2015/12/28
第十六回:2015年におけるソーシャルの動向および2016年の展望
ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2015年12月8日、「2015年におけるソーシャルの動向および2016年の展望」と題したセミナーを開催しました。その概要をご紹介します。
第1部:「マクロ視点で振り返る2015のソーシャル ~ソーシャル領域の世界の潮流~」
株式会社ニューラル 代表取締役 夫馬賢治 様
2015年は、「ソーシャル」にとって海外でも日本でも激動の1年でした。そしてこの1年で最も変わったのは、投資家です。キーワードは「ESG」で、この言葉が今後とても重要になってきます。ESGとはEnvironmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治:ガバナンス)の略になります。投資する時にこの3つの側面をきちんと考慮しましょうという流れに世界は変わってきており、これをESG投資と言います。(これまで日本ではこのESG投資を社会貢献投資と呼んできました。)
世界の株式市場の中で、このESG投資は、どんどん伸びてきており世界の投資全体の20%に達しています。ちなみにヨーロッパでは58.8%、米国では17.9%、アジアでは0.8%がESG投資ですが、日本はまだ0.2%です。これまでESG、つまり社会や環境に配慮することと投資リターンはこれまで相反するものと考えられてきましたが、今では矛盾しないという考えに変わってきており昨年の英国政府委員会報告書には「(投資では)ESGや倫理を考慮すべき」とも記されています。このようにアジアを除く世界の投資家の意識は大きく変わってきています。
そうした中で、投資家は企業に対して、社会や環境、ガバナンスに対してどういう取り組みをしていくのかという問いを突きつけますし、企業もまたそれに答える必要が出てきています。こうした流れは、今年のフォルクスワーゲン事件で、同社の株が急落したことで一層強くなりました。
国内の市場では、個人投資家の売買比率が低下する中で外国人投資家の保有比率が増加し、今や30%を超えてその存在感が増しています。このような状況になると、ESGなどの取り組みについての詳細な説明を、特にヨーロッパからの投資家から求められるようになるでしょう。
昔から、上場企業は、財務情報、すなわち決算短信・財務諸表・有価証券報告書などを発行しており多くの投資家に読まれています。一方、日本ではCSR元年と言われた2003年以降、CSR報告書も作成されるようになりましたが、こちらは今まで読者不在と言われてきました。ただ、これも大きく変わりつつあります。
EUなどでは既にこのCSRなどの非財務情報の開示を義務付けしていますし、SSE(国連持続可能な証券取引所イニシアチブ)は9月に、世界の証券取引所向けにESG情報開示に関するガイダンス見本を公表しています。このように今までは財務情報だけが企業の開示すべき情報でしたが、同じように非財務情報の開示も求められるようになってきたのです。そして、財務情報と非財務情報を統合した報告書、つまり統合報告書がこれからの主流になっていくと思われます。この流れはソーシャルにとっては追い風です。というのも今まではCSR報告書のみに記載されていたソーシャル関連の話題が、統合報告書にも含まれるようになることで、投資家が読むようになるからです。
企業自身が競争力をつけていくために、今後はCSVについて考えることが必須になります。そしてそれ自体が新たな事業になったり、新たなコスト削減を考えていく上で有効な手段になっていくでしょう。
2015年はソーシャル、環境、経済合理性の3つが融合してきた一年でした。今後、ソーシャルプロダクツを扱う方には、今まで以上にこの3つについての具体的な説明が求められると思います。また2016年は、B2B向け製品・サービス市場で、先の3つの融合がより進んでいくのではないでしょうか。
第2部:「ミクロ視点で振り返る2015のソーシャル
~おさえておきたいソーシャルプロダクツや最近の社会的取組~」
ソーシャルプロダクツ普及推進協会 専務理事/事務局長 中間大維
生活者の社会的意識は、前年に引き続き高まっています。まず国内に関しては、SoooooS.が行った調査によると、「商品の背景やストーリーまで含めて商品の価値と考える」人が60%いますし、55%の人が「安いものを見つけた時より自分が買う商品がより良い社会づくりにつながることの方が嬉しい」と答えています。また「社会性のある商品を将来買いたい」人は40%超で、「今後そうした商品が増えていく」と考える人も80%います。このように生活者の社会的意識は高くなっているのですが、その一方で、大手企業のソーシャルプロダクツでも、その社会的取り組みの認知があった上での購入は20%程度に留まっており、ギャップがあります。このギャップを埋めていくようなコミュニケーション開発は今後の課題です。
