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第十九回:新しいルールづくりによるソーシャルプロダクツのマーケット開拓・活性化

テーマ:「新しいルールづくりによるソーシャルプロダクツのマーケット開拓・活性化」
日時 2016年10月7日(金)18:30-21:00場所:ソーシャルプロダクツ普及推進協会会議室

より良い社会づくりへの影響が期待されるソーシャルプロダクツ。しかし、商品(カテゴリ)に関しては確立された様々なルールや慣習、考え方があり、それが普及を難しくしているというケースもあります。そういった状況を打開するヒントの一つとして新たなルール作りがあります。

今回は、自ら新しいルール作りを行い、ソーシャルプロダクツの普及を成功させている企業の事例を伺い、その仕組み作りとポイントについて学びました。会場には、ソーシャルビジネスの経営者や企業のマーケティング担当者、ソーシャルプロダクツを学ぶ学生、メディア関係者が集まり、講演の後には意見交換も行いました。

第一部「CSVとルールメイキング」
水上武彦 様(株式会社クレアン チーフCSVオフィサー、一般社団法人CSV開発機構 副理事長)

ビジネスで社会問題に取り組むCSVが誕生した背景には、近年の著しい人口増加の問題が関係しています。最近200年で地球の人口は6倍に、それに伴い経済規模が50倍に急増したのです。それに合わせて、企業のバリューチェーンが世界中に広がり、児童労働や水資源の枯渇、熱帯雨林の違法伐採などが横行しました。これらの問題は人類の持続可能性(サステナビリティ)への懸念を増大させ、企業に対する問題解決の期待、要請が高まりました。こうして、企業がビジネスを通して社会的問題に取り組んでいこうというCSVの考え方が登場したのです。

企業の社会的取り組みを促すため、様々な国際的フレームワークが提示されました。その中の代表的なルールとして、国連事務総長特別代表のジョン・ラギー氏がまとめた「ラギーレポート」があります。ここには、ビジネスと人権に関する指導原則が示されています。企業が人権尊重の責任を果たすための「保護、尊重、救済」の枠組みを31の原則として整理したものです。これまで、人権問題は政府が取り組むべきと見なされていましたが、ラギーレポートの提示により、人権に対して企業が責任を負うべきという考え方が生まれました。

また、2015年には全国連加盟国で「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されています。「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「ジェンダー平等を実現しよう」「働きがいも経済成長も」など、途上国だけでなく先進国の課題も含めた、企業に取り組んで欲しい17の目標が定められています。まだ取り組みが始まって1年しか経っていませんが、政府レベルで議論されている新たなルール作りと言えます。

近年、企業の社会的取り組みが人材確保や株価にも影響を与えています。若い世代の人々ほど社会問題に関心が高く、就職する企業を選択する上でCSR/CSVの在り方を重視する学生が増えています。投資家も環境や社会への取り組みへの関心を高めているため、企業にとって今や社会的取り組みは無視できないものとなっています。

CSVの推進には、特定のパターンが存在します。1つ目はビジネス戦略としてのCSVです。社会問題を機会とする新事業・新市場開発を行うこのパターンは、「製品・サービス」「バリューチェーン」「ビジネス環境」の3つのアプローチを基本として成り立っています。自社製品を売りやすくするためのルールメイキングは「ビジネス環境のCSV」の中に含まれ、人々が自分たちの製品を好ましく思えるように意識を変えていこうとする、企業の外側の活動です。グローバルなIT企業がITを使える人を増やすために教育を提供し、市場拡大を目指すこと(IT人材を確保した上で、ITを使ったビジネスをある種のスタンダード・ルールにする) もその一つの例と言えます。

2つ目のパターンは、コーポレート戦略としてのCSVです。製品ではなく、パーパス(自社の存在目的)から戦略ポジショニングを行う企業が増えています。スポーツ用品を扱う「ナイキ」の戦略を事例の一つとして取り上げると、かつてスポーツシューズやウェアを販売していた同社は、現在“世界の人を健康にする会社”へとポジショニングチェンジを行いました。シューズにセンサーをつけて健康管理ができるようにするなど、人々の健康を重視する製品開発を行い、マーケットを広げています。パーパスによるリブランディングを行い、自社の魅力を高めた成功例です。パーパスから入ることで、固定観念を崩し、新しいルールを作ることもできると思います。

新しい事業や市場を創造するためには、「製品・サービス」「バリューチェーン」「ビジネス環境」が揃う必要があります。特に社会に価値を生み出す製品・サービスを広げるためのインフラ作り、ルールメイク、社会に対するマーケティングが市場創造のカギを握っているのです。

