2023/09/19
【ソーシャルプロダクツ・インタビュー】
かわいさだけにとどまらない。創業者の想いがつまったサステナブルビューティーバー「Ethique(エティーク)」を日本で広げていくための覚悟と取り組み
―株式会社 ピー・エス・インターナショナル「Ethique」―
ソーシャルプロダクツのさらなる普及に向けて、2022年10月より慶應義塾大学SFC玉村研究会※とソーシャルプロダクツ普及推進協会にて共同プロジェクトを開始しました。同研究会でソーシャルマーケティングを専攻する学生が、ソーシャルプロダクツ・アワード(SPA)2023の独自評価軸を策定、SPA2023 において特にZ世代の共感度が高い優れた商品・サービスを選定し、情報発信にも取り組んでいます。
※慶應義塾大学SFC玉村研究会
玉村研究会では「ソーシャルマーケティングと価値共創」の研究活動を行います。ソーシャルマーケティングにまつわる理論や概念の理解に加え、実際の様々な事例の調査研究や、実践的なプロダクト開発などにも取り組んでいます。
プロジェクトで策定した独自評価軸を通じて、商品性はもちろん社会性が多様な観点において優れている「GOOD パフォーマンス賞」として学生から選ばれた「Ethique※」。
※Ethique(エティーク)
海洋汚染問題に心を痛めた一人の理学部女子学生ブリアン・ウエストがその知識を生かし、プラスチック撤廃をテーマに製品を開発。2012年に設立されたニュージーランド発のサスティナブルなビューティー バー(Beauty Bar)ブランド。
今回はEthiqueを日本で展開する株式会社 ピー・エス・インターナショナルの代表取締役社長 & COO北川様から、ブランドのミッション達成に向けた商品づくりや日本展開にいたる経緯などについてお話を伺いしました。
株式会社 ピー・エス・インターナショナル 代表取締役社長 & COO 北川様
インタビュアー・記事作成:
慶應義塾大学SFC玉村研究会
齋藤の乃(ノルウェーでの留学をきっかけに、食と環境問題の関わりに関心を持つ)
伊藤更彩(ビジコン参加をきっかけに、フードロスと生活者心理に関心を持つ)
ビューティーバーを通じて、世界からプラスチック廃棄物をなくす
Ethique創業者の想いがつまったブランド。
齋藤:はじめに、Ethiqueは既存の固形石鹸とどのようなところが違うのか教えてください!
北川様:Ethiqueのシャンプーバーは弱酸酸のアミノ酸由来で、石鹸素地を使用しておらず、石鹸とは別物の固形のシャンプーです!年齢や季節などのシチュエーションに合わせてお選びいただけるラインナップが揃っています。日本人がスキンケアで何種類もの商品を使い分けるように、Ethiqueの商品も様々な種類を楽しみながら使ってもらいたいと思っています。
齋藤:私も、まずは種類の豊富さに驚きました!香りだけでなく、悩みや用途、髪質、季節などに合わせて選べるので、良い意味で固形シャンプーのイメージを覆していますよね。
北川様:そうです。固形シャンプーは、ギシギシするのでは?乾燥するのでは?と思う人が多かったからこそ、Ethiqueは使い心地を徹底的に追求した点が画期的でした!
シャンプーの材料への配慮から、コンディショナーの固形化まで、開発はかなり難しかったと聞いています。ですがリピートして使ってもらえる商品でないと、「世界からプラスチック廃棄物をなくす」という創業者ブリアンのミッションは達成できないため、より良い使い心地の実現に力を入れていたそうです。
齋藤:そのような試行錯誤があってEthiqueの商品が誕生したのですね!創業者ブリアンさんはニュージーランド出身とのことですが、どんな想いでブランドを始めたのでしょうか。
北川様:ブリアンは2012年、当時23歳でブランドを立ち上げています。ご両親はヨーロッパ出身だそうですが、環境の良いニュージーランドに移住し、ブリアンは自然と動物にふれながら育ったことで、動物や環境を大事にする意識が幼い頃から自然と身についたと言っていました。
大学で環境問題についても学んでおり、プラスチックによる海洋汚染に心を痛めていました。そんな中でふと、シャンプーはお水があるバスルームで使うのに、わざわざシャンプー自体に水を入れる必要があるの?と疑問を持ったそうです。そしてシャンプーの製造段階でも多くの水を使用し、液体ゆえにプラスチック容器が使われている、その容器が環境汚染につながっていることに疑問を持ったそうです。そこで、シャンプーのプラスチック容器を無くすために彼女は動き出しました。まずはキッチンで試作品を作ることから始め、何度も試行錯誤を続けて、Ethiqueの原型となる「Sorbet(ソルベ)」という固形シャンプーを世に出しました。
齋藤:幼いころから自然を大切にする意識があったからこそ、環境保護のために”まず行動する”ことができたのですね。
北川様:そうですね。最初に開発したSorbet(ソルベ)を試しに売ってみたところ周囲の反応が良かったそうで、そこから改良を続けていきながら、事業を拡大していきました。また、クラウドファンディングを通じてたくさんの人々が応援してくれ、商品のファンになってくれるとともに、株主やアンバサダーといったかたちでも応援してくれたそうです。
齋藤:「これ以上地球を汚さない」というブリアンさんの想いに、共感する人が少しずつ増えていったのですね!
