1869年の創業以来、長きに渡り銀座の地で子ども服を販売してきた株式会社ギンザのサヱグサ(東京都中央区。以下、サヱグサ)。シンプルで上質、そしてファッショナブルな子ども服を発信し続けてきた同社ですが、それと同時に、将来を担う子どもたちへ、豊かで健全な・持続可能な環境社会を築き残すこともミッションとし様々な取り組みを行っています。
今回はその取り組みの一つ、「Kotaki Rice & Future」をご紹介します。長野県北部地震の被災地である長野県栄村小滝地区で作られた希少なコシヒカリ「小滝米」を、サヱグサが「コタキホワイト」として再ブランディングし販売しているプロジェクトです。同社のコミュニケーション戦略室室長の澁江摩樹さんにお話を伺いました。
―サヱグサと栄村小滝の出会いとは?「Kotaki Rice & Future」立ち上げのきっかけを教えてください。
元々、「将来を担う子どもたちのために」という想いで2012年に「SAYEGUSA GREEN PROJECT」を立ち上げ、環境保全や自然教育に取り組んできましたが、その取り組みのひとつ、子供たちの自然・里山体験キャンププログラム「GREEN MAGIC」の開催地を探す中で、栄村小滝と出会いました。2013年6月のことです。栄村は長野県の最北端にある人口約2,000人の村で、積雪量日本一を記録したこともある日本有数の深雪地帯です。
小滝は栄村内に31ある集落のひとつで、千曲川沿いにたたずむ14戸の美しくも小さな集落です。そして東日本大震災翌日の長野県北部地震の被災地です。約7割の田んぼが壊滅的な被害を受けたにもかかわらず、住民の方々は「美しい里山をさらに300年後まで引継ぐ」という壮大な復興ヴィジョンを掲げて懸命に復旧活動に取り組み、さらなる復興を目指していました。
その前向きな姿に心を打たれ、そしてこんな素敵な場所に子どもたちを連れてきてあげたい、豊かな自然に触れさせてあげたい、との思いから栄村でのキャンププログラムの開催、そして新事業部「Kotaki Rice & Future」を立ち上げての小滝復興の支援活動へと繋がりました。
―なぜ子ども服のサヱグサがお米の販売を?
小滝の核となるのが300年以上伝え作り続けてきたコシヒカリ「小滝米」です。一口にコシヒカリと言っても、収穫場所によって味が微妙に違うのですが、小滝米は上品な甘みと程良いもち感があり、炊きたてはもちろん冷めても美味しいのが特長です。その美味しさは昔から知られていたものの、作付け量が少ないのでほとんどが地元で消費されており、一般にはなかなか流通されませんでした。
小滝の人々との交流を深めるにつれ、そんな小滝米の美味しさや米作りへの真摯な姿勢に感動した弊社社長が「1トン買うから任せてくれ」と購入、再ブランディングから新たな販売方法の開拓、復興への一助を目指しました。2014年お歳暮期のテスト販売を経て、2015年10月より本格的に販売を開始しました。
―お米をワインボトルに入れるというのは斬新ですね。
お米にもワインと同じようにテロワールがあること、まずはそれがこのアイデアのスタートでした。さらに、お米を劣化させないためには、日の当たらない涼しい場所で、空気にできるだけ触れさせず、乾燥させすぎないように保管する必要があります。この保管の条件もワインと似ています。ワインと同じように産地の風土やその年の気候によって変化する味わいを楽しんでいただきたい。お米を良い状態で保管してワインのようにその微妙な違いを味わっていただきたい、という想いからワインボトルにたどり着きました。
それに加えて、お米をご自宅用に購入していただくのは勿論、特別なものとしてギフト用にも購入していただきたいというのもあり、ギフトにふさわしいお洒落感と品格を出すにもワインボトルはぴったりだと考えました。
―販売を始めてから約4年、反響はどうですか?
