1907 年に創業し、110 年の歴史を誇るキリン株式会社(以下、キリン)では、地域社会を活性化する一環として、「絆を育む」をテーマに、「地域食文化・食産業の復興支援」「子どもの笑顔づくり支援」「心と体の元気サポート」の3つを幹とする、東日本大震災後の復興支援に力を注いでいます。同社のCSV本部・コーポレートコミュニケーション部の山田朗子さんにお話をうかがいました。
―まずはキリンが、福島県内の農作物を支援していこうとお考えになった理由について、お話いただけたらと思います。
福島は四季折々の多彩な気候によって、豊かな実りが育まれる一方で、桃の生産高は山梨に次いで全国2位、梨は千葉、茨城、栃木に次いで全国4位となっていることを、県外ではあまり知られていません。また、日本全国の課題である農業の高齢化問題と後継者不足について、福島県内で取り組んでいた最中に、東日本大震災、その直後に福島第一原発の事故が起き、福島県内で作られる農作物について、さまざまな風評被害が飛び交いました。 そこで当社では、福島県内で作られる果実をキリンの商品に使用することで、巷の風評被害を拭い去り、「フルーツ王国・福島」の魅力を全国のお客様にPRできればと考え、震災後 2014 年までの 3 年間で 60 億円を拠出することを決め、「復興応援 キリン絆プロジェクト」を立ち上げました。
―大手飲料メーカーとして本業を通じた支援活動をされているのは素晴らしいですね。具体的にはどういった取り組みをされてきたのでしょうか?
「復興応援 キリン絆プロジェクト」では、「~地元を誇りに~福島の食発信プロジェクト」を展開し、福島の農作物の美味しさを広く発信し、認知度を高めるべく、「農作物を作り、売る」という従来のカタチだけでなく、農作物(モノ)を、それを作る生産者(ヒト)や収穫体験(コト)を通して、「生産者の拘り・思いや農業にまつわる体験を価値にし、広めていく」取り組みを行ってきました。
―そのように福島の農業を応援していくなかで、どういった商品を生み出していったのでしょうか?
2013年11月から2014 年11月発売の「キリン氷結R 和梨(期間限定)」、福島産のこだわりの桃でつくった 2015年3月に発売の「キリン氷結 R 福島産桃(限定出荷)」、2015 年11月に発売した「キリン氷結 R 福島産梨(限定出荷)」、2016 年2月に発売し、現在まで販売を続けている「キリン氷結 R もも」などがあり、2013 年に福島県産の果実を使用した「氷結」を発売してから今日にいたるまで、継続して商品を販売していくことができました。
―福島県産の果実を商品に使用するにあたり、どういう課題があったのでしょうか?
福島県産の果実を商品化する際、「キリンの厳しい品質基準をクリアし、安定した供給量を複数年継続して確保できるのか」という課題が挙がりました。その点については、当社で放射性物質の測定検査をしてクリアした果実を採用し、福島の農家の方々に毎年一定量の果実を生産していただきました。 その結果、メーカーとして安定して商品を供給することができ、売上を伸ばすことができただけでなく、福島の農家の方々も当社の商品を通じて、果実の安全性を大きくアピールすることができました。
―商品を購入されたお客様の評判についてお聞かせください。
「福島県産の果実を使った氷結」を購入して飲用することで、福島県を応援できるという、シンプルな形は分かりやすかったので、発売した初年度は、福島県内はもちろんのこと、全国のお客様からも多数、応援するお声をメールやお手紙などでいただくなどたいへん反響が大きく、多くのお客様に共感していただいたと考えております。 また、PR活動として、「いいね!ニッポンの果実。氷結」のテーマのもと、福島県産の果実の魅力を全国のお客様に発信したことで、福島県の果実のイメージアップも図れたのではないかと思っております。
―今後は福島の農業支援をどう広げていこうと考えているのか、また新たなソーシャルな取り組みがありましたら、お話いただけたらと思います。
今後は、福島県内の飲食店や小売店と連携した情報発信を拡大し、さらに福島の農作物の美味しさのPRを強化していく計画です。 また、福島の農業支援だけでなく、「環境」「健康」「地域社会」の 3つをCSVテーマに掲げ、活動を続けてまいりたいと考えております。 とくに「地域社会」は重要視しており、岩手県遠野市の「国産ホップ」の育種開発やホップ生産地域の魅力を高める取り組みを支援してまいります。「ビールの里」といわれている遠野では、50年以上ホップを作り続けてきましたが、ホップ農家で起きていた高齢化や後継者不足の問題、生産量がピーク時の4分の1まで減少し、近い将来、日本産ホップを飲めなくなるかもしれない、という危機に直面しています。こうした課題を解消するためにも若い担い手を育成し、将来に向けて安定的な収穫量の維持と品質向上を実現するような取り組みを進めています。
―ありがとうございました。