ソーシャルプロダクツ・インタビュー <br>―豊島株式会社「FOOD TEXTILE」―

2020/03/27

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―豊島株式会社「FOOD TEXTILE」―

 

2019年10月、「食品ロス削減推進法」が施行されました。同法では、食品ロスの解決に向けた基本的施策が明記され、それを実現するための企業や政府、非営利組織などによる様々な取り組みに注目と期待が集まっています。そうした中、異分野のファッション業界において廃棄食材を再活用するプロジェクト「FOOD TEXTILE」が展開されています。同プロジェクトでは、規格外野菜やカット野菜の切れ端、ドリップ後のコーヒーの出涸らしなどを活用して、ファッションアイテムを野菜色やコーヒー色に染めてしまうのです。

「FOOD TEXTILE」は、その美しい色合いやユニークなコンセプトが多くの生活者から支持を集め、「ソーシャルプロダクツ・アワード2020」において生活者審査員賞(自由テーマ)を受賞しました。今回は、同プロジェクトを手掛ける繊維専門商社の豊島株式会社 谷村佳宏様に、プロジェクト概要、プロジェクト開発の苦労、お客様からの反響、今後の課題・展望などについて具体的にお話を伺いました。

 

― まずは、「FOOD TEXTILE」の事業概要を教えてください。

「FOOD TEXTILE」は、廃棄予定の野菜や食材を活用してファッションアイテムを染色するサスティナブルなプロジェクトです。豊島株式会社と色の原料を提供いただく食品関連企業、その生地で商品を展開するコラボレーション企業の3社から成り立ちます。

具体的には、まだ食べられるのに捨てられていた、形が不揃いなどの規格外食材やカット野菜の切れ端、コーヒーの出し殻などを、キユーピーグループさんやカゴメさん、タリーズコーヒーさんといった食品関連企業や農園などから買い取ります。そして、食品に含まれる成分を抽出し、それを当社の提携工場にて染色・縫製して自然な色合いのアイテム(シャツ、エコバッグ、ネクタイ、エプロンなど)に仕立て上げ、アパレルブランドさんなどのコラボレーション企業に商品化・販売してもらいます。

 

 

― 繊維専門商社である豊島社が食品ロスという異分野の社会問題の解決に取り組んだキッカケを教えて頂けますか。

現在ほど食品ロスが話題になっていなかった2015年ごろ、キユーピーグループさんのCSR部の方に、食品業界で食品ロスの削減に向けた動きが進行しているとお聞きしたのがキッカケでした。それはとても大きな問題で、日本は全世界で飢餓に苦しむ人々に対する食糧援助量の約2倍もの食品ロスを出していることを知り、繊維専門商社の豊島ならではの取り組みで食品ロスの削減に貢献できないものかと考え始めました。

また、2015年当時は、繊維業界が深刻なデフレで、熾烈な価格競争が展開される中、新たな差別化の源泉が求められていました。洋服という商品ジャンルは、競合他社との差別化が難しかったり、大量の在庫を抱えてしまったりすることが課題になっていたので、何か革新的な提案ができないかということも同時に考えていました。

それら2つが掛け合わさり、すなわちファッション業界において、差別化につながるプロジェクトを廃棄食材の再活用を通して実現できないかと思案した結果、食品残渣(加工時に発生してしまう廃棄部分)を染料にするというアイデアに行き着いたのです。早速、2015年春に「FOOD TEXTILE」をスタートさせ、同年の12月、国内最大級の環境配慮商品・サービスに関する展示会「エコプロダクツ」に出展したところ反響が大きかったので、本格的なプロジェクト開発に着手していきました。

 

事業開発の過程で苦労したことなどがあれば、教えてください。

まず、野菜の色から想像されるイメージ色と実際に抽出された色のギャップに戸惑いました。例えば、トマトであれば、基本的に赤色が出ると思いませんか?でも抽出されるのは黄色だったりすることもあるんです(笑)。こうしたギャップの中で、商品化に向けて自然な色を引き出していくことに苦労しました。また、良い色を出せても、廃棄食品を活用して染色した商品を、お客様が受け入れてくれるのかという点については、ずっと不安でした。

また、残渣を調達することにも苦労をしました。事業として継続していくためには、安定した供給が必須となるため、最初のターゲットは必然的に大手の食品関連企業になります。しかしながら、誰もが知っている企業側の立場からすると、残渣がどれほど出ているのかといった情報は、必ずしも積極的に公表したいものではありません。そうした前提のもとで、「FOOD TEXTILE」のコンセプトや残渣の使用・加工方法などにご賛同いただき、取引を重ねていくことにも苦労しました。

 

どのようにして、それらの苦労を乗り切ったのですか?

