日本は、まだ食べられる食品が年間646万トン(環境省推計値)も廃棄されているフードロス大国です。その廃棄量は、国連WFPによる世界全体の食糧支援量の約2倍に相当します。今回取り上げるのは、生産現場や流通過程においてやむを得ず発生し、通常は廃棄されてしまう食材(「規格外品」や「賞味期限切れ間近の品」)を、飲食店や学生寮などに販売するECプラットフォーム「tabeloop(たべるーぷ)」です。事業立ち上げの経緯やマーケティング上の工夫、今後の展望などについて、運営母体であるバリュードライバーズ株式会社の山本和真様(取締役副社長/同事業部長)に具体的なお話を伺いました。
―まずは、「tabeloop(たべるーぷ)」のビジネスモデルを教えてください。
「tabeloop」は、賞味期限の都合で店頭にならばない食品、美味しくても形が不揃い・表面に傷がついているなどの理由で市場に流通されない農作物などを販売するためのECプラットフォームです。登録料・月額費用などは一切かかりませんが、売買が成立した際に、成約額の最大15%を手数料として頂戴しています。また、売上の1-2%はFAO(国連食糧農業機関)等の飢餓撲滅のために活動している団体に寄付をしています。
売り手には、生産者、食品メーカー、卸売業者さんなどがいらっしゃいます。買い手は、飲食店さんなどの法人顧客が中心です。最初はBtoB取引のみを対象としていましたが、消費者からのお問い合わせも多数頂いたため、現在は誰でも購入できるようにしています(一部、BtoBでしか取引されない商品もあります)。
―ユーザーを獲得するための、マーケティング上の工夫などがあれば教えてください。
作り手の想いやこだわりを大切にし、それらを買い手に伝える努力を最大限しています。そのために私たちは、生産者さんから直接お話をうかがっています。農業には、実際に見たり肌で感じたり味わったりしないと気が付かない魅力が沢山あるのです。農作物の独自基準も設けているため、「tabeloop」に出品されている野菜や果物のクオリティは高いです。また、農家の方々とより密なコミュニケーションを図り、農業・販売支援に活かすため、社で都内に畑を借りて、自分たちも土仕事に親しんでいます。買い手のユーザーを獲得するためのプロモーション施策などは特段行っておりませんが、フードロスの解消といったテーマで各種メディアに何度か取り上げて頂いたことがあり、ユーザー登録数やお問い合わせが増加したという経緯があります。
―そもそも、なぜ事業を通したフードロスの解消に取り組もうと思ったのですか?「tabeloop(たべるーぷ)」立ち上げの経緯を教えてください。
弊社は元々、飲食店や小売店向けに店舗コンサルティングや、Webマーケティングの支援などを行っておりました。ある時、お付き合いのあった経営者の方から、賞味期限の都合で通常の流通ルートでは売れなくなってしまった商品の在庫に悩んでいるというお話を伺いました。これをキッカケに、2014年、賞味期限間近(1か月以上は余裕があります)のお菓子4000円分をランダムに詰め合わせて、半額の2000円で海外に向けて販売する事業「Sweets Pocket(スイーツポケット)」を開始します。ただし、この時はフードロスの解消といった点は、それほど意識しておりませんでした。
今年に入り改めて自社の強みや事業について見つめなおした際に、Webマーケティング力や既存顧客である飲食店や食品メーカーなどとのつながりを活かせる、食というフィールドの事業として着想したのが、「tabeloop」です。私自身が、元々食品卸出身の人間で、食品廃棄の惨状を目の当たりにしており、もったいないと感じる日々を過ごしていたことも事業着想に影響したと思います。
また、きちんと利益を上げた上で、社会のニーズに応えたいという思いから、NPOや慈善事業といった形ではなく、事業を通してフードロスの解消に取り組むことを決めました。
―自社の強みや顧客のニーズと、社会のニーズを結び付けたわけですね。では最後に、今後の課題・展望について教えてください。
大きく3つあります。➀ブランド毀損への対策、②食料残渣のエネルギー化、③食育活動の展開です。
➀取引先の中には、規格外品を出品することでブランドイメージを損ねてしまったり、値崩れを起こしたりすることを懸念する売り手もいらっしゃいます。例えば、「Sweets Pocket(スイーツポケット)」では、国内お菓子メーカーのブランド毀損を防ぐために、海外取引を中心に展開しています。「tabeloop」もアジア地域などへの海外展開を見据えています。
➁規格外品を「tabeloop」で出品して食品ロスを減らしたとしても、農場や食品メーカーの現場では食料残渣・農業残渣などが、どうしても発生してしまいます。弊社では、「tabeloop」の売り手からその残渣を仕入れてエネルギー化し、売り手の方々に電力を販売できないかと考えています。事業化には、まだまだ多くの課題がありますが、これに成功すれば、メーカーや生産者さんは食品を完全に無駄なく活用しきることが出来ます。今後、食品残渣のエネルギー化事業にも注力していくつもりです。
③子供たちに食べる喜びや食への感謝の気持ちを伝えるための食育活動を展開していきたいです。現在、世界的に人口増加が進行しており、食糧の大半を輸入に頼っている日本は、このままいくと将来、食べるものが無くなってしまいます。しかし、コンビニやファーストフード店が街にあふれる飽食の現在、この現実を子供たちに伝えることは難しいのが現状です。今後、飲食店などの他団体とも協力をしながら、こども食堂などの様々な食育活動を展開し、子供たちが食糧問題やフードロスについて考える機会を創出していきたいです。
「tabeloop」は、立ち上げて間もないため、まだまだ課題も沢山ありますが、直近では買い手と売り手の登録数を増やしてECプラットフォームを活性化させ、中長期的な視点では➀➁③で挙げた課題にも取り組んでいきたいと考えています。私たちは今後も、将来世代の豊かな食生活のために、事業を通して食に関する社会課題を解決していく所存です。
―ありがとうございました。
【参考資料】※最終閲覧日:2018年10月23日
◆『tabeloop(たべるーぷ)HP』(https://tabeloop.me/)
◆『Sweets Pocket(スイーツポケット)HP』(http://sweetspocket.com/)
◆環境省「平成30年度版環境白書」(http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/index.html)