【ソーシャルプロダクツ・インタビュー】</br>コンフリクトを超えて、無関心から関心へ</br>「歩導くんガイドウェイ」が創る優しい社会 </br>—錦城護謨(きんじょうごむ)株式会社—

2024/09/14

【ソーシャルプロダクツ・インタビュー】
コンフリクトを超えて、無関心から関心へ
「歩導くんガイドウェイ」が創る優しい社会
—錦城護謨(きんじょうごむ)株式会社—

ソーシャルプロダクツ・アワード2024(自由テーマ)の優秀賞を受賞した「歩導くんガイドウェイ」は、ゴム製の視覚障害者用歩行誘導マット(屋内専用)です。段差や振動が障害者に与える影響に深く配慮し、社会的価値とビジネスの両立を目指す太田 泰造社長にインタビューをしました。新規事業として本商品を立ち上げた経緯、そして太田社長の情熱や現実に直面する課題、そして未来へのビジョンについて語っていただきました。
 

錦城護謨株式会社 太田 泰造社長(右)とAPSP深井事務局長(左)


会社の歴史と事業の展開
APSP:この度は、「歩導くんガイドウェイ」でのソーシャルプロダクツ・アワード優秀賞のご受賞、おめでとうございます。まずは受賞商品についてお聞きする前に、御社の事業について教えていただけますか?どのような経緯でこの商品が生まれたのかも含めて伺いたいです。

太田社長:ありがとうございます。当社の創業は戦前にさかのぼります。うちのおじいちゃんが横浜港でゴムの材料を買い付けて、大阪のお客さんに届ける商売を始めたのがスタートでした。当時はゴムが軍事統制品になっていて、その材料を流通させることでビジネスを展開してたんです。戦後、物が不足していた時代に、納めていたお客さんから「この材料を使った製品を作らんか」と頼まれたのがきっかけで、60年ほど前から製造業に転じました。最初は家電の部品や部材を作るところから始まりましたが、ゴム技術を活かして、OA機器やスポーツ用品などの分野にも技術を展開し、今では年間約5000種類のゴム製品を作ってます。

さらに、約40年前から土木資材、特に柔らかい地盤を改良するための材料を作り始め、それが土木事業の始まりです。いい材料を作ろうと思うと、現場を知らなあかんということで施工も手掛けるようになり、今では設計から施工まで一貫して行える体制を整えています。
 

2009年に私が社長に就任した時、物作りと土木事業の2つの柱だけでは将来的にリスクがあると感じて、もう1つの柱を立てようと新規事業を模索しました。その結果、防災、健康、環境、福祉の4つの分野に注力することにしました。これらは少子高齢化や環境問題が進む日本において、将来的に重要になると考えたんです。

土木の繋がりから、福祉関連の商材としてゴムを使った製品を紹介され、今回のガイドウェイの前身である「歩導くん」の発明者とも出会いました。その方は製品の製造やPRに悩んでおられたので、我々の技術を活かせると感じてお手伝いすることになり、「歩導くんガイドウェイ」の製造・販売を開始しました。

  

社長就任後の苦労と教育への注力
APSP:社長に就任されてからも色々とご苦労されたのではないでしょうか。

太田社長:そうですね、苦労は絶えなかったです。2009年に社長になった年は、リーマンショックがありました。週に3日しか仕事がなくて「定時で帰りなさい」っていう状況やったんです。働きたくても仕事がない、そんな時代でした。100年に一度の危機を経験したと言っても過言ではありません。

それを何とか乗り越えたと思ったら、今度は2011年に震災が来て、その次にはコロナが来て…。ほんまに100年に一度の危機が何度も続いた感じです。そんな中で、経営の数字を見直してみると、売上は横ばいで、従業員数は増えていました。設備投資をしていたので、その分だけ成長はしたのかなと思っています。でも、あのしんどい時代を乗り越えたんやから、横ばいでも十分頑張ったのかなと。

経営として、売上や利益をどう上げるかが大きな課題ですが、社内の課題は人に関することが大きいです。社長の仕事の9割は人に関することです。今後社長を目指す人には、カウンセラーの資格を取った方がいいんちゃうかなと思うくらいです。ほんまにそれが大変です。


APSP:教育にはかなり力を入れてこられたのですか?

