APSPに法人会員としてご入会いただいている株式会社クラダシに、APSP江口泰広会長(学習院女子大学名誉教授)が訪問し、代表取締役社長関藤竜也様からお話をうかがいました。
江口会長(以下江口):「株式会社クラダシ」という社名がユニークですが、なぜこのような名前をつけたのでしょうか。
関藤社長(以下関藤):当社は食品ロスという社会課題に対して、ビジネスを通じて解決する社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム「KURADASHI.jp」を運営しています。食品メーカーの「蔵」できちっと管理されているものを、その品質のまま新たなマーケットを通して、生活者の方に受け取ってもらう、そういう意味での「クラ」と、まだまだ価値があるにもかかわらずお蔵入りされた商品を出す、そういうイメージで「クラダシ」という社名にしました(2019年6月に社名変更)。
江口:センスありますね。社名変更前のグラウクス株式会社はわかりにくかったのですが、「株式会社クラダシ」への変更はわかりやすいストーリーがあっていいですね。
ところで、この社会貢献型ビジネスを始めたきっかけはなんでしょうか。
関藤:わたしは大学卒業して総合商社に勤めました。そこで先輩から商社における原料の開発、調達から製造、加工、流通、販売に至る様々なサプライチェーンを見聞きしましたが、きっかけは1998年から2000年にかけて中国に勤務していた時の体験です。
特に最初の1年間は企業派遣留学で北京の大学で勉強していました。そこで様々なビジネスモデルを考えて、本社に対して月間レポートとして報告していました。2年目に生産管理のトレーニーとして工場生産管理に携わっている中で食品ロスを目の当たりにしました。
例えば、コンビニエンスストアのレジ前向けのチキンが、形や大きさが不揃いという理由でコンテナ単位で大量廃棄されていました。他に居酒屋向けのシシャモは、蓋を開けてみるとオスだったために大量廃棄ということもありました。様々なものがコンテナ単位で捨てられていました。
またコンテナに載せる前の工場の段階で廃棄されることもあります。商流の様々な段階で大量に廃棄されています。この大量廃棄を誰かが解決しなければいけないということが私個人の課題認識となりました。
江口:見過ごす人たちが多い中、なぜそれをご自身がやらなければいけないと思ったのでしょうか。当事者意識になった背景にはどのようなことがあったのでしょうか。
関藤:当事者意識をもった一番の背景は、1995年1月に起こった阪神・淡路大震災を経験したことです。わたしは大阪の豊中で被災をしました。震度6強で家の中はぐちゃぐちゃの状態の中、ニュースから情報を得ようとテレビをつけても、震源地や近隣で起こっていることなど、報道がなかなか入ってきませんでした。
そういう状況で目に入ってきたのは、神戸の倒壊したビル、火の手が上がり煙で覆われた市内、倒れた阪神高速が真っ二つになってバスがぶら下がっている映像でした。気づけばバックパックの中に水をいれて、線路の上を歩いて神戸の方へ向かっていました。
「ほっとかれなかった」です。そこで、多くの人たちが困っているのに全員を助けることができなかった、一人の力の限界を感じました。
数か月後には社会人となり、いろいろな経験を積むうちに、食べられるのに規格外などの理由で廃棄される食品ロスの課題を認識しました。この食品ロスは、震災で感じた「ほっとかれへんやつ」と同じようなインパクトがあり、すさまじい廃棄量と震災が合致しました。
江口:ビジネスモデルは完成していましたか。
関藤:会社設立時にはビジネスモデルは完成していました。どのようなビジネスモデルをもって制すか、まず知識があり、意識改革して行動改革があってそれがしかも持続可能なビジネスになるかどうかを考え抜きました。
