ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>障害者雇用と環境問題解決に挑むアクセサリー<br>—カエルデザイン合同会社—

2021/08/25

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
障害者雇用と環境問題解決に挑むアクセサリー
—カエルデザイン合同会社—

海洋プラスチックをアップサイクルして作られた色鮮やかなアクセサリー「カエルデザイン」。実はその美しさは、障害を持つ方の手で偶然の連続によって生み出されたものなのです。パートナーシップや商品の細やかさが評価され、ソーシャルプロダクツ・アワード2021の年度テーマ部門ではソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。

今回は、SDGsライターのさくらが、障害者雇用と環境問題の両方に取り組むカエルデザイン合同会社 クリエイティブディレクターの高柳豊様(以下敬称略)に、事業立ち上げの経緯や障害者雇用とビジネスの関係について伺いました。

試行錯誤の連続だった商品化

さくら:プロジェクト発足の経緯について教えてください。

高柳:カエルデザインは2019年5月にクリエイター3人で始まったプロジェクトです。海洋プラスチックのアップサイクルをしようということは決まっていたのですが、商品化に至るまで5か月くらい試行錯誤していました。それとは別に、リハビリ型就労スペース「REHAS」(就労継続支援A型事業)のディレクターとして商品開発やブランディングの仕事をしていたのですが、商品化の目途が立った段階で、どうせなら一緒にやろうということになり、協力してプロジェクトを進めることになりました。

さくら:時間をかけ、試行錯誤しながらの商品化だったのですね。苦労したことも多かったのではないでしょうか。

高柳:障害者施設は全国にありますが、何を作っていいかわからない、作ることはできても販売の仕方がわからないという施設がたくさんあると思います。福祉施設は本業をしながらいいモノを作り、販売するという神業のようなことをしなければならないのです。私たちもその面で苦労しましたね。最初は「ノトヒバ」という石川県の県木ではがきやしおりを作っていたのですが、それを続けても事業の発展性がないと思い、アップサイクルをやりましょうということになったのです。

さくら:困難の中で工夫しながら、やっとの思いで商品化にこぎつけたのですね。

きっかけは美術館で出会ったヨーガンレール

さくら:高柳さん個人としては、これまでどのような活動をされてきたのですか。

高柳:エンジニアとして海外で働いたり、金沢で英語の先生をしたり、文化センターの企画運営をしたり、多種多様な活動をしてきました。2004年に金沢21世紀美術館ができた時には、アートと環境をテーマにしたフリーペーパーを作りました。これまでに様々な活動をして、環境問題やサステイナビリティについて考えてきたことが、今の活動につながっているのではないかと思います。

さくら:様々な経験をされてきたからこそ、今の活動があるのですね。「海洋プラスチックアップサイクルアクセサリー」という商品着想のきっかけについても教えてください。

高柳:一番のきっかけは、2017年に金沢21世紀美術館でデザイナーのヨーガンレールと出会ったことです。2014年に亡くなってしまったのですが、晩年を石垣島で過ごし、海岸で拾ったプラスチックで明かりを作っていたそうです。私はその巡回展で初めて海洋プラスチックの存在を知り、ごみからアートを生み出すという表現があることに気づかされました。それが非常に印象的で、商品着想に大きなきっかけを与えてくれました。

その後、ウミガメの鼻にストローが刺さった映像が大きな話題となり、プラスチックストローが大問題になりました。本当にプラスチックストローが落ちているのかが気になって、金沢の海岸を見に行ったのですが、そこで見たのは、ストローではない大量のプラスチックの破片だったのです。ストローも大事ですが、それ以上に大変なことが海で起きていることに気づかされました。

今を生きる人間として、人生の後半、自分には何ができるだろうと考えた時、ヨーガンレールのプラスチックの明かりを思い出しました。全く同じことはできませんが、何かできることはないだろうかと思って取り組み始めたのが、この海洋プラスチックアップサイクルアクセサリーだったのです。大きな資金力もない中でしたが、アクセサリー作家がいたこともあり、アクセサリーなら作れるということで始まったプロジェクトでした。

