女性には欠かせない生理用品。オーガニックコットンをはじめとしたサステイナブルな生理用品市場の成長は近年目覚ましく、アメリカでは2013年から2018年までの間に2000%近く成長を遂げたといいます(※)。株式会社パノコトレーディングは、商社であるにも関わらずB to Cのオーガニック生理用ナプキンの開発に着手し、オーガニックコットンブランド「sisiFILLE/シシフィーユ」を立ち上げ、2020年の「ソーシャルプロダクツ・アワード」ではソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。ブランド誕生の経緯、商品に対するこだわり、商社ならではのプロモーションなどについて、SDGsライターさくらが、同社のsisiFILLE PRの道端真美様(以下敬称略)にお話を伺いました。
※NYU STERN(2019) “Sustainable Share Index™: Research on IRI Purchasing Data(2013-2018)”
■一人の女性社員の想いから生まれた「sisiFILLE/シシフィーユ」
さくら:パノコトレーディングさんはもともと商社だと思うのですが、なぜB to Cブランドを設立したのでしょうか?
道端:1987年に設立された弊社がオーガニックコットンを取り扱い始めたのは1995年です。実は当初からB to Cの商品作りを行っていました。というのも、当時は今よりもオーガニックコットンの知名度が低く、原料としてオーガニッコットンを扱うだけではなかなか売れなかったという背景があります。生地メーカーとして事業が軌道に乗ってからはBtoCの製品はほとんど作っていませんでしたが、2013年からは新たな取り組みとして「SOIL & RAIN」というオーガニッコットンを使用したアパレルブランドを運営しています。さらに、また違った切り口からエンドユーザーにアプローチしたいという想いから2015年に「sisiFILLE/シシフィーユ」を立ち上げることになりました。
さくら:確かにオーガニックコットンの知名度が上がったのはここ数年のことですよね。では生理用品に目をつけたきっかけは何ですか?オーガニックコットンを使用した商品は他にもたくさんあると思うのですが…。
道端:ブランド設立時のある女性社員の経験がきっかけです。彼女は出産を経験し体質が変わり、それまで使っていた一般的なナプキンが肌に合わなくなってしまったんです。その後は洗って使い回すオーガニックコットン製の布ナプキンを使っていたのですが、育児や仕事で忙しい彼女にとってそれは大きな負担でした。このような経験から、自分と同じような経験をしている女性に寄り添える商品を作りたいと考え、「sisiFILLE/シシフィーユ」は誕生しました。
さくら:なるほど。その想いが「忙しい毎日を生きる現代の女性へ」というコンセプトにつながっているのですね。
■オーガニックコットンの使用にとどまらず、現地の農家支援も行う
さくら:「sisiFILLE/シシフィーユ」に使われているオーガニックコットンにはどのような特徴があるのでしょうか。
道端:「bioRe PROJECT(ビオリプロジェクト)」で生産されたオーガニックコットン「bioRe COTTON」を使用しています。このプロジェクトはインドとタンザニアで展開されており、有機農法の指導や遺伝子組み換えでない種子の提供、一般的な価格に15%上乗せした価格での買い取り保証など、現地の農家を支援しています。さらには、産地全体の教育支援やインフラ整備なども行っています。
さくら:幅広い支援をされているのですね。綿花栽培に直接は関係しない支援もされていますが、その点についてはどのようにお考えですか?
道端:「サプライチェーンの中で誰かが犠牲になっているようなものづくりでは、いい製品をつくることはできない」という考え方が弊社にはあります。そのため、現地の住民に寄り添った様々な支援を行っている、このプロジェクトに参画しています。
さくら:その考えはあらゆる商品に当てはまるものですね。これまでにどのような成果が出ていますか?
道端:プロジェクトが始まった当時(インドは1991年、タンザニアは1994年)はほぼ0だったオーガニックコットン生産量が、2018年インドとタンザニア合わせて7000トンにまで増加しました。プロジェクトの支援によって現地の子供達が学校に通えるようになったので、児童労働が減ったとも聞いています。
さくら:大きな成果が上がっていますね。今後の活動も期待されます。
■商社ならではのトレーサビリティ
さくら:プロモーションの面でこだわっている部分はあるのでしょうか?
