25年以上にわたって、オーガニックコットン製品の企画・製造・販売を行う株式会社新藤。もともとは1962年に和装小物問屋としてスタートしましたが、時代の変化に合わせて業態転換し、1996年に日本初のオーガニックコットン専門店「天衣無縫」を京急百貨店8階にオープンしました。その後もいたずらに拡大路線を走るのではなく、堅実にオーガニック製品の普及に努めてきました。そのような天衣無縫の活動について代表取締役社長・藤澤徹さんにお話を伺いました。
―オーガニックコットン製品の製造・販売を始めて既に25年以上が経過していますが、その間の「オーガニック」に対する社会の受け入れ方についてお聞かせください。
1993年に企画を立て、1994年からオーガニックコットン製品を作りはじめましたが、最初はともかく笑ってしまうぐらい売れませんでした。まず、「オーガニック」という言葉をお客様は知らないし、それを説明して良さを納得してもらうことが難しい。しかも非オーガニックコットンに比べて原価が50%以上高くなるのでなおさらでした。しかしその翌年あたりからオーガニック食品がブームになってきました。「オーガニック」の場合はアメリカもそうだったのですが、まずは「食」。それから衣類などに波及するんですね。それが追い風になりました。
1996年に京急電鉄が初めての百貨店を上大岡にオープンする時にお誘いがあり8階のエスカレーター脇に約8坪のオーガニック専門店「天衣無縫」を立ち上げました。当初は肌の弱いお子さんがいらっしゃるお母さんたちが遠方からも来店されました。というのも、オーガニックコットン専門店が、当時は当店以外になかったからです。その後は、2000年に横浜高島屋に出店しました。その頃から世の中のオーガニックコットンに対する理解もどんどん進み、ソーシャルプロダクツの側面も評価されたのでしょう、おかげさまでリーマンショックの一時期を除いて、右肩上がりの成長が続きました。そして現在は横浜高島屋と日本橋高島屋の2店舗とWEBショップを展開し、高島屋グループを中心に全国の百貨店や専門店でコーナー展開を進めていただいています。
―オーガニックコットンを原料として使用しているとのことですが、そのような会社は他にもたくさんあります。その中で貴社が他社との差別化のために行っていることはなんでしょうか?
もちろん、オーガニックコットンを扱えば、どこの会社でも成長を続けるというわけではありません。実際にこの25年間でたくさんの会社が誕生しましたが、その多くは撤退しています。そんな中で当社がこだわっているのはまずは品質、そして飽きのこないデザインです。具体的にはオーガニックコットンの原料は米国のドーシ・アルバレス農場のオーガニック超長繊維綿を原料とする大正紡績の糸を主力としていますし、企画は外部のデザイナーと協業しながら基本的に社内で行っています。そして「天衣無縫」の語源である「自然のままで完成された美しさ」を目指しています。
最近は、大手のブランドも「オーガニック」を謳う商品を多く投入してきています。価格だけ見れば当社よりもかなり割安な印象をお客さまに与えるでしょう。しかし、日本製であること、オーガニック含有率が高いこと、さらにオーガニック製品の識別に不可欠の国際認証「GOTS」(Global Organic Textile Standard)を日本で初めて取得し、毎年実地審査を受けていること等を考えた場合は、決して「天衣無縫」が割高なわけではありません。それを最も理解していただいているのはお客様です。その結果、25年にわたって継続することが可能になっているのではないかと思います。実にありがたいことです。
―価格戦略や収益構造について、ソーシャルプロダクツ(オーガニック)特有の視点というものは必要とされるのでしょうか。
オーガニックだからといって高く売るつもりも、安く売るつもりもありません。メーカーポジションで小売をするので製造コストは通常の問屋さんより抑えられます。そして何よりも原料から最終製品の販売まで、全てのプロセスを当社が直接コントロールできるわけです。その上で「天衣無縫」であろうとすれば、自ずと最善の商品を作ることになります。
その中でこれだけは必要だという利益をいただきますが、そんなに非常識な価格になりません。百貨店が販売の拠点ですが、例えばフェイスタオルなら1000円〜1500円あたり、量販店では500円ぐらいですね。大切なのはオーガニックの第三者認証をとることを含めて「本物」を求める志ということ、それに尽きるのではないでしょうか?
―オーガニック製品を扱う中で、持続可能な社会の実現に貢献するという意識を持たれていると思いますが、その志と企業としての収益性の間で悩まれることはあるのでしょうか。もしあるのであれば、それをどのように克服しているのか教えてください。
もちろんあります。いつも悩んでいると言っても良いかもしれません。しかし当社の場合は、純度の高いオーガニックコットンを使用し、他社ではできにくい製品をより多くのお客様にお使いいただくことで売上を増やし、収益性を上げるということになります。つまりそのこと自体が有機農業の拡大と地球の自然環境(生態系)の保全に直結することになりますので、収益性と社会貢献が本質的な点で結びついた事業構造になっていると言えます。ですから「価格競争」に振り回されない「本物」を追求すること(=「天衣無縫」であること)が、両者を統合する基本的な解決策になると考えています。
―現在行っている社会的取り組みや今後の貴社の展開について教えてください。
社会活動としては「東北コットンプロジェクト」に継続的にとり組んでいます。これは、10年程前に、東日本大震災の津波によって稲作が困難になった農地にコットンを植えることで、農業再開を目指しながら、この「東北コットン」を使った新事業を創造して安定した雇用を生み出すことを目的にしています。
一方、社内的には、デザイン事務所と提携して「天衣無縫が天衣無縫になる」というブランディングプロジェクトを3年がかりで進めています。この活動を完遂することで、「経済性」と「社会性」の両立をめざすオーガニックブランドとしての「天衣無縫」の存在価値を不動のものとしていきたいと考えています。
(当記事は2015年2月に発行された当協会ニュースレターにて紹介したものを、2020年9月現在の情報に改めた記事となっております。)