さくら:私もよく海に行くのですが、どんなにきれいな海でも砂浜にプラスチックが落ちているのが気になります。その問題を少しでも解決しようと活動されているのが素晴らしいと思います。

誰もが前向きになれる環境で生まれたアクセサリー

さくら:どのような人が作業をされているのでしょうか。

高柳:REHASは就労支援A型です。つまり、障害の程度が軽く、頑張れば一般企業に就職できる人たちと一緒に働いています。うつ病などの心の病の方が多く、コミュニケーションが苦手な方も多くいます。うまく会話ができなかったり、音に敏感だったり、障害の内容や度合いは様々ですが、手の器用さやものごとの理解度は一般の人と変わりません。もの作りにおいては、一般の方と障害を持っている方の差はないと思います。

さくら:このプロジェクトを始めて救われた人も多いのではないでしょうか。

高柳:そう思います。それまでは、うつ病の方はどうしても夜眠れず、朝出勤するのが億劫になったり、仕事に対する意欲が前向きではなかったりすることが多かったです。しかしカエルデザインを始めて、皆さんとても前向きになったと思います。心が軽くなり、休みがちだったのが休まずに出てくるようになった人もたくさんいます。

さくら:職場の雰囲気がそうさせるのでしょうか。カエルデザインを始めて何か変化があったのでしょうか。

高柳:はい。以前から作っていたノトヒバの商品は単なるお土産品として販売しているため、購入者の顔や社会への貢献度が見えづらいのです。そのため、自分たちがこれを作らなければならないという使命感を見出せず、やる気につながらないという欠点があります。一方海洋プラスチックのアップサイクルなら、少しでも海の環境を良くすることにつながっているということへの誇りを持つようになり、社会とのつながりがより強くなると思うのです。購入者からの応援のメッセージも受け取ることができ、生きていく意義や希望が鮮明になったのではないでしょうか。REHASとカエルデザイン、分け隔てない仲間として、どういう未来のために何をするのかを考えた結果、このような形になりました。

さくら:目標がないと頑張れないというのは誰もが同じことですね。社会とのつながりを感じることは大切だと改めて思いました。

ビジネスと障害者雇用のバランス

さくら:REHASと協力して商品製造を行っていますが、作業分担や収益分配はどのように行っているのでしょうか。

高柳:当然、作ることも売ることも両方難しく、そこにはリスクがあります。そこで大切になるのは「リスクもリターンも分かち合う」ということです。カエルデザインは売上の何割かをREHASに還元しているため、売れなければお互い利益が入らないことになります。つまり両者ともリスクがある状態でプロジェクトを進め、利益も分け合っています。このように、リスクもリターンも分かち合うことで、お互い協力して事業の発展を目指せているのだと思います。

さくら:お互いが頑張っていくという流れが大事ですね。2年近く事業を継続され、さらに寄付も行っているということですが、障害者雇用を継続していくために必要なことは何だとお考えでしょうか。

高柳:障害者の福祉はとても難しく、まだ気持ちの整理がついていない部分もあります。特に就労支援事業というのは国の制度としてあり、障害者を受け入れると助成金が支給されます。利用者を集めれば税金が入ってくるという、ビジネス的に言ってしまえば”美味しい”状況なんですよね。ですがその分、売上もきちんと上げていかなければなりません。ビジネスに寄りすぎると、障害者の日々の心や体調の波を無視して、毎日設定したノルマを達成するために頑張らせることになってしまう。一般企業でうつ病になり、施設に来て、一般企業に戻るために今頑張っているという方もいる中で、このようにノルマを与えてしまうとそれこそ負の連鎖になってしまいます。心のケアもしながら、ビジネスもしないといけない。国が作った仕組み自体、難しいところがあるなともやもやしているところです。

