ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―株式会社岡村製作所―

2016/10/21

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―株式会社岡村製作所―

オフィス家具の製造・販売を行う株式会社岡村製作所では、生物多様性に向けた取り組み「ACORN(エイコーン)」活動の一環として、木材利用による森林健全化を推進しています。

そこから生み出されたプロダクトの一つに「Horse Logging Furniture(ホースロギングファニチャー)」という木製家具シリーズがあります。同商品の大きな特徴は、伝統技術「馬搬(ホースロギング)」を活用して運び出したスギの間伐材を使用して作られていること。

今回は、広報室室長である犬塚様と、ホースロギングファニチャーの製造に携わったチーフデザイナー・角田様にお話を伺いました。

 

―はじめに、ホースロギングファニチャー製作きっかけについて教えてください。

このプロジェクトの始まりは、長野県黒姫にある森林を保有する「アファンの森財団」の理事長、C.W.ニコル氏との出会いがきっかけでした。2009年にニコル氏と出会った時、丁度アファンセンターを建設中で、そこの事務所で使用する家具をアファンの森のカラマツの間伐材を使用して弊社が作りました。その後、東日本大震災が発生し、復興支援として「森の学校づくり」を行うアファン震災復興プロジェクトに会社として参加するなど、ニコル氏と多くの時間を過ごしました。

2012年、アファンの森に隣接する国有林(人工林)の管理を任されたニコル氏は、森林の手入れに際して、森に優しい運び方である伝統的な「馬搬」で間伐材を搬出するようにしました。そのようにして切り出された木を無駄にしないような使い方はないかと相談され、弊社でその木材を使った家具を製作することになりました。それがホースロギングファニチャーシリーズの第一弾である“KURA”、馬具の一つである「鞍」をイメージしてデザインしたスツールです。

弊社では生物の多様性に向けたアクション「ACORN」を行っており、木材利用による森林の健全化に取り組んでいます。KURAはその活動の一環でもあります。

―森から木を運ぶ際に馬搬を用いるメリットは何ですか。

ニコル氏が管理を任された人工林は長い間放置され、人も動物も寄り付かない暗い森でした。人工林としても健全な森を作るためには木を間伐する必要がありますが、重機を入れて作業をするためには、新たに作業道を作らなければなりません。そこで彼は、新たに作業道を作る必要もなければ重機が地表にダメージを与えることもない「馬搬」の方法を用いて間伐材を運び出すことにしたのです。

馬搬とは、人と馬が一体となって、森から木を運び出す昔ながらの伝統技術のことです。馬は小回りがきき、立木を傷つけることもほとんどなく、重機が入れない場所や斜面や入り組んだ場所も歩くことができます。また、馬が歩くことにより地面が耕され、馬搬を行った翌年は山菜が豊作になるそうです。日本の林業は小規模林業が多いため、手間とコスト面を考えても馬搬は有利なのです。さらに、珍しい馬搬の様子を見に来る人々が増え、地域活性化にも繋がります。

数十年前までは、日本でも当たり前のように馬搬が行われていました。しかし現在は継承者が減り、岩手県遠野市に高齢の名手が残るだけとなりました。そこで遠野の若者が馬搬の伝統が途絶えないようにと設立したのが「遠野馬搬振興会」です。次第に共感する若者たちが集まり、馬搬の技術継承に取り組んでいます。馬は賢い動物で、非常に繊細です。技術者には、重い荷物を運ぶ力ではなく馬の感情を細やかに読み取ることが求められるため、腕力のない女性でも十分に活躍できます。

―KURAはスギの間伐材を使用して作られたスツールとのことですが、製造過程での苦労や、プロダクトに込められた思いがあれば教えてください。

木材家具は、広葉樹などの固い木材を使うのが主流です。スギは柔らかく家具製作に向いていない上、手入れがされていない森の間伐材であるため、曲がっていたり節があったりと、製作チームの頭を悩ませました。しかし、森林管理と馬搬の大切さを伝えるシンボルを作るために、最大限の技術を用いて製作に取り組みました。岡村製作所がつくる以上、デザイン性も機能性も妥協できません。幾度も議論と検討を重ね、美しいフォルムとスツールとしての強度を確保するためにスギとスチールを併用した木金混合の仕様にすることが決定しました。

馬のフォルムをイメージし、スギのぬくもりを感じることのできるデザインに加え、5脚までスタッキング可能という機能性も備えています。座面には三層構造で木材を重ね、耐久性を確保しました。まさに、スギの限界に挑んだスツールだと思います。脚部には幸運の印である蹄鉄のマークの金属プレートをあしらいました。これはニコル氏のこだわりです。ホースロギングやアファンの焼印も刻まれています。

また、売り上げの一部は森林再生に役立てられ、家具づくりが森づくりに繋がっています。

―KURAに続き、2作目の“trot table”が発売されていますが、これは木金混合ではなく、すべて木材で作られているのですね。

シリーズ2作目となる“trot table”は、アファンの森に隣接する人工林と、馬搬の普及に共感した福島県南会津のNPOみなみあいづ森林ネットワークが保有する人工林から伐採した丸太を、それぞれ馬搬で切り出して製作しました。一作目では木材の運搬コストがかかったことや、製作過程で様々な事業者が関わったことにより、価格が高額になってしまいました。2作目ではその反省を活かし、実際の販売までを視野に入れて開発を行いました。製材から家具の組み立てまで南会津で行うことにより運搬コストを削減し、地域の活性化にも貢献することができています。

同製品の魅力は、スギの木の風合いを最大限に活かしたデザインではないでしょうか。一台ずつ異なる木目がよく見えるように、オイルステイン仕上げを施しています。傷やシミがつきやすくなっていますが、長く使うほど味わいが増すテーブルです。

家具の材料として使えなかった木材も無駄にしません。細かいチップに加工し、アファンの森の木の根を保護するために散策道に散布しています。また、簡易製材してベンチや橋の材料にも使っています。

―製品のPR・コミュニケーションで工夫していることがあれば、教えてください。

現在、同製品はインターネットのみで販売しています。販売WEBページにはホースロギングファニチャーのストーリーを記載し、製品の特徴やバックグラウンドを理解していただけるように工夫しています。他には環境イベントにも出展し、製品のストーリーを伝えています。背景をよく知っていただいているので、アファンの森の保全活動を支援している会員の方々が、ホースロギングファニチャーを購入してくださったりもしています。

スギで作っている家具は、年月が経つとヒビが入ったり色が変わったりします。そういった特徴を「良さ」「個性」と感じてくださる方に手に取ってもらえたらと思います。

http://www.okamura.co.jp/company/acorn/hlf/index.html

 

―今後の展望について教えてください。

弊社では今後もACORN活動を通して生物の多様性を守る活動を続けていく予定です。今年の12月には環境イベント「エコプロ2016」にも出展し、ホースロギングファニチャー他を紹介します。健全な森を守り増やすのに必要なことや、馬搬について多くの方に知っていただくためのシンボルとして、今後もホースロギングファニチャーのストーリーを発信していきたいです。

この企業について

株式会社オカムラ

神奈川県横浜市西区北幸1丁目4番1号 天理ビル19階

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