オンラインAPSP第30回定例セミナーレポート 生活者の社会的意識・行動とソーシャルプロダクツ 〜パートナーシップでSDGsを達成するには?〜

2020/12/11

オンラインAPSP第30回定例セミナーレポート 生活者の社会的意識・行動とソーシャルプロダクツ 〜パートナーシップでSDGsを達成するには?〜

第1部 基調講演
「生活者の社会的意識・行動とソーシャルプロダクツ」

神原 理 氏(専修大学 商学部教授 / APSP理事)

 


APSPは2012年から定期的に、生活者の社会的意識や行動に関する調査を実施しています。今回の講演では、2020年の7月に実施した調査の結果を発表していただきました。

 

ソーシャルプロダクツやSDGsの認知度は依然として低く、社会的消費の経験や意向も身近な活動に限られる


ソーシャルプロダクツやSDGsの認知度に関する質問では、オーガニック商品やエコ商品は一般的に認知されているものの、それら以外のソーシャルプロダクツ(フェアトレード商品や障害者支援商品など)やSDGsの認知度は全体的に低い結果となりました。これらの水準は、過去の調査結果と比較してもあまり変わっていません。
年齢別にSDGsの認知度を調べたところ、10代の認知度が一番高く、学校教育の一環でSDGsについて勉強していることが理由だと考えられます。5~10年後の近い将来、彼らが社会に出て消費の中核的な存在になってくると、社会が変化していくのではないでしょうか。


つづきまして、寄付やボランティア等をしたことがあるか、ソーシャルプロダクツを購入したことがあるかといった社会的消費の経験と意向についての回答が下図です。

 

 

寄付・募金を過去に行ったことがある生活者(図内:赤の折れ線)は46.2%おり、東日本大震災や全国の自然災害がきっかけとなった方が大半だと思います。しかし、寄付・募金を現在行っている生活者(図内:オレンジの折れ線)は、減っています。現在行っていることで、生活者の回答率が半数を超えたものは、省エネ51.2%、マイバック・箸・タンブラー62.3%、プラごみの削減・分別64%といった日常生活における身近な行動でした。その他の設問に関しては、過去や現在行ったことがあるかという経験・将来行いたいかという意向、どちらも総じて低いです。これらの数値も過去5年間の調査結果とほとんど変わっていないため、いかにして生活者の社会的消費や行動を促進するかも今後取り組むべき課題だと考えます。


以上で示した社会的意識や行動は、性別・年齢・子どもの有無と相関が見られ、男性よりも女性、年齢は高いほど、そして子どもがいる人の方が水準が高い傾向にありました。特に女性の場合、子どもや家族の健康を考えて食生活を気にするようなりオーガニック商品を購入する等、ソーシャルプロダクツを選択する傾向にあります。

伝えたい情報がターゲット層へ届いていない

ソーシャルプロダクツへの不満についての回答は下図です。「どれが該当商品なのか分からない」という回答が半数近くあり、そのほかにも「身近なところに買える場所がない」「値段が高い」などの声が多くありました。これらの水準は例年変わっていないことから、企業が伝えたい情報や商品がターゲット層に届いていないというプロモーション上の課題や高価格の背景を説明するストーリーの伝え方が不十分といったに課題があると言えます。一方、「デザインが洗練されていない」「品質が十分に高くない」という不満は例年少ないことから、商品としての魅力は一定の評価を得ていることが分かります。

 

 

企業の社会的取り組みへの関心は高まっている

企業の社会的取り組みへの評価は、どの設問においても非常に高い結果となりました。その回答が下図です。概ね70%以上の生活者が評価していることが明らかになりました。

 

 

 

社会的取り組みによる成果の公開方法に関する設問「Q8-9社会的取組の客観的なデータによる公開」、「Q8-10被支援者の声や地域の写真などによる公開」もどちらも高い評価がなされているため、企業は社会的取り組みをどんどんオープンに発信していくべきだと思います。

 

