ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>     ―豊島株式会社「オーガビッツ」―

2020/02/14

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―豊島株式会社「オーガビッツ」―

コットン畑の栽培面積は、世界の耕地面積の約2.5%を占めると言われています。驚くべきことに、世界で使用されている農薬・化学肥料のうち、実に15%以上がコットン栽培に使用されており、生産者に対する健康被害や生態系に対する悪影響などが社会問題化しているのです。そうした問題の解決につながるのが、無農薬栽培のオーガニックコットンです。しかしながら、現状その作付面積は全コットン畑の約1%にとどまっています。

繊維専門商社の豊島株式会社では、そうした現状を打破するために、「100%のオーガニックコットン商品を10人に届けるよりも、10%でも良いから100人、1,000人に届けよう」という斬新な発想でオーガニックコットン普及プロジェクト「オーガビッツ」に取り組んでいます。今回は、同社営業企画室の溝口様(写真右)と佐藤様(写真左)に、「オーガビッツ」の特徴、プロジェクト発足のキッカケ・背景、経済的・社会的な実績、今後の展望などについて、具体的にお話し頂きました。

 

― まずは、オーガニックコットン普及プロジェクト「オーガビッツ」の特徴を教えてください。

オーガニックコットンとは、農薬や化学肥料を3年以上使用していない畑で無農薬栽培された綿花のことを言います。この厳しい基準をクリアすることは、生産者さんにとって負担が大きいことです。価格も、通常の綿花に比べて3〜4倍ほど高くなります。

また、当社が普及プロジェクトを始める以前は、オーガニックコットン商品と言えば、「化学物質による染色・プリントは不可」、「オーガニックコットンの含有率は100%に限る」というのが業界での常識でした。環境配慮の観点では望ましくとも、デザイン・ファッション性を損なったり、高い販売価格につながったりしてしまうので、「生活者への普及」という観点では必ずしも望ましくない状況だったのです。普段、限られた予算で洋服を購入している中で、どんなに「社会的に良い商品だよ」、「環境に優しいよ」と言われても、オシャレではない商品を受け入れてはもらえないですよね。

そのような現状に鑑みて、当社では「ファッションはオシャレで楽しくなければ広がらない」と考え、生活者に対するオーガニックコットンの「普及を第一」に考えたプロジェクト「オーガビッツ」を始動させました。その最大の特徴は、「オーガニックコットンの含有率が10%以上」であれば、「染色・プリントを施した」商品でも、「オーガビッツ」というブランドとして販売することができるという業界の常識を覆す新しいルールを定めたことにあります。「オーガビッツ」という名前には、「オーガ」ニックコットンを「ちょっと(bits:ビッツ)ずつ」広げていこうという想いが込められています。

もちろん、検査機関と契約をして糸の証明書を発行したり、流通過程の情報管理を徹底してトレーサビリティーを実現したりといった倫理的な対応も徹底しています。

 

― とてもユニークなプロジェクトですね。プロジェクト発足のキッカケ・背景を教えて頂けますか?

色々とありますが、キッカケ・背景として大きかったのは、➀生産地の社会問題を目の当たりにしたこと、➁ファッション業界における商品の同質化の2点です。

私(溝口氏)が、海外駐在時代、インドに何度か出張に行く機会がありました。インドは、オーガニックコットンの生産量が世界1位、通常コットンの生産量では2位という綿花大国です。その地で、綿花農家さんたちの現状を目の当たりにしました。具体的には、農薬を使用する際に自身も浴びてしまい健康被害につながっていることや、種を買うための資金不足が自殺を引き起こしていること、児童労働が横行していることなどを知りました。そのような問題を、綿花を扱う繊維専門商社として見過ごすわけにはいかないと奮起したことをキッカケとして、地球環境や生産者に優しいオーガニックコットンを広めていく取り組みに着手していったのです。

今申し上げたのは、売り手(生産者:コットン農家)のお話でしたが、買い手(顧客:取引先のファッションブランド)に関わる背景もあります。

昨今、あらゆる業界で商品の同質化が叫ばれていますが、ファッション業界も例外ではありません。最近は年代や性別を問わず、ショッピングモールやアウトレットモールなど、専門店が沢山入っている場所でファッションアイテムを購入される方が多いのではないでしょうか。こうした状況下では、ファッションブランドさんたちは隣の店の商品と比較された際にアピールできる、なんらかの差別化やストーリー性がないと競争に勝ち残ることはできません。「オーガビッツ」は、そうした課題に直面する取引先ブランドさんたちが気軽に取り入れられて、かつ生活者とのコミュニケーションにおいて「地球環境や生産者に対する配慮」といったソーシャル性を打ち出すことが出来るので、差別化やストーリー性の強化につながるのです。

 

事業に関わるあらゆる主体にとって恩恵がある仕組みを構築されたのですね。生活者(エンドユーザー)にオーガニックコットンを普及させるための工夫も何かされていますか?

