国産間伐材を使った木製品を企画・販売しているハートツリー株式会社。現在は、「きのかみ」、「木糸(もくいと)」など、いままでにない新しい商品を展開しているほか、植樹活動、和文化の普及活動なども行っています。今回は、ハートツリー株式会社・代表取締役の服部進さんに、お話を伺いました。
―まずはじめに、ハートツリー株式会社の創業のきっかけを教えてください。
私はJTに入社し、営業、医薬部外品、清涼飲料水の商品企画、マーケティングなどを担当しました。退職後、数社でマーケティング分野での経験を積んだ後、大塚製薬で「SOY JOY」の立ち上げに、ブランドマネージャーとして関わりました。長くマーケティングの仕事をしてきましたが、この経験をソーシャルな分野で活かしたいと思ったことが創業のきっかけです。
ソーシャルにもいろいろありますが、では、なぜ木をメインにしたかというと、「日本文化=木の文化」だからです。私がかつてブランディングを手がけた「SOY JOY」は大豆を使ったシリアルバーなのですが、この商品をどうやって売っていくのかを考えるにあたって、日本の文化をリサーチしてみると、何を調べても森やそのめぐみの木に行き着く。「日本は木の文化だ」と感じました。日本は太古の昔から、衣食住すべてに木が関わっていたことを知り、それ以来、木を大事にしたいという思いが心の中にずっとありました。木に関係する方との出会いに恵まれたこともあり、創業時に、国産間伐材を使った商品展開を始めることにしました。
―創業当初、ご苦労されたことはありませんでしたか?
もちろん、あります(笑)。林業はどちらかというと閉鎖的な業界。いきなり東京から、私が間伐材を使った商品を作りたいといっても、簡単にはいきません。何度も足を運び、木材を買い取るといって、なんとかYESと言ってもらえました。「間伐材を使って森を守りたい」などと語ってもなかなか受け入れてもらえません。それよりも、木を買いたいとビジネスライクに接するほうがよかったですね。やはり理想論ではなく、現実的な事業、ビジネスあっての社会的取り組みなんですね。しかし、いずれにしても、一度取引を始めれば、みなさんとても良くしてくれました。
―最初の商品である「アド箸」について、教えてください。
現在、日本では年間200億膳の割り箸が使われています。その98%が中国製です。国産間伐材の割り箸はどうしても中国製に比べれば割高です。たとえば、中国製の割り箸が一膳約1円、国産間伐材が4円だったとします。それなら、差額の3円を広告で埋めようというのが「アド箸」です。
国産間伐材の割り箸を入れる袋に広告を入れて、ナチュラルローソン等で配布しています。「使い捨ての割り箸はもったいない、環境のために、もらわないほうがよい」と思っている方が大変多いのですが、より多くの方に「健全な森には、間伐が必要であることを知っていただき、間伐によって生じる材を使った割り箸を使うことはエコである」と考えを変えていただかなければいけないと思っていますし、その周知は今後の課題でもあります。
―「きのかみ」、「木糸」など、ユニークな商品を展開されています。間伐材利用というと、まず家具や木製おもちゃなどが思い浮かびますが、意外性のあるラインナップですね。
「きのかみ」は木を紙レベルの薄さに薄くスライスしたもので、折り紙やクラフト用紙として使える商品です。「木糸」は、木の繊維から和紙を漉いてつくられた糸を織り込むことで、布に仕上げたものです。木の糸で織った布は、普通の布と同じように、バッグや手ぬぐいに加工することができます。
「きのかみ」や「木糸」は、当社が独自の技術を持つ人とたまたま出会ったことで誕生した商品なのですが、デザイン性、品質、使いやすさなどにこだわっています。ありきたりではない、個性ある商品をつくることで、他のだれとも競合しない。これが当社の強みです。木製品はもともと原価が高いものですから、他にはない商品を展開することでしか生き残れません。
―BtoBの商品も多く手がけていますね。
企業のノベルティとして配布する商品の依頼を受けて、薄く切った木でつくった「木のうちわ」、「ピンバッチ」「しおり」などの商品を手がけています。ノベルティというものは、たいがいすぐ捨てられてしまうのですが、木製のものなら、もらった人が気に入って、捨てずに大事にとっておくことが多いんです。企業にとっても、木製のノベルティはメリットがあるはずです。エコをうたう企業のノベルティがプラスチック製では、お客様も興ざめですよね。企業には、すべて木製のものを使ってほしいと思っていますが、コストを考えると、なかなか現実は厳しいですね。
ノベルティは1回の注文での個数は多いのですが、1度きりで終わるものも多いので、将来的にはBtoCの商品を主力にしていきたいと思っています。既存のBtoB商品も、最終的に、使うのは一般の方ですから、BtoCとなんら変わりません。いずれにしても、たくさんの方に間伐材商品を手にとっていただき、継続して使っていただきたいですね。
―間伐材について、消費者の反応はどのようなものでしょうか。
間伐材を知らない人も多く、「間伐材」という言葉の認知率はわずか20%です。子どもたちは学校で習っているようで、大人より認知度が高いですね。東日本大震災で東北の林業がクローズアップされたこともあり、少しずつ、理解は深まってきているとは思いますが、まだまだです。今後も、間伐材を使うことはエコであるということを周知していかなければならないと思っています。そのために、ユニークな間伐材商品の販売はもちろんですが、植樹事業を行ったり、日本文化のベースとなる「森」をテーマにして映画の制作なども行っています。
―今後の目標や展望について、お聞かせください。
まずは、より多くの方の日常生活にもっと木を取り入れてほしいと思っています。個々の商品に関しては、できれば「間伐材だから買う」ではなく、「素敵な商品だと思ったら、間伐材を使っていた」と後から気づくような、魅力的な商品を目指したいですね。そのためにも、消費者が買いたくなるユニークな商品をつくっていかなければなりません。
間伐材の割り箸については、東北に工場を建設し、生産量を増やすつもりです。現在は年間700万膳の箸を製造していますが、最終的には、国内の割り箸すべてを国産間伐材のものにしたいですね。