西川株式会社(東京都中央区日本橋)は、化学薬品や農薬を一切使わず、環境負荷の少ない農場で収穫されたオーガニックコットンなど、天然素材(綿・ウール)を基本に、素材感を重視した商品開発に取り組んでいます。そこで、今回は西川のオーガニックコットンを使った商品開発の裏側について、同社の商品3部 千場慎也様に話をうかがいました。
-まず西川リビングがオーガニックコットンを使用した商品を作るようになった経緯について、お話いただければと思います。
当社では2010年ごろから、寝装品に向く素材を使って商品を新たに開発したいと考えており、そのときに着目したのがオーガニックコットンでした。
これは2018年の数字なのですが、全世界で流通している綿花2600万トンのうち、オーガニックコットンは1%にも満たない24万トンしかありません。また、「値段が高くてアトピーなどのアレルギー疾患の方が使用する」素材というイメージを持つ人も中にはいます。
ただ、そうであっても(そうであるからこそ)、オーガニックコットン製の商品を西川の主力商品の一つとして育てていきたいと考え、さまざまな角度から調査・分析を行ってきました。
-まだまだ知られていないことが多いオーガニックコットンですが、栽培にはどの国が向いているのでしょうか。
オーガニックコットンをどこで栽培するのがベストなのかを調べていたときに、挙がってきた候補がインドでした。
綿花にはいろいろな種類があります。繊維が「細くて長い」綿だと製品にしたときに柔らかくて心地よい感触の寝装品になることは、長年の研究から明らかになっているのですが、そうした綿花の栽培に適しているのがインドです。また、インドは世界第1位の560万トンの収穫量を誇っており、オーガニックコットンの栽培にも向いていると言えます。
-インドでのコットン栽培における環境面での取り組みはどうなっているのですか。
2015年9月の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことによりオーガニックコットンへの注目度も高まっております。当社は、寝装品の主素材としてコットンを使用する「作り手」の責任として、農薬使用における「環境」「健康」「貧困」に配慮したオーガニックコットンをインドで栽培し、商品化する取り組みを継続しております。当初、タオル類・毛布類をメインにスタートしましたが、現在はカバーリングも商品化し取り組み規模は年々拡大しております。
-インドで最初に取り組まれたことはどういうことだったのですか?
まず、神宮前・代々木・スカイツリーエリアを中心にレストランやカフェ、バー、フードストアを展開しているKurkku alternativeさんと伊藤忠商事さんの共同事業である「プレオーガニックコットンプログラム」に2012年に参画しました。頭文字の「プレ」には、「オーガニックコットンとして認証されるまでの3年間、無農薬かつ有機肥料で栽培されるもの」という意味があります。その3年間はオーガニックコットンの栽培へ移行するためには欠かせない期間ですから、私たちは金銭面から作業面にいたるまで、インドの生産農家の方々に地道な支援を続けてまいりました。
-商品化をしていく中でのご苦労などがありましたら、教えてください。
綿花栽培の次の段階、つまり、商品化していく過程においては、作業の基準や感覚が日本とは大きく異なっていたために戸惑いました。たとえば色の出し方やデザインの再現性などは、私たちのイメージするものと大きく違いました。また、サンプルにはインドの衣料品店に入ったときによく漂ってくる香料をつけたりもしていました。そこで、「インドと日本では好む色や香りは違いますよ」というようなことを一からじっくりお話しました。
さらに、できるだけ日本の品質に近い製品を作ってもらいたいと考えて、日本の技術についてもこと細かく教え、指導しました。商品づくりはインドでも、購入するのは日本人ということを念頭に置いた寝装品づくりを、現地と一緒になって進めてきました。
こうした4年間の試行錯誤を経て、2016年の西川創業450年という節目に、それまでのプレオーガニックコットンの栽培地をオーガニックコットンを作り出す農地として「西川コットンファーム」と命名し、新たなスタートをきりました。
-オーガニックコットンの製品の特徴としては、どういった点が挙げられますか?
西川コットンファームでは、収穫時のダメージを少なくするため農家の人々が一つひとつ丁寧に手摘みで収穫しています。収穫した綿花を協力工場で紡績するのですが、そのなかで短い繊維を取り除き、長い繊維だけを平行に揃えた細い繊維「コーマ糸」を作っています。これを綿糸にすることで、風合いがよくて毛羽が落ちづらいという、オーガニックコットン商品の最大の特徴が生まれます。
またインドで紡績した糸を日本に輸入して、毛布づくりで有名な大阪の泉大津や和歌山の高野口、タオルであれば愛媛県の今治や大阪の泉州地域で使用していただいていますが、「柔らかく心地よい素材で使いやすい」と好評を博しています。
-お客様の商品に対するご反応やご意見はいかがでしょうか?
「化学繊維ではなく、天然の素材なのが安心」「お肌に優しく、長く使えるのがいい」との声を女性から多くいただいています。女性の場合、普段使用されているお化粧品から食材までナチュラル志向の方も多いので、オーガニックコットンの商品を購入するのもその一つなのかなと分析しています。
-最後に、会社として今後、力を入れて取り組んでいきたいことがありましたら教えてください。
「すべての人に快適な睡眠を」を実現するためのプロジェクトとして、「For S Project」(※)を発足し、眠りで健康を実現するため具体的なミッションを掲げて活動しています。「For S Project」では、「睡眠の情報を生活者に届けること」や「作り手としてのサスティナビリティに取組むこと」などを実施しています。また、現在は使用しなくなった羽毛ふとんを回収し、新しい羽毛製品にリユースする取組みにも賛同するなど、今後もサスティナブルな社会の実現を目指した活動に取り組んで参ります。
※「For S Project」の「S」は「Social Sustainable Smile Sleep」の頭文字を表しています。
-ありがとうございました。
(当記事は2017年6月に発行された当協会ニュースレターにて紹介したものを、2020年12月現在の情報に改めた記事となっております。)