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(講演を終えて) APSP 事務局長 深井賢一
SDGsについては、学校教育で教えるようになったことから、生活者の意識は変わってくるはず。だから企業はSDGsへの関心を持つ生活者へソーシャルプロダクツを提供することが重要です。そんな中で、神原先生のアンケート結果「どれが該当商品なのか分からない」「身近に買える場所がない」という生活者の不満の声は、「どれがソーシャルプロダクツかはっきり伝えましょう」「売場をどんどん作りアピールしましょう!」という企業への最大のエールだと受け取りました。
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第2部 パネルディスカッション
「パートナーシップでSDGsを達成するには?」

 

【パネリスト】

SPA2020 年度テーマ 生活者審査員賞「森のタンブラー」
古原 徹 氏(アサヒビール株式会社 イノベーション本部 パッケージング技術研究所 開発第一部 副課長)

SPA2020 年度テーマ ソーシャルプロダクツ賞「大麦ストロー」
蒲田 ちか 氏(株式会社ロータスコンセプト 代表取締役社長)

神原 理 氏(専修大学 商学部教授 / APSP理事)

【モデレーター】
中間 玖幸 氏(APSP専務理事)

 

 

中間:それでは、蒲田様、古原様から自己紹介と現在取り組んでいらっしゃる事業についてご説明をお願いします。

蒲田:ロータスコンセプトは環境問題や社会課題を見つめ、環境や社会への影響・変化に合わせて、未来のライフスタイルや文化を新たなビジネスを通して提案していく会社です。さらに、クライアントとの協業や連携を通じてSDGsやCSR活動を行いながら、人々の生活や経済活動がより良い方向へシフトしていくことを目指して、主に2つの事業を展開しています。
一つ目は、チョコレート事業の「Bean to Bar」です。この事業で展開するチョコレートブランド「love lotus(ラブロータス)」では、児童労働の無いカカオ豆を使用し、フードマイレージやパッケージの素材、オーガニックの材料などにこだわっています。また、売り上げの一部を児童養護施設の木育キャラバンを運営するNPO法人に寄付させていただいております。「love lotus(ラブロータス)」は、SPA2018年度国際部門で大賞を受賞いたしました。


二つ目は、SPA2020年度テーマソーシャルプロダクツ賞を受賞した「大麦ストロー」の事業です。こちらは海洋プラスチック問題への解決に向けた、「土から生まれ、土に還る」究極のストローです。カーボンマイレージを考慮し、石川県小松市の大麦の藁を使用し、小松市内の就労支援施設で作っております。

そのほかにも、フードロスの解決・事業化のためのプロデュース事業や、アップサイクリング事業として自社ブランド「To Be glove」の展開なども行なっております。

 

古原:私どもは、SPA2020 年度テーマ 生活者審査員賞を受賞した「森のタンブラー」の展開を進めております。「森のタンブラー」はアサヒビールとパナソニック様の共同開発商品です。マイカップとして様々な場面で活用でき、海洋ゴミの一因である使い捨てプラスチックやCO2の排出を削減できます。有機資源を高濃度(55%)に活用し、エコな素材と機能性を両立しました。パナソニック様が独自開発したセルロースファイバー(木質繊維)、国産ヒノキ間伐材、焙煎大麦穀皮をそれぞれ使用した3種類を展開しております。軽く丈夫で何度でも使えることに加え、ビールのキメ細かい極上泡がお楽しみいただけます。現在、SDGsやソーシャルプロダクツについての情報発信やお問い合わせに対応するホームページ「FUTURE TIDE」も開設したので、「森のタンブラー」についての取り組みなどもそちらからぜひご覧ください。

 

 

 

パートナーシップだからこそより多くの消費者へ届く

中間:「パートナーシップ」というキーワードはSDGsの取組みの中でもよく出てきます。古原様や蒲田様は他企業様と協業しながら事業に取り組まれておりますが、そのパートナーシップによってどのようなメリットや効果がございましたか。