現在、様々な企業やNGO、政府がコラボレーションし、社会的問題に取り組んでいこうとする動き(欧米で進んでいる持続可能なパーム油に関する認証制度などもその一つ)が見られます。そういった動きの中で新たなルールメイキングが為されていくことが予想できます。欧州諸国に比べて日本のルールメイキングはまだレベルが低いかもしれませんが、工夫した独自の市場作りを行っている企業も登場しています。こういった身近な市場作りからも、CSVが広がっていくことを期待しています。

第2部「商社が行うCSV。オーガニックコットンの広め方」
溝口量久 様(豊島株式会社 営業企画室 室長、一般社団法人エシカル協会 理事)

我々が推進している取り組み「オーガビッツ」とは2005年より始まったオーガニックコットン普及のためのプロジェクトです。100%のオーガニックコットン商品を10人に届けるよりも10%でも良いから100人、1,000人に届けようという逆転の発想で2013年にグッドデザイン賞、2015年にソーシャルプロダクトアワードを受賞しました。

オーガニックコットンとは、農薬や化学肥料を3年以上使わない農家で有機栽培された綿花のことを言います。この厳しい基準をクリアすることは、農家にとっても負担が大きいことです。昔は有機栽培が当たり前でしたが、文明化と共に農薬が進歩し、多くの農家で使用されることになりました。後進国では農薬から身を守るためのしっかりとしたマスクがなく、農家の人々の健康被害が深刻な問題となっています。農薬を使用しないオーガニックコットンは、そのような背景から30年ほど前に登場したのです。

オーガニックコットンを最も多く生産しているのはインドで、全体の生産量の67%を占めています。H&Mやナイキなどの有名ブランドは積極的にオーガニックコットンを製品に使用していますが、生産地域の紛争や疫病の影響により生産量は減少しているのが現状です。また、オーガニックコットンは通常の綿花に比べて価格が3〜4倍ほど高いにも関わらず、品質は通常のものと変わりません。肌に良いというイメージがありますが、実際にはそういった効果はありません。そして、生産農家の方にとっても、農薬を使用しない綿花の栽培は非常に手間がかかります。この悪循環がオーガニックコットンの市場拡大と生産量の増加を阻んでいると言えるでしょう。

このような現状を鑑み、豊島株式会社では発想を転換して「オーガビッツ」のプロジェクトを始めました。オーガニックコットンは100%でなければいけない、染めてはいけないという従来のイメージ(暗黙のルール)を打ち破り「オーガニックコットンを10%(以上)使えば良い」「プリントや染色をしても良い」という新しいルールを作り、業界に浸透させていったのです。もちろん、検査機関と契約をして糸の証明書を発行したり、流通過程の情報管理を行いトレーサビリティーを可能にするといったことはしっかり行いました。その結果、顧客であるファションブランドでは、少しずつオーガビッツ製品が売れ始め、オーガニックコットンの服にプリントをしたり、麻を混ぜた服を開発したり、自由な発想でオーガニックコットンが広がっていきました。オーガニックコットンは100%でなければいけない、染めてはいけないという常識は業界人が勝手に思っていたこと、一部の団体などが勝手に決めていたことだと気付きました。

プロジェクトのセカンドステージでは、オーガビッツのファンドを設立しました。社内に口座を作り、寄付金付きの下げ札を服につけてブランドに収め、集められた寄付金がNPOや財団に寄付される仕組みを作りました。これまではオーガニックコットンを普及するだけでしたが、ブランドと目的を共有し、服を通して社会的な取り組みを行うことができています。

さらに、プロジェクトは共感をビジネスにする第三ステージへと進んでいます。今年、母親たちの意見を取り入れた子ども服を作り、ファッションショーを行いました。服には寄付金をつけ、子ども食堂を作ろうという動きに発展しています。イベントを通して共感を生むことで、ファッションブランドの価値も上がってくると言えます。また、今年の夏にはフェスに参加し、寄付金付きの赤鼻のスヌーピーのTシャツを5千枚売り上げました。集まった資金は、クリニクラウンの活動を支援するために使われます。フェスの場でTシャツを買う、ということが人々の共感に繋がりました。オーガニックコットンをこのような形で積極的にプロモーションと絡めていくことも、旧来のイメージを覆す新たなルール作りかもしれません。

また、オーガビッツでは、栃木県の渡良瀬遊水池の近くに綿花畑を作り、ファッションブランドも巻き込んでオーガニックコットンの栽培を行っています。土に種を蒔き、そこから服が生まれることを業界の者が忘れてはいけません。10月末には、渡良瀬遊水池でランニングイベントも開催予定です。今後も色々な人の手を借り、ある種の新しいルールを作りながら(旧来のルールを壊しながら)楽しくオーガニックコットンを広めていきたいと思います。

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