こちらについても大きく2点ございます。➀商品購入を通して様々な「社会貢献プロジェクト」に寄付できる仕組みの構築と、➁様々な団体とのコラボレーションを通したイベントや体験×「オーガビッツ」商品の展開です。

「オーガビッツ」商品は、様々な社会貢献プロジェクトと紐付いており、売上の中から1~10円が寄付される仕組みになっています。具体的には、東日本大震災の津波の到達地点に桜の植樹を行う「さくら並木プロジェクト」、入院中の子供たちに笑顔を届ける「クリニクラウンプロジェクト」、絶滅危惧種のウミガメ保護をはじめ海洋環境の保護活動をする「ブルーオーシャンプロジェクト」など7つのプロジェクトをNPOさんやファッションブランドさんと企画・運営しています(2019年12月現在)。

なぜ、オーガニックコットンの普及と一見関係がない「社会貢献プロジェクト」を紐付けるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。しかしながら、生活者(購入者)の視点で考えてみると、オーガニックコットン商品を購入することと、被災地に桜を植樹することは、「ちょっと社会に良いこと」をしたというソーシャルな価値を感じるという面で重なっているのです。さらに、コットン生産を取り巻く社会問題に関して、遠く離れた国の問題であるためイメージしづらい方でも、自分のお買い物がウミガメや病児を支援できるといった、より身近な社会貢献につながる実感が沸きます。すなわち、「社会貢献プロジェクト」を紐付けることで、ソーシャルな価値を増幅したり、あらゆる生活者にとってオーガニックコットンの購入=「ちょっと社会に良いこと」をしたというイメージを確立したりできることにつながるのです。

また、そうした取り組みを楽しく伝えることも意識しています。「オーガビッツ」商品には、紐付けられた「社会貢献プロジェクト」をしゃべって紹介してくれる「しゃべるタグ」をぶら下げています。QRコードを読み取ってスマートフォンの画面にかざすと、プロジェクトの概要や感謝のメッセージを聞くことが出来ます。(写真参照)

 

「社会貢献プロジェクト」や「しゃべるタグ」を通した取り組みは、生活者に対するアプローチのみならず、先ほど申し上げた取引先ブランドさんたちの差別化やストーリー性の強化にもつながっています。

コラボレーションを通したイベントや体験×「オーガビッツ」商品の展開については、音楽やスポーツの力を借りて、オーガニックコットンの普及に取り組んでいます。

例えば、Jリーグ「べガルタ仙台」の試合に協賛して「オーガビッツマッチデー」を共催し、被災地の子供たちによるエスコートキッズ(サッカーの試合のときに選手と一緒に登場する子どもたち)や、「オーガビッツ」のPRブースなどを企画・実施しました。また、人気バンドの「MONKEY MAJIK」とのコラボレーションで、「オーガビッツ」のツアーTシャツを販売したこともあります。

また、「社会貢献プロジェクト」においてもイベントや体験の展開を一部試みています。例えば、「さくら並木プロジェクト」では、取引先ブランドさんたちと一緒に植樹活動をしています。

このように音楽やスポーツ、様々な方々の力を借りつつ、楽しくオーガニックコットンを知ってもらうイベントや体験の機会を、生活者に向けて提案しているのです。

 

「オーガビッツ」の経済的・社会的な実績について教えてください。

「オーガビッツ」は、2019年で14年目を迎えるプロジェクトです。2019年6月時点で、720万枚以上のアイテムを販売した実績があり、取引ブランド数は100を超えています。その分だけオーガニックコットンの普及に貢献したと言いたいところですが、社内での取扱量は格段に増えているものの、全世界におけるオーガニックコットンの取扱量・生産量は、残念ながらまだまだ伸び悩んでいます。今後も少しずつ着実に拡大していけるよう取り組んで参ります。

「社会貢献プロジェクト」による寄付に関しては、2019年度は7つの「社会貢献プロジェクト」に5,416,820円を支援し、これまでの寄付総額は、4,000万円を超えました。「社会貢献プロジェクト」は、「オーガビッツ」を立ち上げてから3年目に始めた取り組みですが、その翌年の4年目にはオーガニックコットン販売事業が損益分岐点を突破しました。その要因には、営業活動や生産コストの削減といった基本的な努力・効率化も挙げられますが、「気軽で楽しく分かりやすい社会貢献」と「オーガビッツ」を結びつけたことで、(オーガニック)コットンを取り扱う競合他社に対する差別化が強化されたことも大きかったと思います。

 

最後に、今後の展望を教えてください。

オーガニックコットンに限らず、オーガニック野菜やワイン、コスメなど、さらに言えばオーガニックなライフスタイル全般を提案・拡大していきたいと考えています。その一環として、神田駅の近くに「サスティナブルキッチン ROSY」というオーガニックレストランを運営しています。

またありがたいことに、徐々に「オーガビッツ」が業界の枠を超えて広がり始めてきており、他業種・他業界さんとの関わりも増えてきています。最近では、ユニ・チャームさんにも協賛いただきました※。

※プレスリリース: 国内初のオーガニックコットンを配合したおむつ「ナチュラルムーニー」、日本最大の普及プロジェクト「オーガビッツ」をベビーケア用品業界で初めて採用!

これらのような業界の枠にとらわれない取り組みやご縁を今後も紡いでいき、あらゆる方面からオーガニックなライフスタイルを提案・拡大していきます。

 

ありがとうございました。

 

【インタビューアー】

◆APSP研究員 / 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 : 樋口 晃太

APSPにて、「生活者の社会的意識・行動」や「ソーシャルプロダクツの成功要因・課題」などを明らかにするための調査・研究事業に従事。福島県で農業支援事業を営む家庭に育ち、学部生時代は震災復興やオーガニック農業の支援活動に取り組む。現在は、中央大学の博士後期課程に在籍し、「CSV(共通価値の戦略)」を研究。

この企業について

豊島 株式会社

愛知県名古屋市中区錦二丁目15番15号

https://www.toyoshima.co.jp/

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