北川様:また彼女は、Ethiqueへの想いをSNSを通して発信し続けていました。結果、その情熱が伝わりメディアで取り上げられたことで、一気に彼女の存在とEthiqueの商品が広まりました。
Ethiqueの需要が国を超えて高まっていく中でも変わらずに、原料選択は非常に高い意識を持って取り組んできました。例えば、パーム油の代わりに使用しているココナッツ油はサモアの人々の生活を向上させるために尽力している女性団体WiBD(WomeninBusinessDevelopmentInc)から仕入れたり、児童労働問題が一切ないサプライヤーから調達を行っています。また、創業当時のパッケージは、水に入れるとすぐ溶けるようなものでしたが、輸出時に赤道を通っても溶けないよう、紙の素材に生分解性のコーティングを行い油染みがないように改良しています。
齋藤:環境保護だけでなく、原料の生産背景にも目を向けて取り組んでいるのが素晴らしいですね!
北川様:はい。ブリアンの想いがそのまま、Ethiqueの商品に反映されています。地球上のプラスチックボトルシャンプーを全て無くしたい、という想いがつまっているんですね。
創業者ブリアンの想いを受け、覚悟を決めて取り組んだ自社の変化
齋藤:御社でEthiqueを販売したいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
北川様:当社は創業35年、15年前からオーガニック商品の取り扱いを始めました。その前までは、私自身オーガニック商品を今ほど生活に取り入れてはいませんでしたが、事業を始めてからはとても奥が深い分野だと思うのと同時にオーガニックの虜になりました。公私共にオーガニックが大好きです。オーガニックを知れば知るほど行き着くのは、”人の健康を支えるのは環境や土壌”からという考えです。
齋藤:オーガニック商品にふれていく中で、環境や土壌の大切さを実感されていったのですね。
北川様:はい。その過程でEthiqueを知りました。ずっとアプローチをしていましたが、ある時にブリアンがアメリカのアナハイムに行くとの情報を得て、丁度オーガニックの展示会があった際に彼女と会う約束をして、Ethiqueを日本で展開したいと熱弁しました。契約実現までには1年以上かかりましたが、ブリアンが会った日本企業の担当者で私が1番情熱的だったとのことで、最終的に当社をパートナーに選んでくれました。
Ethiqueと契約後は、中途半端にただトレンドの延長としてEthiqueの取り扱いを始めたくなくて、自社倉庫資材を廃プラにしようと決め、代替資材への切り替えに取り組み始めました。日本展開を始めた際には、倉庫資材のプラスチック削減を約98%実現しています。
齋藤:え!98%も削減するのは大変ではなかったですか?
北川様:取り組み始めてから1年弱ぐらいで削減できましたね。Ethiqueをやっていく!と決めた時に、本気を出さなければいけないと思いました。元々オーガニック商品を取り扱っていましたし、当社としても環境保護に力を入れて取り組んでいる。流行りそうだからEthiqueを日本展開しようとしているのではない、とブリアンに伝えたかったのです。大企業ではなく中小企業の私たちが、SDGsに関わらず、「これ以上地球を汚さない」ための取り組みをリードしていかなければという気持ちでした。
齋藤:情熱だけでなく、実際に環境保護につながる行動を示すことで覚悟を見せていたんですね。
多くの人に手に取ってもらえるデザイン
齋藤:Ethiqueを見た時の第一印象が、パッケージがかわいい!でした。デザインはかなり意識されているのかなと思ったのですが、生活者に高く評価されている商品性はどのようななところだと思いますか?