ビジネスモデルは時代に早すぎても遅すぎてもなかなかうまくいきません。いま成立しているビジネスモデルでも、未来永劫つづくモデルはなく、絶えず進化させていかないといけません。
これから先10年くらいの間に、みんなが社会課題を認識するようになるだろうし、世の中をよい方向に変えるチャンスだと思い起業しました。食品ロスを削減するクラダシのビジネスモデルに決めて、2014年7月に会社を設立しました。そして、SDGsが2015年9月に国連総会で採択される7か月前の2月に「KURADASHI.jp」をローンチしました。
江口:起業後、ビジネスは順調に進みましたか。
関藤: 設立してから「KURADASHI.jp」をローンチするまでは、一切売り上げはありませんでした。一期目は役員貸付で対応しました。もともと売上がなくても、耐えられるような少数精鋭の体制を取りました。
食品メーカーを一社一社訪れ事業内容を説明すると「素晴らしい!いつかこういうモデルがでてくると思っていた」など共感を得ましたが、いざ取引の話を進めると保証金や前金などを要求されました。こちらはその条件だといままでの現金問屋とあまり変わらないので、このビジネスモデルを理解してもらうために地道に説明しました。メーカーに対して食品の絶対的安全とトレーサビリティも同時に担保してあげたかったからです。
江口:声をかけたメーカーからネガティブな意見が多かったようですが、具体的にどのような声がありましたか。
関藤:まず「与信が通らなかったから取引できない」が多いですね。また、「他社が取引を開始した時にまた声をかけて」の前例主義。さらに「個人的には賛成だけど、会社的には難しいね」。しかしながら、「このビジネスモデルは大切なことだね」という反応でした。
江口:最初に取引きをしてくれたところは何をもってOKしてくれましたか。
関藤: 2015年2月27日に「KURADASHI.jp」ローンチのリリース配信に、メディアが反応してくれました。ラジオ・テレビ・新聞・雑誌がこぞって取り上げてくれました。業界紙の日本食糧新聞には「いつかこういうところがでてくると思った」「こういうところが出てこないといけないんだ」といった温度感ですし、日経新聞は「社会課題を解決する騎士あらわる!」、ハフィントンポストは、わたしの顔をでかでかと載せたりしてくれました。多数のマスコミがそこまで取り上げてくれたことは嬉しかったですし、自分の読みが当たっていたことに安堵感はありました。この取材をきっかけに信用してくれたと思います。
江口:マーケティング・イノベーターという言葉がありますが、その本質は新しいカテゴリーを開発することです。御社成功要因の一つは、誰もやっていなかった新しいカテゴリーを開発したことだと思います。
ニュースメディアがなぜ取り上げたかというと、彼らは新規性のあるもの、ストーリー性のあるもの、ユニークなもの、話題性のあるものを、まず取り上げてくれます。無料の広告となるニュースメディアの支援を受けられたのはすごく大きな成功要素だと思います。
時代や世間が薄々感じてきたときに、その実態が現れた。メディアに取り上げられたのはすごく大きいですね。新事業を立ち上げ、ブランド化するための条件の一つは、カテゴリー開発です。まさに、クラダシ=フードロスとなるようなイメージ構築がなされたわけです。
成功要因のもう一つは、関藤社長が熱く語った、つまり“高エネルギー価値伝達”だったと思います。やはり人的魅力がすごく大きな意味をもつと思います。ひとがお金を貸すのは、企業の大きさではなく、やはりその人の人柄と心のエネルギーだと思います。特に中小企業では。
その時になにかご自身をアピールすることはしなかったのですか?
