APSP会員企業訪問<br>「不二製油グループ本社株式会社」

2019/12/10

APSP会員企業訪問
「不二製油グループ本社株式会社」

不二製油グループ本社株式会社 代表取締役社長 清水 洋史 様
一般社団法人 ソ-シャルプロダクツ普及推進協会会長 江口 泰広(学習院女子大学名誉教授)

不二製油グループ本社株式会社 代表取締役社長 清水洋史様(左) APSP 江口泰広会長(右)

 

このたびAPSPに企業会員としてご入会頂いた不二製油グループ本社株式会社に、学習院女子大学名誉教授のAPSP江口泰広会長が訪問し、代表取締役社長清水洋史様からお話をうかがいました。

 

「大豆は神様の贈り物」(清水社長)

 

まず、不二製油の沿革と大豆の研究に至るお話からはじまりました。

清水社長:不二製油は1950年に創業した製油業界では最後発の会社です。前身である不二蚕糸大阪工場には蚕の蛹(さなぎ)から油を抽出する技術がありました。そして他の製油会社が主力として扱っていなかった南方系の油脂原料コプラ(ヤシ)やパームに着目し研究開発において独自性を追求してきました。
パーム油の付加価値に目を付けた2代目社長の西村はパーム油の搾油に日本で初めて成功し、これをチョコレート製造に使うことで、チョコレートをそれまでよりも安い価格で生産することができるようになりました。そこには「よりおいしいものを安く多くの人に届けたい」との想いがありました。

また、創業当時から大豆たん白の可能性とその高度利用を目指してきた、研究開発に強みを持つ、植物性油脂と大豆たん白を柱とした会社です。
私は、大豆は人類への神様からの贈り物だと思っています。
大豆はとても特殊な豆です。たんぱく質の種類が豊富で栄養価も高く、必須アミノ酸スコアが100の豆類は大豆だけで、捨てるところがないのです。
さらに、大豆は生で食べるとおなかを壊します。これは獣が大豆を食べることができないことを意味しています。
大豆を食べる唯一の方法は火を通すこと。そして火を使うのは人間だけ。だから、神様は人間が食べるように大豆をつくってくださったんだと思っています。

2代目社長の西村は、大豆たん白のことをこう言ったんです。「大豆たん白の価値は君たちの子どもの時代ではまだわからへん。その子どもの子どもが生まれたころにちょっとわかるで。」
今でこそ人口大爆発による食糧危機が叫ばれていますが、50年前にそれを予測していたようなことを西村は言っているんですね。
西村は多くの学者との交流がありました。そして不二製油が設立した「大豆たん白質栄養研究会」を公益財団にして不二製油からお金を出し、北海道から沖縄までの大学に声をかけ研究に参加し頂きました。ですから不二製油には大豆に関する基礎研究のノウハウがあるのです。

私は、当社を含め食品メーカーには危機感が足りないと思っています。おいしさと健康で貢献していると思っていて、どこかボーっとしている(笑)。食品ロスの問題などもっと危機感を持たないといけないのです。
トヨタは、車がなければ空気は汚れないという危機感から「モビリティカンパニーになる」と言っています。花王やユニリーバは、石鹸が川を汚すなら、川を汚さない石鹸をつくろうとしました。悩んでいるから、精神性が高いのです。そういう意味で、食品メーカーはボーっとしているようです(笑)。
不二製油は、継続的にやってきたことの意義にもっと自分たちで気づくべきですね。
そうすれば単に肉代替のたん白ではなく、将来を担う「サステナブルフーズ」として一番になれるはずだと思っています。

 

「新たな認識と事業再定義の必要性」(江口会長)

 

江口会長:業界ナンバー1企業はカンパニー・プロフィットも大切ですが、ソーシャル・プロフィットを創り出すことが大事です。「儲ける」「儲かる」ばっかりでは不十分です。
戦略の本質は自社の独自性(オリジナリティ)を通じて違いを作ることです。これまで企業はモノづくりを通じて価値創造を行ってきましたが、今日ではモノづくりに加えて“ソーシャル”(社会性)を企業戦略に組み込んでいくことが求められています。
企業の最も重要な戦略課題は継続することですが、それは言葉を換えると市場や顧客から選ばれ続けることです。競争力とは選ばれ続けるチカラのことですが、時代や市場あるいは人々・顧客が激変する時代には、企業は選ばれるために新たな視点による事業の再定義が必要だと思います。
変化するということは常識やルールが変わるということですが、企業はこの新たな常識やルールに対する“新たな認識”が問われています。
例えば顧客は売り買いの相手だと思っている企業が多いですが、顧客は自社のブランドづくりのパートナーだという認識が必要です。あるいは経営資源はヒト、モノ、カネ、情報という4つの資源ではなく7つありますが、企業にとっての最大の資源は顧客です。またライバルは6つありますし、そのうちの第5番目にチェックをすればよいのが同業他社です。実は一番手強いライバルは“分かっちゃいるけどやめられない”というMyself―わが社自身―なのです。
いずれにせよ、認識は戦略行動の原点です。今後ソーシャルに対する認識のあり方で、企業力は大きく変わっていくことと思われます。

清水社長:そういう意味では、私たちは視点を大きく変えないといけません。食品会社として社会的課題解決を図る可能性がある食素材、人や地球にやさしい食を提供し続ける必要があります。
不二製油では、新しい食の創造にかかわる技術の種を未来創造研究所が担っています。不二製油の日本の社員約1500人のうち400人ほどが研究開発員。こんなに研究開発に力点のある会社はなかなかないかもしれません。技術をはじめ自社の自覚が大切ですね。

江口会長:凄い会社ですね。ブランド企業とは社会・市場・顧客から選ばれ続ける企業ですが、いまその選ばれる条件が過去の条件とは大きく変わってきています。ソーシャルはその条件の主要項目の一つです。
業界ナンバー1の不二製油さんはもうこうしたことは十分認識しておられると存じますが、さらにブランド力を強め、選ばれ続ける企業となっていくためにも、不二製油さんの取り組みにAPSPとして協力させて頂きたいと思っております。

今回の会談は、文化人類学から食文化・世界の食の未来、そして大豆の特徴から経営に至るまで、造詣の深いお話でまわりを魅了する清水社長と、経営・マーケティング戦略から食文化まで広く教鞭をとられ、独自の視点で企業研修やコンサルティングに永年携わってこられた江口会長との、1時間15分に及ぶものでした。
とても濃い内容で、学ぶこと気づくことが多く、あたかもシンポジウムでのセッションを拝聴しているようでした。
様々な食の問題を解決する「大豆」を活用した不二製油様の事業展開に、ますます注目したいと思います。

(文責:事務局長 深井賢一)

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