注目のエコ素材「セルロースファイバー」開発秘話に迫る!<br>― パナソニック×麻布大学「森のタンブラー」 ―

2020/11/13

注目のエコ素材「セルロースファイバー」開発秘話に迫る!
― パナソニック×麻布大学「森のタンブラー」 ―

パナソニックとアサヒビールは、日々の生活や消費におけるCO2排出量、およびプラスチック廃棄物の削減を目指して、間伐材や食品廃棄物などの植物資源を活用したリユースカップ「森のタンブラーを開発し、リユース文化をつくりだそうとしています。

「森のタンブラー」の主原料である高濃度セルロースファイバー成形材料」は、軽さや丈夫さ、デザインの自由度といった機能性と、環境負荷の低さを兼ね備えていることから、プラスチックの代替素材として注目されています。

今回は、アサヒビールと学術指導契約を結び、「森のタンブラー」のプロモーションを通して消費行動の変革に取り組む麻布大学の杉森天真さん(写真下、中央左)が、パナソニックのマニュファクチャリングイノベーション本部で、「高濃度セルロースファイバー成形材料」の開発や普及に取り組む、切通毅さんと名木野俊文さん(写真上、順に左・右、以下敬称略)に、同素材の特徴や「森のタンブラー」開発までの道のり、今後の展望などについてインタビューしました。

※アサヒビールへのインタビュー記事は、コチラからご覧いただけます。

 

■注目のエコ素材「高濃度セルロースファイバー成形材料」とは?

杉森:まずは、「高濃度セルロースファイバー成形材料」の特徴を教えてください。

名木野:間伐材などの森林資源や産業廃棄物を含む植物資源といった再生可能資源を活用できる点が、最大の特徴です。とくに、木から得られるパルプに樹脂を混合し、微細化・加工することで製造しています。

再生可能資源を55%以上という高濃度で配合する技術は、世界初のパナソニック独自技術です。

杉森:「森のタンブラー」のラインナップには、ビール製造で焙煎した後に食品廃棄物となってしまう麦芽を原料にした「森タンMUGI」がありますよね。

切通:アサヒビールさんとのコラボレーションならではの商品ができたと思っています。

現在、自治体とのコラボも進めています。地域の森林から得られる間伐材や、特産品の製造過程でどうしても出てしまう食品廃棄物などを活用することで、その地域ならではのストーリーが詰まった商品開発ができてうれしいといった声もいただいています。

地域や企業それぞれの文脈で商品開発が可能ですので、今後もいろいろな展開を模索していきたいです。

杉森:いろいろな団体や地域と作り上げていく素材なのですね。プラスチックやガラスと比較すると、その特徴はいかがでしょうか?

名木野:壊れにくく、処分やリサイクルしやすいです。

面衝撃テストでは、ガラス繊維複合樹脂と比較して高い評価を獲得しています。また、ガラス繊維はほとんど伸びずに割れてしまいますが、セルロースファイバーはある程度伸びるので割れにくくなります。

また、植物素材を採用しているため、燃やしても何も残りません。さらに、樹脂の種類ごとに分別回収し、強度をなるべく保った状態で再利用できるリサイクルシステムも活用可能な見込みです。

杉森:まさに機能性とエコを両立していますね。つづきまして、製造過程の特徴を教えてください。

名木野:CO2の排出量と水の使用量を削減できます。

従来のセルロースファイバーでは、パルプから繊維に加工していく過程 (解繊)において、化学処理や機械処理が施されます。それらは、水中で行う湿式製法のため、乾燥工程が入ります。そのため、大量の水と、乾かすためのエネルギーが必要となり、CO2が排出されてしまいます。それらを削減したいという想いが、研究開発に着手したキッカケの1つとして大きかったです。

杉森:そもそも水中で製造しなければ、水も乾かすエネルギーも不要になりますよね。

名木野:鋭いです笑!おっしゃる通り、「高濃度セルロースファイバー成形材料」では水を使わずに配合樹脂融液の中で繊維を解繊する「全乾式製法」を開発・採用しました。この製法は、湿式製法と比較して、セルロース1kgあたり約1.8kgのCO2を削減できます。

切通:もともと「高濃度セルロースファイバー成形材料」は、環境省からの委託業務という形でCO2を削減する取り組みとして始まりました。パナソニックとしても、「環境ビジョン2050」でCO2排出量の削減をテーマにかかげています。

 

■パートナーシップで最先端技術を市場に浸透させる

杉森:つづきまして、「高濃度セルロースファイバー成形材料」を活用した商品開発について伺いたいと思います。

切通:最初は、スティック掃除機「POWER CORDLESS」に採用されました。スティック掃除機には落とした場合に割れる恐れがある部品があり、「高濃度セルロースファイバー成形材料」を採用することで、軽量のままに耐久性が上がりました。

 

杉森:アサヒビールさんと共に「森のタンブラー」開発に着手したキッカケを教えてください。

切通:アサヒビールさんとパナソニックは、東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナー同士という共通点があります。そのご縁から技術交流会を実施した際、アサヒビールの古原さんから「この素材でリユースカップを作ってみたい」とご提案いただいたのがキッカケです。

杉森:偶然の出会いから始まったのですね。「高濃度セルロースファイバー成形材料」とリユースカップの親和性については、どのようにお考えですか?