関藤:しました。不屈の精神で臨みますと。
与信なし、保証金なし、担保なしという条件で各企業の心を開いてもらうためには、確固たるビジネスモデルであること、取引リスクがないこと、ブランド価値の毀損がないことを理解してもらうことです。通常の商行為にあるどこか1点でも悪影響がおこるようであればなかなか難しいことです。
江口:私たちは御社のビジネスを知っていますが、一般の人がその名前を聞いたりあるいはHPを見たときに、どのようなビジネスなのかまだ知らない方もおられると思いますので、ビジネスモデルのわかりやすい解説をお願いします。
関藤: 「KURADASHI.jp」は三方よしの仕組みです。うちに賛同した食品メーカーは協賛価格で賞味期限間近の商品を提供することで、保管・運搬・廃棄コストを削減できます。生活者は最大97%オフでお得に買い物できますが、その購入額には3-5%の支援金(寄付)が含まれています。
例えば3000円の商品だと90円から150円の支援金が含まれています。生活者は、海外・環境保護・災害対策・医療・動物保護・社会福祉支援活動を行う6カテゴリーの団体を支援先として選択できます。この支援を受け手、支援先の各団体も活動が活発化します。
このようにただ廃棄されるはずであった商品に付加価値をつけることで持続可能な社会の実現に貢献するビジネスモデルです。
江口:現在会員数はどのくらいなのですか? その会員は社会貢献をしたいがゆえにクラダシを利用しているのですか。
関藤:会員は約8万人くらいです。継続購入いただけているのは、価格がお求めやすいからというのもありますけど、食品ロスを削減や社会貢献に関心のある社会意識の高い方が多く、会員数は純増傾向です。
江口:会員になるきっかけは。
関藤:口コミでもどんどん広がっています。各メディアの中でもテレビの力は大きく、ニュースの食品ロスのテーマの中で「KURADASHI.jp」が取り上げられたり、さらに番組でわれわれの仕組みについてきちっと紹介されると数字が一気に増えます。
具体的に取り上げられた番組はNHKの「サキどり」という番組や、TBSの「がっちりマンデー!!」。食品ロス削減推進法が制定されたときに、時代が求める方向で法が変わっていくという内容で取り上げられました。
江口:生活者の購買行動の変化、意識の変化を感じますか。
関藤:ファンレター、ファンメールがよく届いています。
例えば「老夫婦なので、そんなにたくさん食べられないけど、素晴らしい活動なので、応援の気持ちを込めて会員になりました。あなたたちに対する寄付でもあります」や「PTAの会合用のお茶菓子を買って、食べながら食品ロスの話をしました」、「子供に好き嫌いはダメと言いながら、大人が大量に残しているのは、恥ずかしいことだと知りました。そこで消費行動を少し変える意識が芽生えました」、「スーパーで日配品を買うときに、一日でも新しいものを買いたいから陳列の奥から商品を選んでいた。この行為はものすごく恥ずかしいことだということを知りました」などの声です。
これらの声を聞くと、啓発活動もできているのかなと思います。
江口:確り生活者の意識が変わりつつありますね。ところで、扱っている商品の品目はどのくらいありますか。
関藤:加工食品が多く、月間600品目くらいです。まだ会員数が十分でないので、消費期限が短い日配商品はなかなか扱いきれないです。
江口:社会意識が高い生活者がいるといわれている中で現在会員数8万人。この辺りをどうお考えですか。
関藤:われわれのKPIは、会員数と商品ラインナップ数を両軸にしています。会員を1万人単位で増やしていくための露出の方法、広告、マーケティングなどあると思いますが、まずはクラダシのブランディングを高めていきたい。そのために行政と連携することが大事だと思っています。
食品ロスを減らすために賞味期限を増やすという動きがある一方、万が一残ってもきれいに消費できる1.5次流通みたいな新マーケットがあれば、商品を必要以上に多く作らない状況や、新しい動きのサプライチェーンがでてくると認識しています。
江口:1.5次流通とはなんですか。
関藤:ECが一般的になってきている中で、プロパーの1次流通がAmazon、楽天、LOHACO。メルカリに代表される取引を2次流通と位置付けるとして、廃棄されたけれど新たな価値を創造することによって、それを新たな市場にするのを1.5次流通と考えています。
江口:その可能性は。
関藤:可能性は非常に大きくあると思います。ECでの食品の流通は昨年で1兆2800億円。食品ロスは年間643万トン発生していますが、それは可食部の数字です。非可食部まで入れると2800万から3000万トンとも言われているのです。
