APSP第28回定例セミナーレポート<br>加速度的に変化した2019年を振り返る<br>~ESG・SDGs・ソーシャルプロダクツ~

2019/12/25

APSP第28回定例セミナーレポート
加速度的に変化した2019年を振り返る
~ESG・SDGs・ソーシャルプロダクツ~

加速度的に変化した2019年を振り返る
~ESG・SDGs・ソーシャルプロダクツ~

 

第1部 SDGs元年? 2019年の生活者・商品・企業の変化

【講演者】
APSP事務局長 株式会社YRK and取締役兼TOKYO代表 深井賢一
APSP研究員 中央大学大学院商学研究科博士後期課程 樋口晃太

平成から令和に変わった2019年は、実質的なSDGs元年といえるのではないでしょうか。この1年で、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)に対する企業の姿勢が大きく変わりました。恒例となったAPSPの「今年の振り返りセミナー」では、この1年に何が起こり、何が変わったのかを考えました。

◆生活者の「社会的意識・行動」に関する最新動向

今年、APSPがWEBアンケートで行なった「社会的意識・行動に関する調査」では、ソーシャルプロダクツの「人や地球、地域社会に対する配慮」に関して、日常的に購入する安価な商品(食品、化粧品、日用雑貨など)では「それだけで購入につながる」と答えた人が35.0%、また比較・検討しながら購入する高価な商品(衣類、アクセサリー、家具、家電など)については「購入の検討や後押しにつながる」と答えた人が34.9%と、それぞれ3人に1人を超えているのが目立ちました。(グラフ参照)

しかしながら、エコやフェアトレード、オーガニックといった具体的なソーシャルプロダクツの購入率や将来的な購入意向については、これまでの調査に比べて、ほとんどの項目で横ばいか、やや低く推移していました。このことから、意識(「人や地球、地域社会に対する配慮」を知ると購入したいと思う)と行動(実際にソーシャルプロダクツを購入する)には大きな溝があるといえます。

ソーシャルプロダクツを購入していない理由、あるいはそれらに現在感じている不満を尋ねた質問では「どれが該当商品か分からない」と答えた人が43.2%と最多であり、企業には社会的な取り組みに関して、より積極的なコミュニケーションが求められていると考えられます。

また、何らかのソーシャルプロダクツを日頃から購入している人の過半数は、自分が購入している商品の社会的取り組み(被災地での植樹、海岸の清掃、無農薬栽培や伝統産業の体験など)に参加してみたいと考えていることも明らかになりました。

◆2019年に発売された注目のソーシャルプロダクツ

2019年はビジネス界におけるSDGsの拡大からソーシャルプロダクツ開発・展開の第1歩を踏み出す企業が急増しました。その際、「0から立ち上げる」「ソーシャル性を完璧に満たす(認証を取得する、原材料の全てに配慮をするなど)」ことにこだわりすぎると、ハードルが上がってしまいます。例えば、商品のコストのうち、8割が社会課題の解決のために充てられている商品を1つ売るよりも、そのコストを3割まで抑える分、生活者にとっての価値(品質やデザインなど)を高めた商品を3つ売る方が、社会的インパクトも、生活者の満足度も、売上も向上します。また、既存の商品にソーシャルな取り組みを加えたり、かけ合わせたりすることでも、ソーシャルプロダクツ開発・展開の第1歩を踏み出すことができます。

APSPが今年取材などを通して関わらせて頂いたソーシャルプロダクツの中から、上記のような発想で商品を展開している、注目の事例をいくつかご紹介します。

出所:長良園 HP(http://nagaraen.com/mottoyasashiiukaisenbei/

出所:「Be ambitious!」HP(http://be-ambitious-dreamer.com/

出所:豊島 プレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000027658.html

 

◆企業の姿勢は激変!?

さまざまな企業と接するなかで、今年6月頃から急激に意識や姿勢が変化してきたのを感じました。SDGsが採択されたのは2015年ですが、実質的には、今年が日本でのSDGs元年といえるのではないかと思います。

講談社刊行の女性誌『FRaU』2019年1月号は、1冊まるごと「SDGs」特集でした。この雑誌がよく売れて話題になりました。その後、春から夏にかけて行なわれたSDGs関連のカンファレンスやセミナーなどは、軒並み盛況となりました。SoooooS.※1では、5月に大丸東京店にて、SDGsをテーマにしたポップアップストアをオープンしましたが、これも大反響でした。最近ではスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが話題を集め、米『TIME』誌の「今年の人」にも選ばれました。これらと並行して、企業の利益と社会課題の解決の両立を目指すソーシャルプロダクツというコンセプトが、急激に受け入れられるようになったのです。

※1 SoooooS.(スース):ソーシャルプロダクツに特化したショッピングモール。

かつては商品のモノ自体の価値やブランド力が大切でしたが、これからは人が何に感動するかに注目し、商品をとりまく「なぜ」「どのように」「誰が」「なんのために」をストーリーとしてアピールすることが重要です。ソーシャルプロダクツを購入しない理由として「どれが該当商品か分からない」が多数であるなら、それは解決できる課題です。

現代では「陰徳あれば陽報あり」は通用しません。新しい世代の価値観や消費スタイルも変わってきていて、「物の豊かさ」より「心の豊かさ」の比重が高まっています。これからは、ソーシャルプロダクツの「人や地球、地域社会に対する配慮」をより的確に伝えていくことが大切なのです。

 

 

第2部 サスティナブル先進国 デンマークに学ぶ

【講演者】
APSP事務局 株式会社YRK and SDGsコンサルティングチームリーダー 木村有香

デンマークへのスタディツアーに参加したAPSPスタッフが、サスティナブル先進国の政治・経済・文化・生活について報告しました。

デンマークは九州ほどの面積に兵庫県ほどの人口という、それほど大きくありませんが、世界幸福度ランキング2位※1、1人当たり名目GDP※2は世界10位と、付加価値をしっかり生み出している国です。SDGs達成度ランキング※3はなんと1位。投票率は高く、18歳以上が有権者で被選挙権を持ち、自分たちの国について考えるベースができています。

※1出所:World Happiness Report 2019
※2出所:IMF(2018)
※3出所:2019 SDG Index and Dashboards Report

教育に関わる費用は無料です。義務教育は0~9年生までの10年間で、多様性が大切にされ、すべての生徒の最大の可能性を引き出すことがゴールとされています。大学生や大学院生には月々約9万円が生活費として国から支給されるので、社会的背景にかかわらず進学して学業に専念することができます。

環境に関しては、2050年までに再生可能エネルギー利用100%を達成し、化石燃料から完全脱却することが目指されています。国営電力会社のDONG Energy(DONGはDanish Oil and Natural Gasの略)が、化石燃料の入った名称が合わないとして、Ørsted(アーステッド)に社名変更しました。街なかのスーパーマーケットなどを覗いても、環境に配慮された商品が日本とは比べものにならないくらい多く揃えられています。オーガニック商品も当たり前のように並んでいました。

小さな国が生き残っていくためには、「デザイン力」「構想&実行力」が重要です。どんな国でありたいか?と考えて、それに必要な力を教育で育むのです。現在の延長線上に想定される未来の姿(フォアキャスティング)ではなく、起点を未来において、実現した未来のために今何をすべきかを考えるバックキャスティングが既に実践されています。こういった考え方を、日本にもどのようにして取り入れていくか検討することが重要だと考えられます。

参加者からの質疑応答や意見交換など活発に行われたセミナーでした。
次回は3月19日を予定しております。詳細はまたお知らせいたしますので
乞うご期待ください!

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