名木野:大きく2点ほど親和性の高さを感じています。

1点目は、デザインの自由度です。「高濃度セルロースファイバー成形材料」は、成形するときに加熱する温度で色を変えることができます。「森のタンブラー」では、植物素材の風合いを十分に引き出せました。

杉森:森タンは、見た目だけでなく、素材の香りも楽しむことができますよね。

切通:五感に訴求できる特徴が、食器という商品ジャンルとの親和性を高めているかもしれません。

名木野:2点目は、まさに五感の「感触」に関わるものです。植物素材由来のザラザラ感が、ビールの泡立ちの良さにつながりました。これはもともと意図していたわけではなく、目からうろこ&偶然の産物でした。

プラスチックコップと「森のタンブラー」におけるビールの泡の違い

※参考:「森のタンブラー」『ソーシャルプロダクツ・アワード2020 生活者審査員賞』

 

切通:従来の商品開発では、このザラザラ感はむしろマイナスでした。例えば掃除機などでも、他の部品はツルツルしていますし、その方が品質も高そうに感じられます。

杉森:アサヒビールさんとのコラボレーションで、それまではネガティブに捉えられていた特徴の、ポジティブな側面・用途にも気が付いたのですね。「森のタンブラー」開発にあたって苦労されたことはありますか?

切通:「セルロースファイバー成形材料」は高濃度にするほど、薄く成形するのが難しくなります。タンブラーは、これまでの用途に比べて、薄さが求められる商品です。中のビールが透けて見えるくらいの薄さを実現してほしいと古原さんから承ったときは泣きそうでした笑

名木野:実現には苦労しましたが、今となっては素材の用途が広がりましたので、とても感謝しています。

杉森:先ほどと同様、コラボレーションによって新たな用途が広がったのですね。アサヒビールさんや古原さんにどのような印象をお持ちですか?

名木野:アサヒビールさんは生活者との距離感が近く、マーケットをしっかり捉えているという印象です。市場やお客さんにアピールする上での気づきの鋭さには恐れ入ります。

杉森:私も同じように感じています。例えば、「森のタンブラー」という素敵なネーミングも、試験販売時に店頭でお客さんとコミュニケーションする中で考案したと、古原さんから伺いしました。

切通:古原さんは、かなりパワーのある方だと感じています!私たちでは気が付かない提案や、イベントなどを次々と実現してくれます。「森のタンブラー」は、2018年7月に古原さんと出会ってから1年足らずで、市場にリリースすることができました。このスピード感は、家電の世界ではまずあり得ません。古原さんのパワーで引っ張っていただいた結果だと思っています。

杉森:古原さんにお伝えしておきますね。

インタビュー風景

 

■くらしの中から、世界を変えていく

杉森:最後に今後の課題や展望について、お聞かせください。

名木野:「高濃度セルロースファイバー成形材料」の環境負荷をさらに低減したいです。

具体的には、植物資源の配合率を、現在の55%から70%まで高めることを目標として、日々の研究開発に邁進しています。また、残りの30%についても、生分解性プラスチックや植物由来のプラスチックに変えていきたいです。

切通:社会ニーズへの対応を通して、さまざまなパートナーと共に、くらしの中から世界を変えていきたいです。

世の中の変化にともない、市場ニーズは目まぐるしく変化しています。一方、社会ニーズはその声が大きくなることはあっても、求められる本質は持続可能性への志向であり、それが変わることはありません。すなわち、世の中の変化に影響されないので、取り組めば取り組むほど先に進めますし、逆に何もしなければ取り残されてしまいます。

パナソニックは、くらしを彩る商品やその素材を持続可能にしていくことで、世界を変えていきたいと考えています。しかし、それは私たちだけで実現できるものではありません。アサヒビールさんとの「森のタンブラー」のように、さまざまな企業、あるいは地域などと共に、そのパートナーシップならではの文脈で取り組んでいきます。

杉森:最先端のお話を分かりやすく教えていただき、とても勉強になりました。本当にありがとうございました。

 

【インタビューアー】麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科 杉森天真

大学で環境学について広く学ぶ中で、自然環境だけではない広い環境問題や、SDGsへの取り組みの姿勢・活動に興味をもつ。また、遺伝子工学技術を用いたファイトレメディエーションに関わる研究を行っており、社会的・科学的の2面から環境問題への取り組みをしている。サークルでは、限界集落や大学付近地域での地域の人との交流を行い、地域の持続可能性について考えるサークルに所属。年に数回人形劇などを行っている。

 

【参考】

「植物由来のセルロースファイバーで循環型モノづくりを加速」『パナソニックHP』

https://news.panasonic.com/jp/stories/2020/81230.html

「森のタンブラー×麻布大学」『Twitter』

https://twitter.com/moritanazabu

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