太田社長:そうですね。僕が前に勤めていた会社は、人に投資することにすごく力を入れていました。外資系の会社で、経営者が人材育成に熱心だったんです。僕は営業をしていましたが、経理やマーケティングなど、いろんなことを学ばせてもらいました。3ヶ月間、みっちりと研修を受けました。当時は「めんどくさいな」と思ってましたけど、今思えば、それがすごく役に立っています。

社長になってからは、人の育成に一番力を入れました。成長するには学ぶ仕組みが必要で、人が成長する環境をどう作るかが重要だと思っています。個々のプランを立てて、成長を支援する仕組みを作ることが大事です。採用も同じで、いい人材を取って、しっかり育てるサイクルを回さないと企業は成長しません。だから、人的資本への投資に力を入れました。インターンシップがまだあまり普及してなかった頃に、リクナビを使ってインターンシップ募集をしたのですが、当時は250社しかなかったんですよ。

APSP:それは先駆けですね。
 

新規事業の模索と「歩導くんガイドウェイ」
APSP:では、改めてソーシャルプロダクツ・アワード2024(自由テーマ)で優秀賞を受賞された「歩導くんガイドウェイ」について教えてください。
 

  
太田社長:もともとアイデアがあった中で相談をいただき、お手伝いすることになりました。うちであれば全国の営業所、支店もあったし、各地域の役所などとも繋がりがありました。新規事業で全く新しい畑に行くより、既存事業の延長線とか、例えば既存の技術の延長線上っていうのに行くのがセオリーなので、着手しました。
 

もちろん、その社会性にも関心がありました。僕自身は目が見えるから、視覚障害の方の点字ブロックって、正直興味関心がなかったんです。あることは知っていたし、邪魔をしてはいけないという意識はあったけど、その程度でした。

でも、実際に関わってみてから、点字ブロックがどこに引かれているかとか、社会の空間を意識して見るようになったんです。たとえば、「なんでこんなところに点字ブロックが引いてあるんやろう?」とか、「ここに点字ブロックいる?」って思う場面が結構あるんですよ。形だけやっている、そんな場面が福祉やバリアフリーの世界が実際には多いんです。

ある有名ホテルチェーンに行って、視覚障害の方にも対応するようお願いしたことがあるんですけど、その時の担当者に「うちのホテルには視覚障害の方は来ません」って断言されたんです。びっくりしましたよ。いや、そんなはずないやろうって思ったんですけど、そんな意識、認識がその時のリアルだったんです。今は東京オリンピック・パラリンピックもあって、状況は少しずつ変わってきたかもしれませんが、やっぱり社会の無関心が一番の課題やと思います。点字ブロックのCMとかも流れてるけど、無関心をどうにかせんと、どれだけハード面を整えても、世の中は変わらないし、優しい社会にはならないと思うんです。

僕らがやっている事業は、社会を変える、いわゆるソーシャルマインドチェンジを目指してるんです。僕がこういう話をすると、たとえばその時から点字ブロックに関心を持つようになったり、視覚障害の方を見ると気になるようになったり、車椅子の方が大変そうにしてるのを見たらちょっと手助けしたくなったりする。それが「無関心」を「関心」に変えることで、優しい社会や空間が作れるんやないかなと思ってます。それは別に高いお金をかけてハードを整備するだけじゃなくて、啓蒙活動やCMだけでもない。お互いに気遣える社会を、この製品やプロジェクトを通して実現したいなって思ってるんです。

  

APSP:この商品のポイントは、この角度ですか?

