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第八回:復興支援から考えるCSV

 

 今回は、「復興支援から考えるCSV ~商品・サービスを通じた2つの価値創造~」と題して、一般社団法人企業間フューチャーセンターと共催でセミナー&ワークショップを開催しました。

 

 今、多くの企業が事業性と社会性の両立を考え、CSVの取り組みを模索しています。そこで、企業がCSVを考える、これから始めるきっかけの一つとして復興支援を例に、それと関連付けながらワークショップをおこない、具体的にCSVの実践について考える初めての試みです。

 

 まずは、専門の方からCSVについての基本的な考え方と事例についてお話いただき、次に、復興につながるCSVということで宮城県がもつ資源について県庁の方にお話しいただきました。その後、CSVを実践している企業事例として、震災後、地元の資源を使って新ブランドを立ち上げた有限会社オイカワデニム(宮城県)にご登壇いただきました。ワークショップでは、4つのグループに分かれ、宮城県の資源を有効活用した新しい商品・サービスの開発についての活発な意見交換を行い、最後に、それぞれのアイデアを参加者全員で共有しました。

 

 

1.CSVの基本的な考え方と企業事例

 

水上 武彦氏

株式会社 クレアン CSV/シェアード・バリューコンサルタント

 

 CSVは社会的取り組みをビジネスの形にしたものです。いわゆる社会貢献は単なるコストと捉えられてしまうことが多いため長続きはせず、業績が悪ければストップしてしまう可能性があります。そうであれば本業に結びついた形でおこなうのがよいというのがCSVの発端でしたが、今は完全に経営戦略の位置付けとなっています。

 

CSVへのアプローチ


 CSVには、大きくわけて3つのアプローチがあります。
 ① 社会問題を解決する製品・サービスの提供
 ② バリューチェーンの競争力強化と社会貢献の両立
 ③ 事業展開地域での競争基盤強化と地域貢献の両立

 ポイントしては、「自社の強み」x「社会的課題」という「掛け算」の中からCSVは生まれます。

 

社会問題を解決する製品・サービスの事例

 

<カゴメ>
果汁入り野菜ジュース「野菜生活」季節限定商品
 「地産全消」というコンセプトのもと、メジャーではないが地域特産の果物を使ったジュースを開発し、当該果物の認知向上、消費拡大に貢献しています。おいしいジュースを作る技術、カゴメの流通ネットワーク、「野菜生活」というブランドと上手く掛け合せたCSVの例です。

 

<キリン>
「氷結和梨」
 キリンは、CSV本部を一年ほど前に立ち上げています。また、「キリン絆プロジェクト」として被災地支援に3年で60億円の拠出を約束しています。CSVや被災地支援が社内にも浸透し始め、生活者の認知度が高い全国ブランド氷結で福島の和梨を使用した「氷結和梨」を開発しました。福島の素材である和梨を使いおいしい氷結を作る、そしてそれを全国で販売することで福島の支援につなげるという仕組みです。とくにCM展開はしませんでしたが、口コミで評判となり、当初計画より前倒しで販売が終了したという、ビジネス的にも成功している実例です。

 

<ヤフー> 
「復興デパートメント」
 ポータルサイトの強みを生かし、被災地(商品)とユーザーを繋げています。

<JTBコーポレートセールス>
 全国の観光地で充電インフラの設備を整え、EVツーリズムにつなげる活動を展開しています。普及すればCO2の削減につながり、さらにはEVツーリズムという新たな旅行需要を喚起することが可能です。

バリューチェーンのCSV事例

 

バリューチェーンに関しては、8つのパターンがありますが、復興支援という観点から見た場合、「サプライヤーの育成」および「従業員の生産性向上」が挙げられます。
まず、「サプライヤーの育成」に関しては、例えば、食品関係であれば、農家の支援・強化があります。農家を育成し、よりよい品質の原材料を安定的に供給してもらうことで自社の競争力強化につながる、つまり、農家支援が自社の競争力になるということです。

 

<伊藤園>
 高齢化が進む農家を支援。さらに、耕作放棄地も茶畑に替え、茶葉の安定調達・品質向上を実現しながら、国産茶葉100%のおいしいお茶を継続的・安定的に提供しています。

 

<伊藤忠>
 「プレオーガニックコットンプログラム」の推進。綿農家の有機栽培への移行を支援するプログラムで、有機綿への移行期間中に生産された綿花を「プレオーガニックコットン」としてブランド化し、アパレルと取引しています。

 

 次に「従業員の生産性向上」についてです。これは、例えば、社会的課題となっている女性や障がい者の活用など、今はまだうまく生かされていない力を活用することで生産性の向上に結び付けることです。被災地では、被災した方々の経験、経験を通して培われた強さなどを企業の力としてうまく活用できる可能性があるのではないかと考えます。