道端:私たちは現地のサプライヤーから原料を直接輸入しているため、「ソースの明らかな原料を使って製品を作っている業界唯一の会社」として、生産者や産地の様子を、実際に製品を使ってくださる方々にお伝えしたいと思っています。
さくら:確かに、パノコトレーディングさんは高水準のトレーサビリティを実現されているイメージがあります。
道端:ありがとうございます。長年オーガニックコットンを取り扱ってきた歴史の中でトレーサビリティの概念自体がそもそも社内に浸透していました。2018年からは「Journey of Organic Cotton」という、コットンの栽培地から最終的に生地に至るまで、全ての製造過程を明らかにするサービスを展開しています。sisiFILLE/シシフィーユの商品では、サニタリーショーツで採用されています。オーガニックの認証を取得するには各製造工程の工場一つひとつで認証を取らなければいけません。繊維製品の生産の分業が進んでいる日本で認証を取得した製品を作るのは現実的ではありません。製品のトレーサビリティを示すことで、オーガニック認証に代わる安心の材料になれば、と考えています。
さくら:商社ならではの発想ですね。「sisiFILLE/シシフィーユ」はデザインにも気を配っていますよね。パッケージがシンプルで可愛らしく、手に取りやすいと感じました。
道端:いかにも生理用品、というようなパッケージではなく、洗練された現代の女性に合うデザインにしました。それもあってか、発売当初からアパレルショップや百貨店でもお取り扱いいただいています。
さくら:これも女性に寄り添った商品開発の賜物ですね。
■日本の生理用品市場
さくら:日本ではオーガニック生理用品の市場がまだまだ小さいように感じますが、いかがでしょうか?
道端:この1、2年でかなり成長しましたが、欧米や韓国の市場と比べるとまだまだ小さいです。「sisiFILLE/シシフィーユ」の生理用ナプキンは香川県の提携工場で生産しているのですが、発売当初日本では珍しい商品だったため、商品を理解し生産を承諾してもらうのに時間がかかりました。
さくら:販売までに様々な苦労があったのですね。
道端:はい。その苦労が功を奏し、ブランドとしてユーザーからの信頼を得ることができました。オンラインストアで商品ご購入くださるお客様はリピーター様がほとんどで、新規購入においてもほとんどの方に会員登録をしていただいています。最近では様々なメディアから掲載のお声掛けをいただいており、市場の「生理」に対する関心の高まりを感じています。
さくら:一般的な生理用品より高額になりますが、価格がネックになることはありませんか?
道端:原価が高いためどうしても価格が高くなってしまいます。ですが、それに見合う製品であると思っているのでそこまで問題視していません。リピート率の高さからお客様にもご理解いただけていると考えています。まずは、こだわり抜いた使い心地を実感してもらい、「sisiFILLE/シシフィーユ」を好きになってもらいたい。その後で、オーガニックコットンの産地支援など商品の持つ社会性についても知っていただけたらと考えています。
さくら:社会性のアピールも大切ですが、まずは商品性の高さを知ってもらい、継続して商品を買ってもらうことはどの分野の商品でも大切ですね。
■withコロナ時代の展望
さくら:最後に、コロナ禍における現状と展望について教えてください。
道端:綿花産地(インド、タンザニア)では現状新型コロナウィルス感染症の流行による大きな被害は報告されておらず、オーガニックコットンの生産も変わらず行われています。とはいえ、お客様と一緒に訪れる例年の現地視察は当面の間は難しそうです。今後はどんな形でお客様と産地をつないでいけるのか、違った方法を考えていく必要があると思っています。
さくら:なるほど。商品開発の面ではいかがですか?
道端:新型コロナウィルスが流行する前からオーガニックコットンを使用した使い切りマスクを販売していたのですが、世界的なマスク需要の拡大により提携工場のキャパシティがいっぱいで、現在は生産できていません。新商品として、マスクの内側に入れて使うオーガニックコットン100%の「マスクインナーシート」を発売しました。コロナ禍で当たり前になったマスク生活を少しでも快適に過ごしていただきたいと思っています。
さくら:今後の展望にも期待ですね。オーガニックコットンや生理用品を巡る様々なお話をありがとうございました。
【取材を終えて】
「sisiFILLE/シシフィーユ」の商品は一目見ただけでは生理用品とは思えないパッケージで、私がふとお店で見かけた時は、「生理用品」としてではなく「オーガニックで肌に優しい商品」として販売されていたのを覚えています。商品の質を最大限高め、生活者に商品の良さをわかってもらえた上で社会性についても是非知ってもらいたいというストイックな姿勢が、生活者に愛される理由だと思います。オーガニックだけでなく、あらゆるソーシャルプロダクツに活かすことができる考え方だと改めて感じました。