北川様:パッケージは、手にとりたくなるデザイン性を強く意識したそうです。シンプルで高級な雰囲気のデザインですと、購入へのハードルが上がってしまうため、たくさんの商品の中でも埋もれずに手に取りやすいパッケージデザインになっていますね。
齋藤:Ethiqueのパッケージを見た際に、環境に良い点が分かりやすく記載されていたことも印象的でした。どういったことを意識しながら、サステナブルなポイントを伝えているのでしょうか。
北川様:環境に良いというのも大事な要素ではありますが、実際に購入を検討する際は、その商品で自分の髪悩みが解決できるかどうかを気にされる方も多いと思います。Ethiqueのたくさんのラインナップからお客様ご自身に合う商品に出会った際に、「あ、このバー1つでボトルシャンプー3本分使えるんだ※」ということを知っていただけるよう、パッケージにイラストと共に説明が入っています。
齋藤:商品そのものの良さを知った先に、サステナブルな気づきを与えることもできるのですね!
北川様:また、Ethiqueの商品を通じた環境保護について自然と会話が生まれてくれたらいいなという想いから、ビーチクリーンやタウンクリーンに参加してくれた方にEthiqueの商品をお渡しする活動も行っています。
口コミで広がることを意識したマーケティング手法
齋藤:日本でEthiqueを展開する上で工夫していることはありますか?
北川様:コロナ禍を経てオンライン販売にも力を入れるようになりました。インスタグラムやウェブサイトでの発信も工夫しているため、Ethiqueの商品やサステナブルなポイントをいいなと思った人が口コミで広げてくれています!
Ethique公式インスタグラム・ウェブサイト
また、インフルエンサーやアンバサダーを起用して、彼らの目線や価値観で商品の魅力を伝えてもらうようにしています。広告は一方的な発信になりがちなため、口コミや人づてにEthiqueの良さを広めていく方が継続使用につながる可能性が高いと考えているからです。アンバサダーになっていただく方は、職業・年代やフォロワー数よりも、商品を広げたいという情熱があるかどうかを重視し、一緒に取り組んでいただいています。
齋藤:私が所属する研究会メンバーと話した際も、私たちの世代(Z世代)はWebサイトを調べるよりも口コミ重視であるため、口コミで広げていくマーケティングの重要性を改めて認識しました。実際にSNSやウェブサイトで発信している情報が生活者に届いている実感はありますか?
北川様:日本でEthiqueを販売開始した当初は、サステナブルやエシカルに感度が高いアーリーアダプター層が商品の良さを広めてくれました。現在は、サステナブルやエシカルに感度はそこまで高くないけれどもオーガニック商品を使っている層など、市場により多くいらっしゃる方々にいかにご使用いただけるかを考えています。そのような方々にもEthiqueの商品を継続してもらう鍵は、やはり機能性や使い心地だと思っています。商品性を入り口に、Ethiqueの商品がプラスチックボトル削減につながることやその生産背景などを知っていただければと思っています。
ソーシャルプロダクツを日常の選択肢に増やすために
齋藤:先ほど社会問題に対する意識が高くない人々にも商品を使ってもらいたいとおっしゃっていましたが、日常でもっとサステナブルな商品を選択して継続的に使ってもらうために、企業ができることについてどうお考えですか?
北川様:環境問題や社会問題解決への取り組みに透明性を持ち、企業として生活者から信用されることが必要です。私たちはサステナブルな活動をオープンにし、取り組みの大変さも伝え、発信するようにしています。また当社が行った環境に関するアンケート調査から、10代と50代がエシカルに取り組んでおり意識が高いことを発見しました。私自身も、サステナブルな活動をより積極的に発信して取り組みたいと感じています。世の中にソーシャルプロダクツがもっと広がるといいですね。
齋藤:以前よりもソーシャルプロダクツが選ばれる機会が増えていますよね。SDGs達成年である2030年までにもっとソーシャルプロダクツが身近に普及していけばと思います!本日は貴重なお話をお聞かせくださり本当にありがとうございました。