 

クラスター基盤の強化の事例

 

 これは、企業を支えているもの、ビジネスを取り巻く環境を整備・強化するという考えです。

 

<トヨタ>
 事業インフラの強化として、とくに大事なことは人材の育成ですが、トヨタの場合、東北でも「東日本学園」をつくり人材を育成していますが、それを世界で実践しています。また、社内の人材を育成することは重要ですが、トヨタの場合、入社をしていない社外の人々の教育を行って基盤づくりをしています。

 

<三菱地所グループ>
 地域活性化のためにNPOと連携して、農村と都市(丸の内)をつなげるプロジェクト「空と土プロジェクト」を推進。都市住民には自然と触れ合う機会を提供、そして、農村地域の人々には、都市での農産物の販売機会の提供などを行っています。

 

 以上がCSVの3つのアプローチに関連するそれぞれの事例ですが、CSVの基本は、自社の強みを生かした社会的課題への対応により、経営課題を解決する、企業にとっての価値を生み出すということです。

 

2.宮城県の復興状況と資源について

櫻井 達夫氏

宮城県東京事務所 次長/企業立地・観光物産担当

 

 今回は、東日本大震災の概要と復興状況についてお話した後で、宮城県がもつ資源について簡単に説明いたします。

 

震災の概要と復興状況について

 

<被災の状況>
・最大震度は、県北山沿いの栗原市で震度7
・浸水面積は、県の面積の4.5%で、被災地全体の60%
・住家被害も宮城県が一番大きく、被災地全体の60%
・亡くなられた方も多く、宮城県の200人に1人が犠牲に
・被害額は、9.2兆円程度でこれは宮城県の一般会計のおよそ11年分に相当

 

<復旧・復興の進捗状況>
・県民の約25人に1人が仮設住宅に入居
・建築・土木など復興関連の有効求人倍率は高いが一般事務などは低く、求人・求職のミスマッチの発生
・災害公営住宅については、整備予定戸数15,000に対して完成戸数は322戸
・高齢者(病状の悪化など)や子供(不登校など)に長期化する仮設住宅暮らしの影響
・イチゴやコメ栽培の再開など、農業の普及については90%程度まで回復
・例えば、南三陸町では街中での商売はまだ再開できないため、仮設の商店街で事業を再開
・商工業の復旧状況に関しては、沿岸地域でも81%まで回復しているが、南三陸町や女川町では55%程度(同じ沿岸でも地域によって異なる)
・水産業に関しては、平成22年の水揚金額約602億円に対して平成25年度は約473億円で80%程度まで回復

 

<今後の展開について>
・震災前の状態に単に戻すのではなく、先進的な復興モデルを構築するために「創造的な復興」を目指している
・創造的な復興の具体的政策として、特に、「水産県宮城の復興」および「東北全体の発展」を見据えている
・復興に要する期間を10年として「復旧期」「再生期」「発展期」の3つに区分、この間必要とされる費用は12兆8,300億円にのぼる
・今後の課題としては、恒久住宅の整備と被災者への生活支援、雇用や復興に必要な人材および資材の確保がある

 

宮城県の資源について

 

ここからは、宮城県がもつ資源などについてお話いたします。

 

<宮城県の概要>
・就業人口の70%は第三次産業に従事
・農業就業人口は約7万人で全国16位、漁業就業者数は約9700人で全国第6位
・県土面積の57%が森林、農地は17%で宅地は6%程度
・人口は約235万人
・真冬日・真夏日ともそれ程多くなく過ごしやすい気候
・仙台塩釜港、仙台空港など東北の表玄関口の存在、ならびに、整備された高速・道路網
・宮城県は土地がまだ安いため、企業誘致に尽力

 

<資源>
・自然 :温泉、山、海など
・伝統文化 :仙台七夕祭り、伊達正宗公ゆかりの文化財など
・伝統工芸 :こけし、漆器など
・農産物 :米(ササニシキ、ひとめぼれ)、仙台味噌、仙台牛、宮城野豚など
・水産物 :マグロ、サンマ、カキ、フカヒレなど
・都市基盤 :新幹線、仙台空港、高速道路
・プロスポーツチーム :東北楽天ゴールデンイーグルス(野球)、ベガルタ仙台(サッカー)、仙台89ERS(バスケットボール)
・商業施設 :近隣県からも買い物客が訪れる東北最大の商業都市
・工業 :食料品関係
・農業 :セリおよびミョウガダケは全国1位、米は全国6位の生産量(平成23年)
・林業 :薪が全国一の生産量(平成22年)
・水産業 :全国2位をほこる生産量。ギンザケ、サメ類、カジキ類は全国一の生産量。その他、サンマ、カキ類、アワビ類、ワカメ類は全国2位の生産量(すべて震災前の平成22年)

 

