ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―ファイン株式会社「竹の歯ブラシ」―

2020/09/30

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―ファイン株式会社「竹の歯ブラシ」―

私たちが普段何気なく使っている歯ブラシの柄は、そのほとんどがプラスチックでできています。そうした中、海洋プラスチックごみ問題や化学物質過敏症の方に着目し、柄の部分にエコ素材を採用した「竹の歯ブラシ」を販売する老舗歯ブラシメーカーがあります。

今回は、「竹の歯ブラシ」を手掛けるファイン株式会社 代表取締役の清水直子様に、竹を採用した理由や、商品開発の経緯など、具体的にお話を伺いました。

 

ファイン株式会社代表取締役 清水直子様
今回はオンラインでの取材を行いました。

 

―まず、ファイン株式会社について教えてください。

大阪のロウソク会社を前身とした、歯ブラシや介護用品のメーカーです。前身の会社から歯ブラシ事業には着手していました。独立してファインとして法人化した後、ベビー用リング歯ブラシを開発したことをきっかけに、障がい者の方でも安心して使える歯ブラシに注目し、介護用商品を手掛けるようになりました。近頃では新型コロナウイルスの状況もありフェイスシールドの販売も始めるなど、多岐にわたる商品展開をしています。

弊社では、環境に負荷の少ない材料を用い、ユニバーサルな商品開発を「ファインらしさ」ととらえ、それにもとづいて様々な商品を製造、販売しています。「竹の歯ブラシ」は、まさに「ファインらしさ」を活かした、自然に優しい、いろいろな人に使ってもらえる商品です。

 

―「竹の歯ブラシ」について教えてください

「竹の歯ブラシ」は、エコ素材を使用した歯ブラシです。柄の部分に竹の粉末と生分解性樹脂を用いることで、プラスチック使用量を削減した自然に優しい商品になっています。弊社工場横の竹林から調達した竹を使用した樹脂は特許技術を持った会社様からご提供いただいています。素材の関係上、時間がたつと自然に強度が弱くなってしまうので、製造から二年間を使用期限とさせていただいています。

 

―プラスチック製の歯ブラシとの違いについて教えてください。

プラスチックと比べると、竹は自然に優しいだけでなく、樹脂を成型する過程で、収縮によるへこみが発生しないことや、耐熱性が向上するなどのメリットもあります。柄の部分に植物資源を使用しているため、処理する際のCO2排出量を大幅に減少させることができますし、竹は1年で育つ植物なので、大切な資源の節約にも貢献できます。

また、ブラシはナイロン製の超極細毛と、豚毛を使用した天然毛の二種類を用意しています。天然毛は毛が開きにくく、毛自体が摩耗していくため、ナイロン製のものに比べて歯や歯茎を傷つけにくい素材です。よりエコや天然素材にこだわりがある方にもおすすめです。

左:天然毛(豚毛) 右:超極細毛

 

天然由来の素材でできていることから、市販の多くの歯ブラシを口に入れることのできない、あらゆる化学物質に対して敏感に反応してしまう化学物質過敏症の方でも比較的安心して使える商品になっています。

 

―なぜ、竹や生分解樹脂などのエコ素材に注目したのでしょうか。

生分解樹脂を活用した商品開発には約20年前から取り組んでいました。私の姪がアトピー性皮膚炎をもって産まれたため、日常的に食品の成分表示を見るようになり、化学物質の多さに気が付きました。また、当時担当していた小売店で大量のご注文をいただきありがたい反面、廃棄時には大量の不燃ゴミとして、当時はそれらが全て埋め立てで処分される現状を考えると良心が痛み、エコ素材を活用できないかと考えました。

最初は、生分解樹脂で歯ブラシの柄を製作することに取り組み始めました。しかし、生分解樹脂は強度の面から歯ブラシには不向きとされており、樹脂メーカーにも「歯ブラシには使用しないでほしい」と言われました。当時は世間のエコへの関心も低く、売り上げも伸びなかったので2006年に販売終了を決意しました。

その頃、静岡県の竹の利活用プロジェクトに参加していた企業の方に、竹素材を使用した生分解樹脂の採用を提案され、試作してみると十分な強度を持った歯ブラシが開発できました。また、化学物質過敏症の方から、エコ素材の歯ブラシを継続してほしいという声をいただいたこともあり、本格的に「竹の歯ブラシ」の製造に着手しました。

 

―「竹の歯ブラシ」の製造開始から販売に至るまでの経緯を教えてください。

「竹の歯ブラシ」の製造を決めてからも技術面では様々な苦労がありました。樹脂には硬さだけでなく、ある程度の柔軟性が求められるので、素材の配合などの試行錯誤を繰り返し、発売に至りました。

しかし発売後数か月で、リーマンショックに直面してしまいます。この影響で樹脂をつくってくださっていた会社が事業を畳んでしまい、その社長とも連絡が取れなくなりました。以前と同等の樹脂を提供できる会社が他になく、その後3年近く「竹の歯ブラシ」は販売中止になっていました。

そのような中、ある企業の方経由で、別会社で事業を続けていた当時の社長さんと連絡が取れるようになりました。樹脂を製造していた機械も残っていたため、2011年に「竹の歯ブラシ」を再販売できることになりました。

竹の歯ブラシ

 

―商品の売れ行きと販路を教えてください。

販売を再開してからは、一定の需要はあったものの売り上げはあまり伸びていませんでした。使用期限があることや、販売中止以前の売り先は、(株)プレマさん以外のほとんどが取り扱ってくれなくなってしまっていたこともあり、売り上げがずっと低迷していました。プラスチックに比べて高価格な材料を使用しているので、利益はほとんど出ず、「ほかの歯ブラシは使えない」という化学物質過敏症の方や、グリーンコンシューマーに使用していただくためだけに製造している状態でした。

しかし、SDGsが話題になったことなどから、世間の環境への関心が高まったこともあり、昨年から売り上げが急激に増加しました。

これまでは自社サイトから「竹の歯ブラシ」を購入される方が多かったのですが、昨年末からエコストアパパラギ様(https://ecostorepapalagi.com/)が「竹の歯ブラシ」を販売開始してくださったのをきっかけに、続々と新規のオーガニックショップでも扱っていただけるようになりました。

 

―今後の課題・展望を教えてください。

海洋分解プラや、100%植物性ナイロン毛を使った世界初の歯ブラシ素材も着手しています。直近では木材を使用した歯ブラシの開発を進めています。現在は竹の伐採を社員が行っていますが、足場が悪く、安全面に難しい部分があるので、国産の間伐材など別の素材を使用した研究も進めています。

また、使用期限の短さが課題になっています。2年という使用期限では、出荷や消費者によるまとめ買いに制限があるので、使い勝手がいい安全な商品を目指すためにも、より長く使えるように改良していく予定です。

 

ファイン株式会社
https://www.fine-revolution.co.jp/

竹の歯ブラシ
https://www.fine-revolution.co.jp/commodity/toothbrush/entry-510.html

ソーシャルプロダクツ・アワード2020受賞 「竹の歯ブラシ」
http://www.apsp.or.jp/product/%e7%ab%b9%e3%81%ae%e6%ad%af%e3%83%96%e3%83%a9%e3%82%b7/

 

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(編集後記)

開発過程で様々な困難に会いながらも、人とのつながりや試行錯誤により再販売に至った「竹の歯ブラシ」のお話は非常に興味深く、その使い心地も気になりました。現在も研究を続けているという同商品の今後の展開に注目です!

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ファイン株式会社

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