株式会社トンボ鉛筆は、1992年(平成4年)より、リサイクルした木と黒鉛を使用した鉛筆「木物語」を販売しています。パッケージにも再生紙を使用するなどリサイクル性の高い同製品は、国内で最初にエコマーク認定を受けた鉛筆です。現在は、同様にリサイクル木材を用いた「赤青鉛筆 木物語」や森林認証材を使用した「S木物語」「缶入色鉛筆 S木物語」など、商品のバリエーションも広がり、子どもから大人まで「おなじみの鉛筆」として親しまれています。
今回は、知財・法務部環境グループ(取材当時)の方と広報担当者の方に製品の開発や、環境保全の取り組みについてお話を伺いました。
―はじめに、「木物語」開発のきっかけについて教えてください。
1992年10月、通産省(現・経済産業省)が、環境保全に関する行動計画(ボランタリー・プラン)の策定を産業界に要請したことをきっかけに、環境保全に対する産業界全体の意識の高まりが見られました。「木物語」が誕生したのはちょうどその時です。すべての企業活動や生産活動が地球環境に関連しているのだから、そのことに配慮しながら活動していかなくてはいけないという新たな価値観が生まれたのです。
―「木物語」は日本で始めてエコマーク認定を受けた鉛筆とのことですが、どのような特徴がありますか。
「木物語」は、木の再利用および廃木材再生品という理由で「エコマーク商品」の認定を初めた受けた鉛筆です。
鉛筆を作るためにはタテ185×ヨコ75×厚さ5mmの木の板(スラット)が必要です。しかし、木には節や欠けがあるので、規格サイズに満たない材料はボイラー用の燃料などに利用していました。そのため材料の活用率は約50%でした。
「木物語」の特徴は、フィンガージョイントという製法により木軸部に集成材を使用していることです。木片にギザギザを刻み、一方の木片のギザギザと合わせて接着し、小さな木片を集めて大きな板を作る方法です。指を組む形に似ているためフィンガージョイントと呼ばれています。これまではじかれていたスラットの節や欠けを除き、端材をつなぎ合わせて鉛筆を作ることで、材料の活用率が1割ほど上がりました。
また、芯には再生黒鉛を使用しています。これは、化学工場の製造過程で出来る副生成物です。この物質を鉛筆の芯へとリサイクルしたのも、弊社が世界で初めてのようです。
―パッケージデザインにまつわるエピソードがありましたら教えてください。
パッケージは再生紙を使用しており、華美なデザインではなく木のぬくもりが伝わる生成りを採用しています。木が3本並んでいるのは、当時デザインを担当した人の木を大切にしようという思いが込められています。
また、鉛筆の塗装には透明度の高い仕上げ材を利用し、フィンガージョイントで資源を大切にした工夫をユーザーにアピールしています。木物語のシリーズ商品には赤青鉛筆や色鉛筆もありますが、一般的な色鉛筆のように塗料を全体に塗るのではなく、ワンポイントで色が分かるようにしました。シンプルですが、チャーミングなデザインに仕上がりました。
木肌の美しさや優しさを気に入って、お子さん用にと選んでくれるお母様もいます。近年は、エコ商品であるというよりも、飾らない木のデザインを好んで買ってくれる方が増えています。昔は、つなぎ目が見える商品は劣っていると考えられていましたが、こういった製品が素敵であると考える消費者が増えてきたのでしょう。
―今や全国の人たちから愛されている製品ですが、販売を促進するきっかけになったことはありますか?
商品を発表した当時、リサイクル文房具の先駆けだったこともあり新聞等でも大きく扱っていただき、注目が集まりました。しかし、質素なデザインのため店頭で手にとっていただくのは、なかなか難しかったですね。そんな時にグリーン購入法が施行され、全国の役所や公的機関、それに準ずる企業は環境に配慮した商品を使わなければいけないという決まりができたのです。国が率先して環境対応の商品を選ぼうという姿勢を示したので、一般社団法人、公益社団法人はもちろんのこと、一般企業もエコ商品を積極的に使用するようになりました。この流れは、エコ商品の販売を強力に後押ししてくれました。
―リサイクル鉛筆の生産および販売をしていく中で、難しさや課題があれば教えてください。
他の鉛筆を作る時の端材を材料に使っているので、安定供給の難しさがあります。フィンガージョイントの鉛筆だけ売り上げを伸ばそうとしても、それは不可能なのです。
その打開策として、現在は木物語のシリーズ商品として、森林認証木材を使用した「S木物語」「缶入色鉛筆 S木物語」「かきかた鉛筆Ki monogatari」の生産も行っています。「木物語」自体は、持続可能な森林を促進する仕組みなので、これまでとは少し違った森林保全の視点も取り入れて商品の生産を行っていくことにしました。森林認証の商品は、グリーン購入法も適用されますし、2015年からは森林認証材を使った商品もエコマーク認定が可能になりました。
―社内で環境配慮への意識を高めるために行っていることはありますか。
製品を作る時に無駄がないようにしよう、という考えは昔から持ち続けています。環境商品が生まれるたびにしっかりと説明ができるように、自分自身が商品について正しく理解しておくことも大切ですね。
また、社内でもコピー紙や事務用品などの備品は環境対応物品を選ぶようにしていたり、リデュースの精神を忘れないようにしています。
―最後に「木物語」に期待することや、商品への思いがあれば教えてください。
商品が誕生した頃、鉛筆にエコマークが採用されることでエコマークの制度自体が社会に広がっていくことが期待されていました。人々の身近にある鉛筆にエコマークがラベリングされることによって制度の宣伝効果を狙っていたようです。実際、その通りになりましたね。現在は、環境に配慮する意識が世の中において当たり前になっています。
鉛筆は小学生の皆さんが6年間使います。エコマークが入っていたり、木の繋ぎ目が見えている鉛筆を使うことで、子どもたちの心にエコの意識が芽生えたら良いなと思っています。「木物語」を発売した時に小学生だった子どもたちは、すでに大人になっています。この鉛筆は、無言のまま多くの仕事をしてくれました。
(当記事は2016年8月に発行された当協会ニュースレターにて紹介したものを、2020年11月現在の情報に改めた記事となっております。)