 水産業について補足いたします。カキについては、震災前の平成22年、全国2位の生産量をほこりましたが、地震により大きな被害を受けました。現在、水揚量は震災前の4割まで回復していますが、販売の落ち込みは続いています。また、価格も当時と比べ3割程落ちています。つまり、一度失った販路および価格はなかなか元には戻らないというのが現状です。しかし、これはカキ・水産業のみならず、他の加工物についても同じことが言えます。「復旧はした、モノは作れるようになった、しかし本当にうれるのか」、これが今の課題となっています。

 

 宮城県は、全国の個人・企業の方々、さらには海外からも沢山の支援をいただきました。これかも復旧・復興に尽くしてまいりますので、今後ともご支援を宜しくお願いいたします。

 

3.企業事例
「気仙沼発 地域資源有効活用の最大化」

 

及川 洋氏 

有限会社オイカワデニム 常務取締役

 

 オイカワデニムは、気仙沼地域の資源の有効活用を軸にした新ファッションブランド「SHIRO」を立ち上げ、地元発の新技術を使って地場産業の開発や発展に貢献し、さらには雇用を同時に作り出すという取り組みを行っています。

 

オイカワデニムの企業特性

 

 まず、この新ブランドを立ち上げることができた背景についてご説明します。当社は1981年に創業しているのですが、30年を超える歴史の中に、独創的な商品を生み出す土台がすでにありました。

 

① 純日本製にこだわった生産スタイル
② 上質を追求するスタイル
③ 独自技術によるオリジナルブランド「スタジオゼロ」の展開

 

高品質な100%日本製から生まれる競合優位性

 気仙沼のキャッチフレーズは「海とともに生きる」ですので、漁師町からのファッションリーダーとして、地域資源を活用した新ジャンルの産業を興し、地域の発展に大きく寄与したいと考えています。

 

 そうしたことに確固たる自信をもって取り組める理由として、100%日本製で高品質に拘ったオリジナルブランドのデニムを作り続けた結果、販路がヨーロッパにまで拡大していったという事実があります。国内の洗練された素材を使い、高品質な商品をプライドをもって作る、その信念が海外の取引先にも伝わったのです。

 

 この経験から、私たちは、世界に通用する本物は、自らの信念に基づき、メイド・イン・ジャパンを極めることだという確信を得ました。

 

地域資源の活用と新事業

 

 今回立ち上げた新ブランド「SHIRO」は、今まで廃材などとして使われていなかった気仙沼の地域資源を見直し、、加工を施すことで高付加価値化したものです。具体的に言いますと「SHIRO」には、気仙沼の資源であるサメの革、貝類、大猟旗、漁網などを使用しており、気仙沼カラーを前面に出しています。このような商品をつくった理由として、震災で多くのものを失ったため、気仙沼とまずしっかり向き合分ければならなかったという事実があります。

 

 今回、材料としてサメの革を使用したことで、水産加工会社に「サメの革を鞣す」という新しい事業が生まれましたし、それを原材料として他に流通させることも可能となりました。

 

 地産を謳った商品は土産物となることが常ですが、「SHIRO」は違います。なぜなら、地元住民は地元資源の素晴らしい価値に気付き、生活者は製品の新しい価値に気付き、そして働く人は仕事へのプライドを感じ、それが、経済的・精神的復興に繋がり、土産物以上の価値を発信することができている(そうできると確信している)からです。

 

 ノーベル平和賞受賞・グラミン銀行創設者・ムハマド・ユヌス氏が気仙沼を訪問された際に、「人が人として生きる環境を作るには、行政のみならず企業も努力する必要がある」といわれたのですが、この言葉が私たちの自信と思いをさらに深めています。

 

「SHIRO」について

 

 メインターゲットは気仙沼に感度の高い生活者をまず想定しつつ、市場については国内外での開拓を続け、他業種ともコラボ企画を打ち出しています。製造には被災失業者を優先的に雇用しているのですが、高品質を保ちながらも、縫製未経験者でも縫製できるように、やさしいデザインとなっています。また、縫製未経験者に対して一年間という独自の職業訓練期間を設け、終了後はオイカワデニムの本体(「SHIRO」以外のブランドの製造ライン)への異動も可能となっています。

 

 さらに、この商品の売り上げの一部は、地域の子供を育む施設や海外の被災地域への寄付にも使われています。

 

 オイカワデニムでは、①地域資源を再認識する、②今まで価値を評価されていなかったものに命を吹き込む、③地域の人たちの価値への意識を変える、④そうした取り組みの中から生まれる新しい仕事を創造する、⑤オイカワデニムだからできる新たな地域の発信をする、という考えがあり、これが事業全体の芯となっています。

 

 震災が始まって開始した事業は、この3年間売り上げは伸びていますが、まだまだこれからと私たちは思っています。

 

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