前者については、お客様に心からステキと思って手に取ってもらえるような色を引き出せるまで、ひたすらトライ&エラーを繰り返しました。1つの食材から、本当に様々な色が出ます。まずは色を安定させた上で、取引先ブランドさんに魅力的であると思ってもらえる色を仕上げ、その色がうまくマッチするような商品と紐づけることによって、ようやく生活者(購入者)にとってのステキ!を実現できます。生活者に受け入れてもらうためには、食品ロスの削減による社会性よりも、まずは商品性、色の良さ・商品としてのかわいさを追求することが求められるのです。

後者については、とにかく丁寧で徹底した管理を心がけました。大手食品関連企業は、厳格な管理のもと、安全性を全面に打ち出してます。「FOOD TEXTILE」では、そうした企業様にもご納得頂けるよう、環境先進国の欧州に対する輸出条件にすら対応できる徹底的なトレーサビリティを実現しています。具体的には、各流通段階の事業会社や運送会社を把握することはもちろんのこと、すべての残渣をリスト化して一元管理し、残渣使用量を最終製品における数量に換算して算出することも可能です。

 

反響の大きかった商品とお客様からの声を教えて頂けますか。

CONVERSEさんとのコラボ商品のスニーカー「ALL STAR FOOD TEXTILE HI」(写真左)、新潟県加茂市の商店街で完全受注生産のオリジナルカットソーを展開されているG.F.G.S.さんとのコラボ商品のボーダーカットソー(写真右)の反響が大きかったです。

「ALL STAR FOOD TEXTILE HI」に関して、ご購入者から「素敵な色」と言って頂けたのみならず、マロウブルー(写真左)の提供に協力してくださった、ハーブ・アロマ商品で有名な生活の木さんの工場の方々には「自分たちが取り扱っているハーブティーの規格外品がこんな素敵な商品になるなんて」と、みなさん自らご購入してくださりました。一般生活者に感動してもらえるだけでなく、コラボ先企業の方々に自分たちが扱っている商品を誇りに感じてもらえるキッカケにもなって大変うれしかったです。

ボーダーカットソーに関しては、大丸東京にてポップアップストア展開もさせて頂きました(写真参照)。ご購入者からは「優しくて淡いなかなか無い色で自分の好みに合わせた色を選べる充実のラインナップが良い。実はそれが食品ロスのもとになる残渣から抽出されていると知って感動しました」といった感想を頂きました。コラボ先企業のG.F.G.S.さんは、生産者の顔がわかる距離感で、編立や販売を行っていて、生産者とのつながりや商品の背景を大切にしているブランドです。当社も先ほど申し上げた通り、トレーサビリティを徹底して商品の背景や生産の過程を大切にしておりますので、その点にご共感頂き、意気投合しました。ちなみに、ラインナップは6色ご用意しており、ドリップコーヒー、ルイボス、さくら、抹茶、赤かぶ、ブルーベリーで染色しております。

 

最後に、新しい展開や今後の課題についてお聞かせください。

3つございます。➀顧客との価値コミュニケーション、➁海外展開、➂自然災害による農作物被害に対するアプローチです。

①「FOOD TEXTILE」は、装飾や染色に手間がかかるため、どうしても通常アイテムと比べて高い価格となってしまいます。価格について取引先やお客様(エンドユーザー)にご理解いただくため、廃棄予定の食材を再活用している背景や、独自の染色技術などを伝え、高くても良いものだから買いたいと思ってもらえるような価値コミュニケーションを展開していきたいです。とくに、エンドユーザーに対するアプローチとしては、現状トレーサビリティは確立しているものの、取引先への開示にとどまっており、商品をご購入いただいたお客様に対して情報開示する仕組みは確立できておりませんでした。そこで、商品にタグなどをつけて、それを読み取ると、どの程度の食品残差を減らすことにつながったかが見えるシステムを構築しました。

➁2020年2月に欧州の展示会に出展しました。先ほども申し上げた通り、欧州に対する輸出条件に対応できる水準でトレーサビリティを実現しておりますので、あとは売り込んでいくだけの段階です。また、日本は欧州の動向に敏感ですので、欧州の展示会で評価を得ることは、国内の事業拡大にもつながると考えています。

➂昨今、自然災害による農作物被害が社会問題化しています。そういった被害に対して寄付ができる、当社のオーガニックコットン普及事業である「オーガビッツ」における「社会貢献プロジェクト」のような仕組みを作っていきたいと考えています。購入者に「サスティナビリティ」や「社会貢献」を肌で感じてもらえる仕掛けを通して、災害時・緊急時における食品ロスの支援も実現していきたいです。

 

ありがとうございました。

 

【インタビューアー】

◆APSP研究員 / 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 : 樋口 晃太

APSPにて、「生活者の社会的意識・行動」や「ソーシャルプロダクツの成功要因・課題」などを明らかにするための調査・研究事業に従事。福島県で農業支援事業を営む家庭に育ち、学部生時代は震災復興やオーガニック農業の支援活動に取り組む。現在は、中央大学の博士後期課程に在籍し、「CSV(共通価値の戦略)」を研究。

この企業について

豊島 株式会社

愛知県名古屋市中区錦二丁目15番15号

https://www.toyoshima.co.jp/

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