おかげ様で順調で、主にネットショップで全国からご注文をお受けしています。また、大手雑貨販売店さんや、航空会社さんのポイント還元商品としても取り扱っていただいています。現在では、小滝での作付け量30トンのうち約半分の15トンを弊社で購入、「Kotaki Rice & Future」が取り扱いをさせていただいています。
「Kotaki WHITE コタキホワイト」の商品ラインナップも増え、ギフトボトルだけでなく、ご家庭用の米袋やお得な定期宅配便、ノベルティ、オリジナルパッケージのご相談などもお受けしております。また、「Kotaki WHITE コタキホワイトギフトボトル」は売り上げ一本あたり50円を小滝の支援金として寄付させていただいておりますが、直接的な支援が出来るとしてお客さまに好評です。
―「Kotaki Rice & Future」をきっかけに、お米の販売にとどまらず何か変化したことはありますか?
実はお米自体の買い取りは私どもサヱグサが行っているのですが、実際のパッケージングなどの仕事は小滝の住民の方々に委託しています。2015年に、全住民が出資する合同会社「小滝プラス」が設立され、そこで働く小滝の方々の手作業によって瓶詰め、出荷がされています。結果的に雇用の創出にもなり、小滝米のブランド価値に見合った適正価格での販売と相まって、少しずつですが小滝の経済を良い循環で回す一助になっていると思います。これも「美しい里山をさらに300年後まで引継ぐ」小滝の将来にとって大切なことだと思います。
―子供たちの自然・里山体験キャンププログラムの方でも変化はありましたか?
2014年にスタートしたキャンプに加え、お米作り体験ツアーとして、親子で田植えや稲刈りに参加できるプログラムを2016年から行ってきました。サヱグサのメイン顧客であるお客様は都会育ちで田んぼや里山に触れる機会が少ない方が多く、親子揃って良い体験ができると毎回ご好評いただいています。
実は最近6月2日と3日も田植えツアーを企画していたのですが、直前の5月25日に栄村で震度5強を観測する地震が起きてしまいました。現地では物が割れ、窓ガラスが割れ、壁にひびが入る被害も出ました。まだ余震の可能性もある中、大切なお客様をツアーにお連れするのは危ないと判断し、参加予定の方々に中止のご連絡をしました。
ところが、お客様から返ってきたのは「こんな時だからこそ小滝に行ってお手伝いをしたい」、「小滝の復興のために今までツアーに参加していたのだから、今行かなければ」「小滝のために何かできないか」などの前向きであたたかいお言葉でした。結果、20名ほどの有志が集まって田植えのお手伝いを行うことができ、今まで以上に小滝とお客様との絆、またお客様とサヱグサとの絆を実感できた2日間となりました。
―素晴らしいですね。お米をはじめとした交流から、人同士の繋がりが深まったのですね。
そうですね。当初のキャンプ地探しをきっかけに小滝と出会い、住民の方々には本当にたくさんのことを学ばせていただいています。何より大きいのが、小滝の方々の柔軟で前向きな姿勢です。どうしても地方の少人数地区になるほど従来の考え方や取り組み方に強いこだわりを持つ方が多いと聞きますが、小滝の方々は復興のためであればと、我々のような遠く離れた場所から来た者の考え方ややり方を聞き入れて下さいました。外へ外へと交流を広げていき、今までと違う考え方も受け入れ、チャンスを得ていく。そのたくましく前へ歩んでいく姿に勇気をいただきました。
逆に私どもの側からも、小滝米の継続的な支援だけではなく、定期的なキャンプやお米作りツアーの開催で多くの子ども達や親御様との交流の機会を設けることで、小滝に活気や元気を提供できればと考えています。
―今後は新たな展望などはお考えですか?
そうですね、都会の皆様の学びの場として、里山ツーリズムのような拠点にできたらとの想いはあります。具体的には決まっていないのですが、例えば企業の研修などでしょうか。あらゆる世代に小滝の良さを知っていただける仕組みを作れればと思います。
ちなみにこれは、移住者を増やして地区を大きくしようとか、お米の作付け量を大幅に増やして販路を拡大しようとか、そういった考え方では勿論ありません。あくまでも小滝は小滝の住民の皆様のものなので、村の暮らしや財産を守りつつ「美しい里山をさらに300年後まで引継ぐ」という目標をずっと一緒に支えていく取り組みができればと考えています。
―ありがとうございました。
「Kotaki Rice & Future」http://kotakirice.jp
「SAYEGUSA GREEN PROJECT」www.sayegusa-green.com