太田社長:そうです。やっぱりスロープの部分ですね。結局、ガタガタしてへんのが一番大事なんです。車椅子に乗った経験がありますか?慣れてる人は、ある程度の段差は自力で越えられるんですけど、病気で力が入らない人や高齢者は、ほんのちょっとした段差でも越えられないことがあります。振動やガタガタ感が強いと、その衝撃が大きいんですよ。車椅子ってクッションもあんまりよくないし、サスペンションもついてないから、結構つらいんです。それが首に負担をかけることもあります。車椅子の方に取ってバリアになっても視覚障害の方にとって必要だから我慢しないといけないと仰られます。でも少しだけ視覚障害の方に歩み寄って頂けると、もっと共存できる誘導路を普及させることができます。

この商品には社会的な価値や競合製品に対する優位性、そして独自性があります。既存の事業資源も活用できるし、屋内用にはたくさんの敷設対象エリアがあるので、ビジネス的にはブルーオーシャンに見えるかもしれませんが、現実は複雑で、無関心やイノベーションを受け入れるはなく、最低限の事業として回していくためには、お金を稼がなあかん。今のところは、本業に頼りながらこの事業を運営している状態です。


APSP:施設等での導入のためにはマインドの変革が必要でしょうか。何か今後の対応策などお考えはありますか?

太田社長:中期的には、誘導路の研究会や協会を作るべきと思ってます。うちだけでもいくつかの種類を作ってますけど、あまり種類が増えすぎると視覚障害者が混乱するかもしれません。たとえばゴム製のマット一つ取っても、視覚障害者にとってどう見えるかという問題があるんです。素材や硬さの定義をしっかりと明確にする必要があります。誘導路の研究会や協会を作るのは重要やと思ってますが、まだそこまで進んでへんのが現状です。点字ブロックの使い方についても問題があって、ただつければいいというものでは無いと思います。バリアフリーやインクルーシブデザインという考え方がまだまだ拡がっていないのが現状です。

今後は、未来の誘導路を作るプロジェクトを考えています。デザイナーが使いたくなるような製品を作りたいんです。視覚障害者協会などにアプローチし、全国大会や当事者のイベントへの協力など認知向上に努めてきました。今後は設計される方にも認知して選択してもらえるような取り組みも大きなテーマと考えています。
 

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「歩導くんガイドウェイ」は、単なる視覚障害者用の誘導マットを超えて、社会全体の意識を変える可能性を秘めています。錦城護謨株式会社の取り組みは、無関心が生む障壁を取り除き、人々が互いに支え合う社会を創造するためのモデルケースとなるでしょう。これからもその歩みを続け、より良い未来を築いていく姿勢が、多くの共感と支持を集めることを期待しています。

(執筆:APSP事務局)
 

【取材を終えて】
「歩導くんガイドウェイ」を初めて知ったとき率直に、凄く良い商品だなと思いました。 戦前からゴム事業をやり続けておられ、その時代時代に合うものを創り出すことで結果的に持続可能な事業を構築されてこられた。モノづくりを通じてソーシャルマインドチェンジを目指している太田社長の考えに大変惹かれました。今後も色々な人に興味を持ってもらうだけでなく、「関心」と行動が結びつく社会に一歩でも近づく世の中になればいいなと強く思いました。
 

太田社長から人生や経営について大切なことを教えていただきました
 

 

 【インタビュアープロフィール】
静岡聖光学院中学校3年生
中許 将之介

◆自己紹介
静岡の中学校に通う3年生。 中学生活スタートと同時に親元を離れ、寮生活を送りながらラグビー部にも所属。 全国高等学校ラグビーフットボール大会での花園出場を目指し、日々の練習に励んでいます。 学校生活を通じてチームでの協力や目標達成の喜びを感じる一方で、将来はメイドインジャパンの物やサービスをグローバルに関心をもってもらえるようなビジネスにも興味を持っています。

この企業について

錦城護謨株式会社

大阪府八尾市跡部北の町1丁目4番25号

https://www.kinjogomu.jp/

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