江口:フードロスに関するビジネスモデルをやっているのはクラダシだけで、スタートしたばかりですので市場が成熟していません。外食、コンビニでは、この辺りの動きに関してはいかがですか。
関藤:事業所側からでる食品ロスが約330万トンのうち、3分の2はサプライチェーンで起こっているもので、3分の1が外食産業から起こっています。われわれはまずはサプライチェーンで産まれているものや農水産品の規格外品などを外食産業で使ってもらう方向で進めていきたいと思っています。またここの会員だけでなく、B to E市場(オフィスdeクラダシ* 企業のオフィススナックとして食品ロス削減商品を提供)で、フードシェアリング、フードレスキューを進めていきたい。
また、農林水産省が設定したSDGsのゴールである2030年までにサプライチェーン全体で2000年度の半減という目標はなかなか厳しいが、各行政・地方自治体と連携したいと思っています。
政府の推計で、2040年度に全国約900ある市区町村が消滅可能性都市に該当するそうですが、地方自治体としてはIターン、Uターン、Jターンなどで積極的に移住者を受け入れています。
われわれのサイトでは加工食品をメインとしていますが、会員が5万人を超えた2年前から、地方の一次産品の規格外野菜・フルーツを取り扱っています。さらに取り扱いを増やすために全国の自治体と話し合っています。
江口:野菜や果物の規格外品が通常の流通に乗らないのは、生活者がそういった商品を選ばないからで、教育が関係していると思いますが、人々の食物に対する教育についてはどのような視点をお持ちですか。学校と連携するプロジェクトなどはないですか。
関藤:学校との連携も今後ぜひ進めていきたいと思っています。学校教育、特に初等教育に関心があります。今の若者はわりと社会意識が高いと言われていますが、さらにもっと小さい時から食ロスと食育を結びつけてあげる必要があり、それはわれわれ大人の責任であると思います。
子供たちには楽しく、遊びながら学んで欲しいです。食は栄養を摂取するための行為のほかに、コミュニケーションという重要な行為でもありますし、食そのものの大切さを理解し納得できる食育が必要だと思います。そうしたことを学べるプログラムを開発したいと思います。
江口:国力の原点は教育にあると思います。食べ方によって国力が決まる、あるいは人々の食べ方を見るとその国力がわかるといわれます。
クラダシが新たなビジネスモデルを作ったということの本質は、視点を換えると、それは単に新ビジネスを立ち上げたということではなく、社会変革を始めたということだと思います。
「もったいないを価値に」という謙虚な視点で社会貢献につながるビジネスをしたいと思って起業したビジネスが、時代の流れと相応して、今は社会の構造変革に寄与する先端的ソーシャル・イノベーションの旗手になっていると思います。
時代はいま企業に対してESGやSDGsの視点とその具体的な行動を求めています。そうした中で企業や経営者は明確な信念をもって、時代や市場が求めるソーシャル・イノベーションを意識したビジネスモデルを立ち上げることが不可欠だと思います。まさにそれが企業の社会的責任だと思います。
関藤社長は「無駄をしてはいけない」という純粋な当事者意識に基づいて、
KURADASHIビジネスを始められましたが、その純粋さが多くの取引先の心を動かし、現在をもたらしたと思います。
クラダシビジネスは純粋でかつ社会性をもった“大義名分型ビジネス”だといえるかと思います。社会の“正義”を追求する大義名分型ビジネスは必ず大きくなります。
なぜならよいビジネスは多くの人から評価され、社会から支援を受けるからです。そしてより広く多くの人に支援を受けることを通じて、結果的にそれが社会変革につながっていきます。
クラダシビジネスが大きくなることは、社会が新たな次元に変化、つまり進化したということだと思います。
社会の進化の指標としてのクラダシビジネスの今後の活躍を楽しみにしております。
協会としても最大限の支援をさせて頂きたいと思っております。
本日は貴重な時間を有難うございました。
会長追記:関藤社長はラグビーをしておられたとのことで、大変な“マッチョ”です(ちょっと表現が古いかな)。久しぶりに心優しくかつ肉体への美意識をもった清々しい青年とお目にかかることができました。未来に希望を託す純粋な青年の瞳は輝いていました!
株式会社クラダシHP:
https://www.kuradashi-mottainai.com/
社会貢献型フードシェアリングプラットフォームKURADASHI.jp:
https://www.kuradashi.jp/