。また、石自体の色を鮮やかにする人工的な加工処理をしたものではなく、石本来の自然な色味(オーガニックストーン)を活かしてジュエリーにしています。熟練した宝飾技法を持つ職人さんが、一つひとつハンドメイドで作っているんですよ。
自然本来のやさしい色合いのオーガニックストーン
石原:EARTHRISEのジュエリーには職人さんの技術と想いもつまっているんですね。お客さま層としてはどのような方がメインでご購入されていますか。
小幡:幅広い年代の女性のお客様にご購入いただいています。フェアトレードなどの社会問題に興味関心がある方、オーガニックの商品が好きな方が多いのも特徴ですね。また最近は大学生や高校生など、20代前後の女性が増えていると感じています。やはり社会問題に関心があって、メディアでEARTHRISEのことを知ってご来店くださったり、学校の授業で先生からEARTHRISEを紹介されたとおっしゃっていた方もいらっしゃいました。
より多くのお客さまへEARTHRISEのジュエリーをお届けするために
石原:最後に、今後の展望を教えてください。
小幡:今までは、表参道のEARTHRISE店舗で実際に商品をご覧になり、ご購入いただくかたちがメインでした。ですが今後は、オンラインでも安心してEARTHRISEのジュエリーを手に取っていただけるよう、ECショップの情報を充実させリニューアルしていく予定です。また、「こういうジュエリーが欲しい」というお客さまからのリクエストにお応えするために、新しいジュエリーの素材(鉱山)を開拓して、商品展開を増やしていきたいです。
【取材を終えて】
ジュエリーができあがるまでに携わる国内外の人々・環境への配慮など、そのプロセスに真摯に向き合い、美しいジュエリーを生み出すEARTHRISE。フェアトレード/エシカル素材の使用やトレーサビリティーの確保といった、ジュエリー業界ではほとんど前例がない取組みを実現し現在に至るまで継続されてきたのは、小幡様のぶれないビジョンや行動力があったからこそだと感じました。途上国の生産者をはじめとした多くの人々の想いがつまったEARTHRISEは、ぜひ身につけてみたい憧れのジュエリーです。