古原:「森のタンブラー」でのパナソニック様との協業では、飲食関係と電気関係というお互い得意な分野や影響力のある分野が異なることが大きな強みとなりましたそれにより非常に多くのお客様へ情報発信をすることができ、裾野が広がったと感じています。
また、ロータスコンセプト様と協業する「希望の大麦ストロー」の取り組みは、想像以上にメディアで取り上げていただきました。蒲田さんが長年取り組まれてきた実績やストーリーがあったからこそ、過去の経緯や未来への循環も考えて行われる取り組みということがしっかりと伝わったのだと思います。これはやはり、アサヒビールが自社だけで行うのではなく、ロータスコンセプト様と協業して取り組む効果だと思っています。

中間:同じ志を持った色々な企業・団体とつながれるというのもメリットでしょうか?

古原:そうですね。「森のタンブラー」は一般的なプラスチック製のコップ等に比べると価格は何倍かするので、環境に配慮した商品として営業をしてもなかなか採用が進まないこともあります。ですが、SDGsに取り組みたいという志がある企業・団体・行政においては採用いただくことが多々あり、そういった方々の中で「森のタンブラー」が紹介され、取り組み自体が広がってきていると感じています。

中間:蒲田様も今回アサヒビール様と協業されたことで、生活者やメディアの反応に何か違いは感じられましたか?

蒲田:ロータスコンセプトはとても小さな会社です。その小さな企業が地元である石川県で動くだけでは、どれだけ新聞やテレビに取り上げていただいても、地元ごと(地元だけで行われていること)として捉えられること多くありました。ですがソーシャルプロダクツ賞を受賞し、その展示販売会でアサヒビールの古原さんに商品を知っていただいたことで、「希望の大麦ストロー」というアサヒビール様との協業が実現しました。今まで地元で小さく行なっていた活動が、同じ志を持ったアサヒビール様と取り組むことで全国区での活動が可能となり、本当によかったと思っています。

志が同じだとパートナーシップに苦労はない

古原:やはりパートナーシップで何かを始めようとすると、見ている大きなビジョンや志が一緒なので、苦労した点はなかったです。ソーシャルプロダクツ・アワードの大丸東京店の展示販売会で、「大麦ストロー」というものを初めて知りました。「大麦ストロー面白いよね」「ビール会社ならやるべきだよね」と社内で盛り上がったのを覚えています。APSPを通じて紹介していただいて、二か月ほどでもう話を進めていました。

中間:志が一緒だとこんなに早く話が進むのだということを、我々もすごく感じました。

 

学生が携わることで達成されるWin-Winの関係

神原:今回農水省で、「森のタンブラー」と「大麦ストロー」の展示のお手伝いを私のゼミの学生がやらせていただきました。実際の商品の販売に携わることで、学生の意識が高まり、自分で勉強したり行動することへとつながったので、社会教育的効果はかなり大きかったと思います。やはり学校内だけでなく、社会に出て取り組んでいる蒲田さんや古原さんのような方々を目の当たりにした時に学ぶことの影響力は非常に大きいです。

古原:「森のタンブラー」も麻布大学の学術指導契約を結んでおり、学生さんが主体的に相模原市役所のSDGs課に働きかけてくださったり、地元の商店街に紹介してくださっていて、我々が動くよりも消費者の方々も好意的に捉えてくださっています。

 

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(定例セミナーを終えて)APSP会長 江口泰広
ソーシャルプロダクツは、価値伝達力が弱いことが問題です。商品の社会性の高さだけでなく、その背景にあるストーリーや、商品を買うことによって得られる価値やベネフィットを、生活者に理解・認識してもらえるような伝達が重要となってきます。そしてソーシャルの世界にはスターが必要です。蒲田さん、古原さんを当協会も応援してスターになっていただきたいと思います。今日は、社会の人々に貢献していけるような商品を作り、広げるための学びやヒントが沢山見つかったと思います。素晴らしいお話をありがとうございました。
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この企業について

アサヒビール株式会社

東京都墨田区吾妻橋1-23-1

https://www.asahibeer.co.jp/

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株式会社ロータスコンセプト

石川県金沢市山の上町20-52 

https://www.lovelotus.co.jp/

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