さくら:国の考えもわかるし、現場としても難しいところですよね。

高柳:そうですね。そんなもやもやのなかでも、障害者に希望をもって生きてほしいという一心でプロジェクトを進めています。なので、私たちには年間の目標額がありません。普通なら事業計画を作るところですが、これだけ売ろう!という目標を作ってしまうと、今問題になっている大量生産・大量消費を進行させてしまいます。共感していただいた方に買ってもらい、それに合わせて作ることで、障害を持っている人にもプレッシャーを与えすぎず、かつ売れ残りを作りすぎず、理想的な環境を作れるのではないかと思っています。

さくら:ビジネスの視点と、障害者一人ひとりと向き合う視点。両者のバランスが大切ですね。

共感を生み出すソーシャルビジネスの形

さくら:小規模のプロジェクトではありますが、その影響力についてどのようにお考えでしょうか。

高柳:障害を持っている人は300万人以上います。そのなかでカエルデザインに関わっている人たちはごくわずかです。また、環境問題に貢献すると言っても私たちがアップサイクルするプラスチックの量はせいぜい年間50~60㎏。アクセサリーにしているのは10数㎏に過ぎません。そのため、現実的にはほとんど貢献できていないと思います。

でも、たった1粒のプラスチックでも拾ったら減るし、拾わないと減らないですよね。小さな会社がこんなことをやっているのなら、大企業だったらさらに大きなことができるんじゃないか、と周りに影響を与えていき、どんどん海洋プラスチックが減ってほしいと思っています。私たちのような事業をしている障害者施設やブランドがあることで、自分たちもこんなことができるのではないかという施設が1つでも増えれば、私たちがやっている意味があると思います。他の施設から「私たちも作りたい」と声をいただくようになってきたので、アップサイクル事業のアイデアやノウハウを提供するという道を切り開いていきたいと思っています。

さくら:少人数・小規模でできることは限られているかもしれませんが、影響を与えてこの波が広がることは素晴らしいことだと思います。

高柳:共感を生みだし、波を広げていく。これがソーシャルビジネスのあり方の1つではないかと思っています。私たちの影響が広がっていけば嬉しいです。

カエルデザインのアップサイクルの未来

さくら:現在抱えている課題について教えてください。

高柳:現状、北海道から沖縄まで、日本各地からプラスチックを送ってもらっていますが、そうではなく、各地で作って販売してもらえたら嬉しいですね。製品を作るノウハウを伝えるのは簡単ですが、作りさえすればあとはどうでもいいというのは、SDGsの目標「つくる責任つかう責任」から考えても違うと思うのです。全国の施設で、作ることはもちろん、売ることも一緒にやっていきたいですね。それはとても難しく大変なことですが、そこに踏み込まないといけないと思っています。

さくら:今後アクセサリー以外にも新商品を作る予定はありますか。

高柳:海洋プラスチックのアップサイクルアクセサリーは1組5gくらい。もっとたくさんアップサイクルできる商品を作りたいと思っています。例えば壁掛け時計やアート作品などを考えています。

他にも花屋で廃棄される花(ロスフラワー)をもらってきてアクセサリーにしたり、コーヒーの麻袋を食器洗いクロスに加工したり、ドーナツ屋さんの揚げ油をアップサイクルしてキャンドルにしたり…言い出したらきりがないですが、アクセサリーに限らず様々なアップサイクルの可能性を考えているところです。

さくら:幅広い商品がイメージできてわくわくしますね。カエルデザインの今後の発展が期待できます。本日は貴重なお話をありがとうございました。

【インタビューを終えて】

カエルデザインさんの商品を初めて見た時、色鮮やかで可愛らしいデザインに目を引かれたのを覚えています。その背景には重大な海洋プラスチック問題があることを、購入し身に着けることで肌で感じることができます。今回話を伺い改めて問題の重大さを実感し、障害者雇用にも同時に挑戦する高柳さんの行動力に感化されました。今後も様々な商品を作っていきたいということで、さらなる発展を願っています。

 

この企業について

カエルデザイン with クリエイターズ

石川県金沢市諸江町上丁307-25 株式会社クリエイターズ内

https://kaerudesign.net/

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