海外に関しては、ニールセンが行ったグローバル調査によると、「社会や環境に良い影響を与えられる製品・サービスには少し余分にお金をかけても良い」とした人の割合で、年収2万ドル未満の世帯(68%)が年収5万ドル以上に世帯(63%)を上回るという結果が出ています。
ソーシャルプロダクツに関しては、「お金があるからそのような製品を選ぶのではないか」とか「余裕があるから、そのような選択ができるのではないか」と思われることが多いのですが、これは必ずしも事実ではありません。その生活者の周り(身近)に社会的な課題があるか否かが重要になってくるのです。年収が低くても自分たちの周りにそのような問題があれば、当然社会的意識、関心は高まります。日本においても、今後は高齢者などの社会的弱者が増え、地域の過疎化も進んでいいきます。さまざまな社会的課題が顕在化することで、同じような現象が起きるでしょう。
先ほどコミュニケーションのことに少し触れましたが、ソーシャルの場合、悲惨な状況をそのまま伝えても、ほとんどの生活者に響きません。多くの人に広く社会的課題や取り組みを伝える上では、コミュニケーションにインパクトと遊び心が必要です。例えば、WWFジャパンは、活動の認知度向上に向けて「パンダフォント(パンダをあしらったフォント)」を開発しました。これは、そのかわいらしさでまず関心を持ってもらい、そこから本質の理解につなげていく良い事例です。
新しいソーシャルプロダクツについてですが、フェアトレードに関しては、今年は全般的に小粒で、あまり新しい動きは見られませんでした。国内のフェアトレード市場は、5%の小幅な伸びで、約95億円の規模となっています。ちなみにグローバルの推定市場規模は、世界125か国で約59億ユーロ(8,300億円、2014年)となりました。特に、コットンは対前年比28%増、カカオは同24%増と販売量が大きく増加しています。
環境配慮・3Rに関しては、欧米のファッションブランドの動きが活発な年でした。ファストファッションはさまざま問題を抱えているのは事実ですが、単純にひとくくりにしてしまうのは乱暴だと感じています。例えば、知名度が非常に高いH&Mですが、同社は洋服の使い捨て問題について非常に危機意識を持っており、今回、古着回収で集まった生地をもとに生み出したリサイクルコットンを使うデニムコレクションを発表しました。 また、アディダスは、使用済みのスポーツ用品を微粉砕して、廃棄物ゼロ、接着剤不使用のプロセスで再生するというプロジェクト「Sport Infinity」を発表しました。これによって、二度と使い捨てされることがない新しいスポーツ用品の開発に取り組むとのことです。
オーガニックについてですが、こちらのマーケットは順調に拡大し、商品もさらに増加しています。OTA(オーガニックトレード協会)の調査によると、米国のオーガニック食品市場は、2014年、360億ドルに達し、2004年から2014年までの間に3倍以上になっていますし、MarketsandMarketsの予測によると2015年の世界のオーガニック食品・飲料の市場規模は1045億米ドルで、こちらは2010年の2倍となっています。
オーガニックコスメは、前述したように、今年も本当に多くの商品が内外のメーカーから発売されました。その「オーガニック」の基準は、認証団体によって異なっているのですが、それによって混乱も起こっています。そこで、ヨーロッパの有力5団体「ECOCERT(フランス)」「COSMEBIO(フランス)」「ICEA(イタリア)」「BDIH(ドイツ)」「SOIL ASSOCIATION(イギリス)」がオーガニック認証製品の世界基準を決めようと立ち上がり、「コスモスオーガニック」という基準が策定されました。
寄付つきの商品を見ていきますと、TFT(Table for Two)の活動の広がりが目につきました。また、新しいタイプの寄付き商品・サービスとして、利益の半分を地域に寄付する大阪の地域ドメイン「.osaka」や、地震保険の契約件数に応じて、防災対策費を地方自治体等に寄付するような商品も見られました。
その他の押さえておきたいソーシャルの動きとしては、ソーシャル・インパクト・ポンドがいよいよ日本でもスタートしたことが挙げられます。民間の力を活用して低コストで社会的課題を解決しようというこの取り組み。今回テスト的に行われたのが、特別養子縁組を促進することによって、児童養護施設などにかかるコストを削減する試み(横須賀市)です。仮に特別養子縁組が目標の4人に達すれば、児童養護施設にかかる市の負担などが約3500万円軽減され、特別養子縁組を成立させるための事業費1900万円(人件費、カウンセリング費など)を差し引いても、1630万円の行政収支が改善されるとしています。
また、消費者庁が「倫理的消費」調査研究会を立ち上げたこともおさえておいたほうがいいでしょう。日本で倫理的消費が根付くのか、あるいは倫理という考え方に基づいた消費が成立していくのかは、未知数ですが、国の機関がこのような動きを始めたということは非常に重要で、今後注目していきたいと思います。